雨音⑤


  毎日どこか必死だったけれど、子どもは順調に成長していった。
夫の休暇が続き、自分の実家へ子どもを連れて行ったり、夫の両親に
会わせたり、育児サークルに入ったりしているうちに忙しくなり、
ときどき金縛りにあっても慣れてきて、あいつもあらわれなくなった。
けれどもわたしの足の裏は、いつもいったいどこに着いているのかわからないような、安心なのか不安なのかよくわからないままで移動していた。


 雨が降っていた。
「なんのおと?」とこどもが聞く。
「雨の音よ」
「ざーざー」
「そう、ざーざーってね」
「あめのおと、うるしゃい」
「…そっか、でも大丈夫よ、眠ってしまえばね」
「うるしゃい!」
「はいはい、うるさいね、もう寝ようね」
子どもを寝かしつながら、こめかみをマッサージしていたら。

ーーうそつきーー
あ、まただな。金縛り。あいつ、ひさしぶり………。
ーーうそつき!--
「……何がよ。」

 あいつはわたしの体の上に乗って、わたしの首をしめようとしていた。
でも全く痛くない。
おおきく見開いた目から涙がぽろぽろ落ちてきて、わたしの顔にも落ちてくる。わたしは口を開けて、あいつの涙をのみ込んでいった。
ーーほんとにそれでいいの…?あたしはどうなるの…?ーー
「なんか、わたしがさみしいとか、勘違いしてるみたいだけど、わたしはこれでいいの。なんなの?わたしに嫉妬してるわけ?」
ーー……ぜんぜんちがう……ーー

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