向かう席

「真奈ちゃーん。起きてるー?」

「」

「今日は冬季講習最初の授業ですー。部活明けなのはわかるけど頑張ろー?」

「」

(さて、どうしたものか。部活後の塾というのは生徒にとっても講師にとっても大敵。一度、眠くなってしまったが最後。際限のない睡魔に常に襲われ続ける。打開するには、一度思いっきり寝てしまうか、驚かせたり、笑わせたりして、気を紛らわせるか。むろん、俺の手は後者。真奈ちゃんを本気で寝かせてしまっては授業が2コマ分無駄になってしまう。俺の話術でなんとか起こすしかない)

「真奈ちゃーん。物真似するよ。『殴ったね。お父さんにも殴られたことないのに!』」

「」

「真奈ちゃん!一緒に絵描こう!ほら、みて!楔形文字!」

「」

「真奈ちゃーん。真奈ちゃーんこ鍋」

「」

「今日は授業なし!俺と遊ぼう!何する?」

「」

「寺見さん、こんにちわ。今日も頑張りましょう(塾長の真似)」

「」

(想像以上だー!まずいぞ。本格的に授業が吹っ飛んじまう。考えろ。中2女子じゃない。真奈ちゃんの興味のあるものを考えるんだ。ほかの子の当たり前がこの子に通用するなんて思うな!)

「ネギトロ」

「ん」

「うわぁ!起きた!」

「何で驚いてるの」

「まさかネギトロで起きるなんて」

「好きな食べ物だもん。餃子も好き」

「餃子ね。覚えとく」

「今から何やりますか」

「授業です。時間がないので」

「寝たから、真奈元気だよ」

「よし。今日は社会なんですよ」

「あと30分後に起こしてね、先生」

「待て待て待て待て」

「うわぁぁん、やりたくない。歴史やりたくないよぉ」

「今日は古墳時代よ。面白い時代だから」

「絶対面白くない」

「じゃあさ、最初は写真から見せるね。これは何の形でしょう!」

「チ〇コ!」

「いけません!」

「だって、そのまんまじゃん」

「人のお墓を性器呼ばわりしてはいけません」

「じゃあ、テルテル坊主!」

「うん、さっきよりはいい答え!」

「違うの?正解なに?」

「いや、特に正解はないです…」

「塾長ー、小本先生がチ〇コの写真見せてきました」

「いやぁ!やめて!塾だけじゃなくて犯罪になっちゃうから!てか、チ〇コじゃないって」

「じゃあ、これなんですか」

「これはお墓です」

「変なの」

「まあそういわないで。このお墓、バカでかいです」

「誰の?」

「昔の王様の」

「なんでこんな大きくする必要があるの?」

「俺はこんなに凄い人だったんだってことを示すためだよ」

「死んだらもう終わりなのに。欲張りな人たちだね」

「これから先も、王とか将軍とかは自分の生きた証ってのを残していくってことを習うよ。誰が何を残したかってのを覚えていかないとね」

「めんどくさいなぁ」

「大事なことだから」

「覚えて意味あるの?それ」

「受験に役立つよ」

「日常生活は?」

「ないな。これ覚えてたから生活が豊かになりました!とかはないだろうね」

「じゃあやりたくなーい」

「でも、この形、凄いでしょ。なんでこんな形にしたのかとかロマンがあるじゃん」

「先生、頭打ったの?おかしいよ」

「いやいや。至って普通だよ。ほら、昔の人も俺たちと同じ日本人だったんだよ?そういう人たちが何でこんなことしたんだろうって思わない?」

「ぜっんぜん思わない。この人たち、宇宙人なんだよ」

「ほんとに??」

「だってこんなこと普通思いつかないもん。どっかで宇宙人だった人たちがいなくなって、日本人がやってきたんだよ」

「もしそうだったら、大ロマンじゃん」

「絶対そうだよ。おかしいもん。自分のお墓をチ○コの形にはしないもん」

「だから違うんだって。それを目指して作ったわけないじゃん」

「変な形なのは変わりないじゃん」

「まあね。でもそこがいいんだよ」

「先生って本当におかしいね」

「そんなことないよ。で、この古墳なんだけど、当時の全国各地に出現するようになります」

「うわぁ、宇宙人いっぱいだ!」

「すごいでしょ?しかもね、偉い人だけじゃなくて、普通の農民も作るようになるんだよ」

「安っぽいね」

「仁徳天皇が泣いてるよ」

「人参天皇」

「仁徳ね。にんとく」

「変な名前。さすがは宇宙人だ」

「さっきの大きい古墳は大仙陵古墳って言って、仁徳天皇が納められてるって言われてるんだよ」

「あああああ。漢字が多いいい。わかんないいいい」

「埴輪とかも古墳の中に入ってるよ」

「わあ。可愛い。センスあるね、宇宙人」

「いつまで宇宙人引っ張るのよ…」

「んふふふふ」

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