向かう席

「先生、こんばんわー」

「はい、こんばんわ」

「今日の授業は何ですか」

「それを聞くあたり、宿題をやっていないね」

「先生、真奈のことわかってきたね」

「宿題をやらない理由はわからないよ」

「真奈も」

「そうきたか」

「でも、やる理由もわからない」

「わからないなら、とりあえずやろう」

「理由がないとやりたくない」

「なるほどねぇ」

「宿題をやる理由って何?」

「宿題は宿題をやらないから俺は出してる」

「意味わかんない」

「宿題をコンスタントにやる子には宿題は必要ないのよ」

「コンテスト?」

「コンスタントね」

「真奈、変な生き物描いたコンテストなら負けないよ」

「そういえば、いつも変な絵描いてるね」

「変な、とは失礼な」

「無茶苦茶だな…。」

「真奈は真面目に描いてるもん。それをみんなが変って言うだけ」

「真奈ちゃんが独創的なんだね」

「そーそー。どくそーてき」

「意味わかってないね」

「うん。でも褒められてる感じがしたから」

「まあ…、褒めてるかな…」

「宿題の話は?」

「そうだった。つまりね、宿題は出す人と出さない人がいます」

「先生は真奈には出すよね」

「出すよ。だって、やらないもん」

「出すからやらないんだよ」

「出さなきゃやれないじゃん」

「出してもやらないよ」

「じゃあ出し続けるよ」

「もー、意味わかんなーい」

「真奈ちゃんが宿題をやるようになれば、宿題はやめるよ」

「宿題やめちゃったら意味ないじゃん」

「でも、宿題はできる子に成長したってことだから」

「それってどんな子?」

「自分で自分の勉強ができる子」

「めっちゃすごいじゃん」

「すごいよ。だって、塾に来なくてもいいんだから」

「え!マジですごいじゃん!」

「ね、すごいでしょ!宿題やろうよ」

「いーやーだ」

「えええええええ」

「人に何かをやれって言われるの本当に嫌だ」

「部活とかどうしてるの?」

「顧問よりクソだから、言うこときいてない」

「うあ…、顧問さん可哀そう」

「可哀そうじゃないよ。意味わからない指導してくるし」

「無視してるんだ」

「当たり前」

「そんな笑顔で言われてもなぁ」

「真奈は自分が正しいと思ったことしかしないもん」

「将来が心配だなぁ」

「何が心配なの?」

「大きくなれば人との関りは増えていくよ。だから、時には人の考えに従うことも大事になっていくと思うよ」

「真奈は思わない」

「そう?」

「それって楽しくないし、幸せじゃない」

「    」

「みんなでいたい人はいればいいじゃん。真奈は一人が好きだもん」

「でも、高校とかいろんな人と出会うわけじゃん」

「断ればいいじゃん。それか無視」

「    」

「先生はそういうことしなさそうだよね」

「俺はしてこなかったな。苦手な人もいたけど、上辺だけの付き合いはしてた」

「大変だね」

「そうだね。今思えば無駄だった」

「真奈が正しいね」

「負けを認めます」

「やったー、宿題なしだー」

「言ってません」

「きらーい」


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