The Great Battle of students

「鈴山。次はお前についてだ」

名指しにされた鈴山は意外にも動じなかった。
自分のことが話題に上がる事は予想していたようだった。

「周りの奴らから聞いた。今回、鈴山軍が苦戦したのは自分達の兵の多くを他の城に置いてきたからだそうだな。お前らは主力を置いて、手勢だけでこの城を訪れ、敵にそこを狙われた。そも、お前らは別の城に当初、入城したはずだ。尾上と協力する必要があったとはいえ、不注意な行動だったとは思わないか」

「はい。返す言葉もありません」

座ったまま彼は頭を下げた。
その姿を見て、1人の女性が立ち上がる。

「松田。鈴山君を招いたのは私だ。尾上雅弓だ。もしその事で鈴山君が責められるなら私も同罪だ」

「雅弓………。」

「きょーかも見てたでしょ?私が誘ったの。そしてその夜、敵がきた。私にも非はあるはずでしょ」

尾上は冷静さを保ってはいたが、内心必死だった。
彼女は松田という人間を知っている。
だからこその行動だった。

しかし、それは報われない。

「尾上。鈴山は1人の将軍だ。上に立つものとして責任を取らねばならない。こいつがやった事の裏には様々な事情があったのだろうが、判断材料になるのは客観的な事実だけだ。鈴山に情けはかけられない」

「………、元はと言えば……」

「なんだ」

「元はと言えば!こんなことになってるのはお前が私達を前線に送り込んだからだろ!?どーして私達だけとやかく言われなきゃいけないんだ!お前も私達と一緒に責任取れよ!ふざけんのも大概にしろ!!!」

「雅弓……!!!」

石松が止めに入る。
刀を持っていれば、松田に斬りかかりそうな勢いだ。

「尾上、意味がわからんな。失敗をしていない俺になんの非がある。それに俺の立場に文句を言いたいのなら、早く言える立場まで上がってこい」

「この野郎…。」

「また中断してしまったな。続けるぞ」

松田は軽く咳払いをした。
一方で尾上は立ったままだ。
次やったら殺す、と言わんばかりの顔だった。


「鈴山。それだけじゃない事はわかってるな。3日目、俺が到着した時、お前はどこで何をしていたか覚えているか」

鈴山は二つ目の質問にも落ち着いて答える。

「敵軍の中で孤立していました」

声は死んでいた。

「なぜ?」

「取り戻すためです」

「何を?」

「遅れを、です」

「本当は?」

「………ッ」

「本当は何のためにそこにいた。答えろ」

「……ッ、それは………。」

「いいから早く答えろって言ってるだろ!」

「もういいだろぉ!!!」

松田は声の主を方を見る。
先ほどより自分に近づいてるのがわかった。

「もうやめろよ松田。1年生だぞ。私達と同じ考えが出来るはずがないんだよ。みんながお前と同じ判断ができるわけがないんだよ」

先ほどの憤慨と比べるとあまりにも悲しい、情けをかけるような言い方だった。

松田はため息をつく。

「はぁ。どうせお前のことだ。鈴山に罰を与えれば自分も受けると言うのだろう?」

「あぁ、そうだ」

「そのお人好しの性格。いつか仇とならなければいいな。」

「また私を侮辱するのかよ」

「安心しろ。今のは侮辱ではない。忠告だ。それに結論から言ってやる。今回、鈴山に厳罰を与えるつもりはない」

「へ?」

驚いたのは尾上だけではない。
隣にいた石松も。なんなら小田咲良までも驚いていた。
しかし、小田はすぐに真意に気付く。
伊達に共に戦場に出てるわけではない。

「まっつん、そーゆうとこ律儀よねぇー。」

「ちょっとさっちゃん!どーゆうこと?」

「んー、それはねぇー」

ハイッという掛け声と共に小田は松田に手を向ける。
ここでバトンタッチという意味だ。
バトンを受けた松田は颯爽と話し始める。

「それは御代川がいたからだ。御代川の堀北との戦いは見事だった。その功は素晴らしい。副官がそれだけの戦果を残したのだ。鈴山軍全体としての功績も相対的にプラスになるだろう」

「あっ…、そっか」

尾上は先ほどの剣幕とか打って変わって、いつものキョトンとした女の子に戻っていた。

「それに今の鈴山イジメはただの演劇だ。軍全体で大きな功を残したとはいえ、失態を犯した人間を勝ったのでOKです、と野放しにするわけにもいかないだろう。軍の体裁の問題だ。少なからず、言葉の罰は受けるべきなんだよ。三国志演義においても曹操を取り逃した関羽を諸葛孔明は断罪に処そうとした。勿論、周りの劉備や張飛が止めに入ったがな。だが、それ以降、たとえ位が高く、トップと親密な仲の人間であろうとも、失敗1つで一兵卒と同じ扱いを受けなければならない、と軍全体が引き締まったってわけだ」

「あ…、そうなんだ…」

松田は鈴山を見る。

「ゆえに鈴山。今回は特にお咎めなしにしてやるが、次はないと思え。自分の立場をしっかりと理解し、役割に従事しろ。私情で動くな。それと、次会う時は俺の助けなんざなくとも、あれくらいの包囲を突破できるほどの力もつけておけ」

「はい、ありがとうございます。次こそは必ず」

御代川は鈴山の初めての涙に少し困惑していた。
落ち着いたら何と話しかけようか。

「1年で将軍となったお前の力はそんなものではないはずだ。近くにバカでチビだが頼りになる先輩がいるだろう。そいつから何もかも盗み出せ。そして自分だけの戦い方を身につけるんだな。俺からは以上だ」

鈴山は言葉を出せなかった。
感謝、そして不甲斐なさ。
全ての感情が一気に押し寄せ、言葉にならない声をあげていた。涙とともに。

「今日はこれで終わりだ。各々、好きなように時間を使ってくれ」

「んんぅーー、やっと終わったぁーー!ま、横で黙って聞いてただけなんだけどねぇー」

「咲良、お前は何か言いたいことなかったのか?」

「言いたい事はまっつんが全部言ってくれたもん。そんなこと言って宏樹はあるんじゃないのぉ?」

「いや、俺はこういう後処理は苦手なんだ。松田に一任してる」

「お前ら2人もよくやってくれた。俺からも感謝するよ」

「それほどでもぉー。」

「松田ほどじゃない」

鈴山・尾上連盟はこのロシア語学科の3人の会話を注意深く聞いていた。
何気なく話してはいるが、この3人は三大学が絡むこの大戦をまるで手のひらで転がすように操り、勝利に導いた怪物達。そして、上律が誇る大将軍の代表格でもある。
そんな奴らの会話を身近に聞けるチャンスなどあまりない。

……だが、尾上は気付いた。
この人達、何で強いのかわかんねぇや。

(話してる内容は普通のことだし。特に強さの秘訣とかも言ってないし。お互いに厳しくあるわけでもなさそうだし。本当にセンスって感じなのかな。凄い人達が偶然同じところに集った的な。はへぇ。それだったら夢があるけど、私達には夢がないなぁ。あーゆうふうにはなれないってことだもんなぁ…。はぁー、強くなりたいな)


「尾上」

「ウエェッ!!??」

思考中での突然の呼び掛けに蛙のような声が出る。

「な、なに…?」

「話がある、ちょっと来い」

「えええ……、ちょっと何…。怖いんだけど……。」

と、いいつつも2人は皆んなとは違う方は歩き出した。
他の連中は特に気にとめていなかった。
鈴山以外は。


「鈴山くん!顔が怖いよ!どうも小田咲良です!」

急に視界の全てを自らの顔で遮った小田咲良に当然のことながら鈴山は驚く。

「な、なんでしょう」

「んふふふ、わかりやすいんだから!もう!」

「だから何が…」

「安心しなよぉ、まっつんはまーちゃんの事をそーゆう風には見てないよ。あの2人はただの同期って感じ。あの2人に恋愛感情なんてナイナイ岡村」

「あ、そうですか…。」

「ヤダァ!かわいいぃー!1歳しか年齢変わらないのに何か小学生の弟みたいぃ!」

「……ハハッ……。」

「ま、だから気にするな少年!君にもまだチャンスはあるぞ!まっつんより強くなって、出直してくるがよい!ではっ!」

小田咲良は「はっはっはっーーー!」と高らかに笑いながら去っていった。
天才と奇人は紙一重、という言葉は彼女のためにあるのかもしれない。
鈴山はそう思った。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?