向かう席
「とりあえず完走。あと10分くらいで授業終わるね」
「もう何やったか忘れた」
「えー、それはないよ真奈ちゃん。今日は日本の歴史の始まりだよ?卑弥呼様と邪馬台国のお話だったじゃない。日本の歴史における最初の王が女性だったんだよ。元始、女性は太陽であった、の言葉通りじゃない」
「真奈、理科も嫌いだよ。原子とか分子とか意味わかんない」
「原始じゃなくて元始ね。昔の人が言った言葉なんだよ」
「興味な〜い。昔の言葉は昔の人にしか響かな〜い」
「むむむ、何か真理をついてるようなそうじゃないような…」
「でもさー、真奈が今生きてるこの時間も10年後には歴史になっちゃうんだよね。あんまり想像できないなぁ」
「そうだねぇ。俺たちが生まれた頃の話はもう歴史だねぇ。時間ってのは早いもんだね」
「真奈も何かやらないと歴史にも載らないエキストラになっちゃうな」
「お、何かやる気でも出てきたかい」
「いや、全く。真奈はまだ中2。今を生きてるだけで精一杯なのだ」
「そりゃそうだ。中学生の時間は大切にしないとね」
「だから勉強なんてしてる暇ないの。部活やって友達と遊んで家でゴロゴロして寝る」
「ははは…。そこに勉強とか塾はないのね……。」
「ないよ!行きたくないもん。塾」
「そうだよな。塾に来たいって来てる子の方が少ないもんな」
「先生もそうだったの?」
「俺もそうだったね。週に2、3回は塾に行ってたよ。本当に行きたくなかったけどね。まぁでも流石に中3の夏休み以降は真面目に行ってたよ」
「楽しかった?」
「楽しくはなかったよー。友達といることは楽しかったけど、勉強はずっと嫌だったよ」
「でも先生は高校でも勉強して頭の良い大学に行ったじゃん」
「そりゃあね。大学行くなら出来るだけ頭の良いところがいいじゃない?そしたら将来の幅も広がるし。やりたいことが最初からあるなら別だけど」
「真奈は大学行きたくない。出来れば高校も」
「大学はともかく高校は行った方がいいよ。行かないと色々言われるしさ。なんなら大学だって今や当たり前みたいになってるし」
「そうなんだ。嫌だなぁ」
「そうだよ。嫌だけど俺は俺なりに頑張ったつもりよー。上には上がいるけどさ」
「先生の人生ってつまんないね」
「えぇ!?急に辛辣な…。」
「高校に行かなくたって困るのは周りの人だけだよ。自分で行かないって決めたんならね」
「でもお金を払うのは親御さんじゃん」
「そこは真奈を信じて欲しい。真奈だってただ勉強が嫌いだから高校に行きたくないわけじゃないよ。やらなきゃいけないってこともわかってるし。でもね、真奈は普通の高校じゃ出来ないことをやりたいの。ただ高校に行って、中学の続きなんてもうしたくない」
「真奈ちゃんは決まってるのかい?その進路は」
「決まってるよ。やりたいことあるもん」
「それに勉強は必要?」
「5教科は必要ないと思う。ただその学校に行くには少しテストがあるかもしれないけど」
「そっか。偉いね、真奈ちゃんは。ちゃんと自分の考えがあって」
「みんなあると思うよ、自分の考えは。それをみんな言わないだけだよ。私は先生みたいに頭良くないから、予想もできないし、言わないと伝わらないって思ってるから」
「そうだね。正しい!真奈ちゃんの言ってることは!」
「じゃあ勉強しなくていい!?もう来なくていい!?」
「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!!!」
「ぶー、ぶー、ぶー👎」
「寺見真奈ちゃん。いいですか。まず、その学校の入学にも少なからず5教科のテストがあるのならば勉強はしなければなりません」
「うへぇ」
「それにもう一つ。そのやりたいことってのにも最初は勉強が必要になると思うのね。だからこそ、今ここで勉強をしておかないと、そもそも勉強のやり方がわからないってことになっちゃうと思う」
「問題解いて答え合わせしてれば大丈夫だよ」
「それを毎週やってるのに内申が火の海な訳です。真奈ちゃん」
「Oh、ソーデシタ」
「勉強のやり方なんて人それぞれだから。俺のやり方がぴったり合うなら完全に真似ればいいけど、見た感じ、そういうことはなさそうだからさ。真奈ちゃんが1番勉強できるやり方ってのをこれから見つけていきたいと思っているわけでございます」
「先生の腕の見せ所だね」
「腕どころか全て晒すから吸収していって欲しい」
「通報していい?」
「いや、物理的に全て晒すわけじゃなくて」
「私、スポーツ選手の身体が好きだから。先生、背は高いけどもうちょっと筋肉つけないと」
「いやだから、体を見せたいわけじゃなくて…。」
「内申ね。取ればいいんでしょ!取れば!」
「そうよ!取っておいて損はないから!」
「でも私、先生に媚び売るとかできないし」
「媚び売らなくても、提出物出してテストで平均点取れてれば、オール3より下はいかないはずだよ」
「提出物出してないし、テストは全部ヤバい」
「でしょ!だからこれから頑張ろう!夢のためにさ!」
「そうだね!」
「よし、じゃあ今日の宿題だけど………。」
「あ、もう時間だ!サヨウナラ!」
「あ、ちょっ…。エェ………。」
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