向かう席

小本三次郎。19歳。
都内の大学に通う1年生。文学部。
神奈川に実家を持つが、大学生という事で一人暮らしを開始。しかし、良い家が見つからず、結局横浜市内のアパートを借りた。大学までの所要時間は実家からとさほど変わらない。

華はない。
女の子が多い大学ではあるが、そういう類の話もない。
魔法使いまでの道のりを順調に歩んでいる。

幸にして、所属学科が少人数であるため、学科内での仲は良く、授業で完全ボッチになることはそこまで多くない。
だが、小本自身、1人になることに対して嫌悪感は特になく、学科授業以外の授業は1人で受けることも多い。

アルバイトは塾講師。
名門大学というだけで採用はスムーズにいった。
担当教科は小中学生の理科以外。高校生の文系科目。
時給もそこそこ良く、生活には困っていない。


さて、今日は土曜日。
午後の3時からそのアルバイトに行く。
個別と集団の授業、両方を持っているが、今日は個別。
自分を指名してくれている中学生の女の子の授業だ。
授業は英語と社会。
彼女がとっても苦手な科目。
いや、というか勉強全般がダメなのだが。

というわけで、家を出る2時半まではフリー。
家でやりたい放題だ。
適当に朝飯食べて、ゲームでもしてよう。


ハイ、ポチっとな。
今日は有名なRPGゲームをやる。
モンスターを捕まえて、リーグに挑戦し、その地方のチャンピオンになるゲームだ。

俺はもう発売した次の日にはリーグチャンピオン。
今は図鑑の完成に勤しんでいる。

常々思うが、こういうゲームは性格が出る。
俺の友人はチャンピオンになった瞬間、やめてしまったし、実況動画を見ていると、可愛いモンスターだけで物語を進めようとする人もいる。
俺はチャンピオンになってもこのゲームを擦り続けてるし、モンスターは見た目ではなく性能重視。
例え、ずっと手持ちに入れていたモンスターでも、使えないとわかればすぐに切る。

人付き合いもゲームのプレイの仕方のようにわかりやすく表れてくれればいいのになぁと常々思う。
なぜひた隠しに振る舞うのか。
最初からあっけらかんにいけば、人付き合いで失敗はないだろうに。

特に女性。
本性がわからなすぎる。一応、俺にだってわかるさ。俺なんかに自分の本性を晒す必要性なんてないって事に。
しかし、上っ面と本性が冷戦期の米ソ並みにかけ離れている場合もある。
もし、その女性に好意を寄せていた場合、そのような時のショックは計り知れない。


今は平安時代じゃない。顔を見せない時代は終わった。
最初から出そうじゃないか、自分を。そうでないと俺には女性付き合いは難しすぎる。だから未だにさくらんぼ生産工場となっているんだ。俺は。

さて、ゲームゲーム。
俺は今日中に図鑑を完成させたいんだ。
なんか曜日限定でしか出現しないモンスターもいるらしいから、しょうがないが、ゲーム本体の時間をいじらせてもらう。
小学生の時から使っていた手だ。

育成はしない。全てのモンスターの。
だって、めんどくさいし、未来のない奴を育てたって意味がない。捕まえても牢屋行き。
強い素体だけが旅に加われるという実力主義を我が旅では採用していた。




そんなこんなでかれこれ5時間。
8時から始めた旅は既にお昼。
現実世界の外も日が昇り、暖かくなってきていた。

一度、ゲームを閉じ、台所へ向かう。
昼飯を食べなければならない。

適当にカップラーメンでいいだろうと、お湯を沸かし始めた、その時。
左手に持っていた携帯が震える。

小本はその画面を見て、LINEを開く。

「サンちゃん。明後日の一限休講キタ」


今日は少しばかりカップ麺を固めで食べた。



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