The Great Battle of students

対峙する2人の男。

2人の大将軍。

2人の天才。


「単刀直入に聞こう。お前は仲間を餌に玲穣を釣り出したのか。」

劣勢の将が問う。

それに答える偃月刀の男。

「餌とは中々毒のある言い方だな。俺は仲間を襲ったクソどもを殺しにきただけだ。そしてそこにたまたま居合わせた玲穣を利用したにすぎん。敵を利用する事は何も道理には反しないだろう。な?」

何も答えない劣勢の将。

測りかねていた。目の前の男の本質を。


「そのような説明を板橋城の奴らにもするのか。」

「あぁ、そのつもりだが。」

「奴らは馬鹿じゃない。お前が利用した事すら気付かないということはないだろう。」

「利用したつもりはないとさっき言っただろう。それに元はと言えばお前らが攻めてきたことが今回の一連の戦いの発端だ。お前らもそれを弁えてないはずがない。尾上達もそこは念頭にあるだろう。誰が悪い、という事をあえて決めるのならば、悪はお前らだ。」

「あぁ、俺もそれは忘れたつもりはない。ただ、お前の今回の動きを見るに、お前は人間的に破滅している。」

「敵に忠告をする前にまずは自分の足元を見つめ直したらどうだ。お前が立っているところは既に崖の端だ。少し押すだけで死ぬぞ。」

「俺は負けない。お前のようなクズ野郎に。」

「感情的になって良い事はないぞ。敗軍の将。」

沈黙が流れる。

2人の周りでは常に血が舞っていた。



「では、こちらから1つ。あくまでも予想だが、猛華は玲穣と裏で繋がっていたのだろう?どういう経緯でかつての敵国がいきなり盟を結んだのかははっきりとはわからんが、我が軍が玲穣を集中的に攻撃した時のお前らの決死の援護を見るに、お前と玲穣のあの女の将に何か関係があると見ている。どうだ、合っているか。」

いやはや恐ろしい男だ。

鋭いのは戦術眼だけではないようだ。

全てにおける観察力。

異様なほど長けている。

何もかも見透かされているようだ。


「嘘をついても仕方がない。お前の言っている事は全て正解だ。俺は玲穣と手を組み、横一線の防衛戦を築く事で西大、灌頂、智鶴を抑え、上律に集中攻撃を加える事を計画していた。そして1番の難関、かつての大敵である玲穣と手を組む事を実現させたのは他でもない、俺と玲穣のあの女が同級生で知り合いだったからだ。俺としては戦略的な盟のはずだったんだが、人間には情というものがある。あの女の将は本来では来るべきではなかったこの板橋の地に友達である俺を助けたいという一心で来てしまった。それにより玲穣はお前達の奇襲により、窮地に陥っている。あの女の将が玲穣の地に残っていればここまでの事にはならなかっただろう。俺たちを見捨てていればな。」

「そしてその女の将は今、この地で自らをもピンチに追いやった。」

「何が言いたい。」

「つくづく馬鹿な女だな。お前も気付いているはずだ。その女にはお前に対してただの友情だけでは済まされない感情がある。それに自らを支配され、自軍、そして自国すらも陥れるなど救いようがないではないか。」

「それはお前が敵だから言えるのだ。確かに客観的に見ればそうなのかもしれんが、同じ仲間としてそいつを見捨て、利用する事はしない。お前と違ってな。」

「俺とお前のその違いがこの結果だ。どちらが多くの命を救い、利益を生み出しているのか今一度冷静になり考えてみることだな。」

「結果、利益などの合理的物質が人間の本質ではない。感情こそが人間の真の姿。それを捨て去ってしまっては人間ではない。ただの虐殺を繰り返す獣だ。」

「では、俺はつまるところ誰も寄せ付けない神獣と言ったところかな。」

「誰も近寄らない、の間違いだ。」


この邂逅を見守る2人の人間。

松田に助けられた鈴山、同じく冨樫に助けられた菊池。

いる場所は違えど、同じ境遇の2人は静かに2人を見ていた。

何も言えなかった。



人間の本質は感情。

感情に支配された時、その人の本性が現れる。

理論武装をしているうちは自己を隠している事と同義。


奴は未だ武装しているように見える。

何度か奴をけしかけ、怒りを誘ったが全てかわされた。

感情を出す事はなかった。

仲間を騙す事、自分を貶される事では感情的にならないということなのか。

それでは奴は本当に人間としての何か欠けている。

俺はそう思わざるを得ない。



ただ戦を勝利に導く獣。

上律としてはこの上ない人間だろう。

だが敵としては違う。

奴のこの圧倒的強さを超えるためにも、奴の本性、本心を見抜き、そこを突かなければ勝ち目はない。

俺たちの仲間を救うためにも。

俺たちは奴の事をもっと知っておく必要があるのだ。

だが今はその時間がない。


「冨樫。優先すべきものを見誤ると本当に守るべきものを守れなくなるぞ。何が自分にとっての最上か。よく考えて行動するんだな。」

「…………。」

「せいぜい足掻け。じゃあな。」

「俺とここで決着をつけないのか。」

「フハハッ!悪いなぁ!あいにくだが、今の俺たちの眼中にお前らはないッ!用が済んだ後の掃除としてなら相手してやってもいいぞ!」

「ッ…………。」

「あの女と玲穣を救うというのなら、富津で暴れている軍を止め、堀北を追い詰めている奴らを制し、俺と咲良を殺すしかないなァ。どれに優先順位をつけるつもりかな?」

「…………。」

「いずれにせよ、お前達とはいずれやり合う。その時は真っ先に狙ってやろう。では。」

「………………。」




板橋城にやってきた玲穣の兵は今、俺の軍で庇うよな形となっている。その前に対峙しているのが松田、そして小田咲良という将の軍。

松田のあの言葉を信じるなら、奴らは俺たちに構わず玲穣だけを狙ってくる。

しかしどうやって狙う。曲がりなりにも俺たちは盾となっている。俺たちを越えねば玲穣へは届かん。それに今、俺の軍は東門攻撃をしていた大軍をも連れている。疲弊してはいるが数も多い。抜けるには骨があるはずだ。

玲穣に届く奴らはもういないはず。
役者は全て揃っている。








いや……。もう1人いたっ!
クソ!何で気付かなかったっ!
今、この状況で自由に動ける奴が!
松田の軍に囚われすぎた!
玲穣を救う事に頭が行きすぎた!

クソ、そういうことか。

松田、感情的になるなと言っていたが、どうやらそれは今回に限り正しいようだ。
悔しいが、完敗だ。






「まっつん、玲穣の後方が陣を固め始めたみたいだよぉー。」

「ようやく気付いたか。だが、もう遅い。」

「馬鹿だよねぇ。アイツらも。お前らは誰と戦ってたんだっての。」

「仲間を救う、そんな事に囚われすぎた結果だ。本質を見失って美談だけを追い求める。まるでヒーロー気取りだな。こちらの仲間は直接手を差し伸べなくても動ける奴で良かったよ。」

「さすが、まーちゃんだね!」




尾上雅弓。石松杏果。

騎馬隊を率い、冨樫の手が届かない玲穣軍後方へ奇襲を開始。

玲穣は再び血を晒す。



「さぁ、冨樫。どうやって救う。」











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