The Great Battle of students


「みんな、今回はよく戦ってくれた。お前達がいてこその勝利だ。感謝する」

松田の賛辞と言葉と共に始まった会議。

メンバーの面持ちはそれぞれだった。

「では、まず初めに今回の戦いの全容を話そう」

松田が続ける。

「此度の板橋城攻防戦の発端は、猛華の軍配備より始まった。奴らが俺らに対して不穏な動きを見せ、それに対して我々は防衛戦を張った。その防衛戦が板橋城であったわけだ。本来なら、この城を守り抜くことで全てが解決する戦いだったが、そうもいかなかった。猛華が玲穣と繋がりを持っているという動きが見られたからだ」

「でー、松田はいつから気付いてたの、それに関して」

尾上雅弓が割って入った。
松田に忌憚ない言葉を言える数少ない人間だ。

「じゃあ、それについてから話そうか。結論、俺は玲穣との関わりがあるという情報を掴んだが故に、尾上と鈴山を板橋城に送った。いい機会だと思ったからだ。玲穣を潰すな。お前達には猛華の相手をしてもらう必要があった訳だ」

「それはつまり?」

尾上が再度聞いた。

「囮だ。」

「てめぇ!ふざけんなよ!」

小さい体で机に乗り上げ、今にも殴りかかろうとした尾上を止めたのは、松田の横に座る女性の一言だった。


「Тише !!」


沈黙が走る。


「まーちゃん。今、まっつんが話してるの。言いたいことがあるのはわかるけど、静かにしててもらえない?喧嘩はこの後、2人でやってよ」

松田達はロシア語学科所属であった。
そのため、小田咲良が叫んだその言葉は日本語で「静かに」という意味を指す。

「尾上。続けてもいいか」

松田が尾上の目を見て言う。
相変わらず、俯瞰的な目をしている。

「あぁ、取り乱したよ。続けて」

「では、続きを。お前達、尾上と鈴山を板橋城に配置した直後、俺はすぐさま玲穣に軍を送った。それがうちの中川真奈と寺仲裕一だ。アイツら玲穣到着早々に富津城を奪い、籠城した。俺らと呼応するためにな。一方、俺と咲良と宏樹も玲穣の援軍が到達するであろう日を見計らって板橋城に向かった。玲穣の援軍到達予想はあくまで賭けだったが、なんとかお前達が全滅する前に到着できた。板橋城に俺らが到着すると共に、中川達も玲穣に攻撃を開始した。そのあとはお前達が見た通りだ」

松田は続ける。

「今回の戦いの要は中川真奈と寺仲裕一だった。板橋城に玲穣中央部の主力が援軍としてなることで、中川と寺仲をとめる軍が玲穣内で枯渇する。そのため、玲穣は対智鶴戦線に張っている強軍を呼び戻さねばならなくなったわけだ。実際、中川と寺仲の軍をとめんと南下してきた軍は智鶴と戦っていた軍だったらしい」

「結果、中川と寺仲はその軍を突破できなかった。というより、突破をあえてしなかった。誘い出した時点で成功だからな。対智鶴戦線の軍がいなくなれば、喜ぶのは俺らではない。では誰か。無論、智鶴大学だ。奴らは眼前の敵がいなくなり、敵国がピンチになっているにも関わらず、それを傍観するほどお人好しではない。しっかりと玲穣に攻め入ってくると俺らは予想していた」

「ちょ、ちょっと待って!」

手を挙げたのは石松杏果。

「予想していた、って。。。敵は松田君の予想とは違う事をしてきたって事??」

「あぁ、そうだ。その通りだ。だから俺は堀北と冨樫を追うな、と命令を出した」

松田はため息をつく。
どうやら予想が外れた事が不満らしい。

「予想を裏切ったのは猛華でも玲穣でもない。奴らは俺の思った通りの行動をした。俺の予想に反した動きをしたのは智鶴だ」

「アイツらはあろうことか玲穣に侵略しなかった。眼前の獲物を放棄したんだ。その報告が入ったのは、堀北が尾上の後軍に突撃した頃。中川と寺仲から入った。その報告の内容は至極単純。敵に余裕がある。捕虜を問い詰めたところ、智鶴に動きはないようだ、とのことだった」

「でもなんで…。なんで智鶴は攻めてこなかったんだろう……。」

「さあな。流石に俺らもあの遠い地まで間者を送り込んでいるわけではない。真相は奴らはのみぞ知るってわけだ。まぁともかく。智鶴が攻めてこないのであれば、俺らだけで猛華を追ったところで何の意味もない。だから追撃命令を出さなかったわけだ。無論、中川達も速やかに撤退している」


松田から語られた戦の全容。
尾上と鈴山は神妙や面持ちだった。
自分達はその壮大な計画の一部でしかなかった。
しかし、重要なピースでもあった。
誇りと貶し。2人は板挟みにされていた。



「これで全てだ。何か質問は」

「…………………。」

「ないみたいだな。では、次に移る」



「鈴山。次はお前についてだ」

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