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『ルール・ブルー』

数年前に課題で書いたものです。ちょうどこのころ新宿でアルバイトをしていました。馴染みのある通りを舞台に設定した訳です。
ルール・ブルーと言うのはフランスで夜明けや夕方に空が青くなる境目の時間をいう言葉です。有名な香水の名前でもあります。

                             
    新宿の屋外カフェ。夕方。
    クレープ屋の前のオープンテラス。
    クレープとコーヒーを頼んで席に座る若い女A 。
    とキャリーカートでウロウロしている男B
    B「すみません」と注文をして受け取ったソフトクリームをもって
    こんどは空いている席を探す、空いてない、ので
 
B  すみません。 ここ、よろしいですか?
A  あ、どうぞ。


B  あの、伊勢丹はどっちのほうでしょう?
A あ、それだったら、ここの道を右の方にずっといけば伊勢丹ですよ。
B あ、よかった。違う方にきてたらどうしようかと思ってたんです。
A えへへ、実はいましがた行ってきたところなんです。
B へえ。
   
     A伊勢丹のチェックの袋をみせる。

A ジャーン。
B おお。
A 何だとおもいますか?
B え、じゃ当ててみせますか?
A   さあ!
B 何だかいいにおいがしますね。
A 話しをそらさず。さあ、なんでしょう?
B いや、これは香水でしょう。あなたの?
A そうですけど。
B 香水を買ったんじゃないですか?
A さて、中身は?(袋をあけてみせる)
B   あ、何ですかこれ?
A おそばでした!
B ……
A このおそばおいしいんですよ。新潟の越後妻有の妻有そば!こんなにお
    いしいのを私他に知りませんもん。
B いや、まさかそばとは
A この辺だと伊勢丹しか売ってるとこ、知らないんですよ。
    でも、香水の香りわかりますんですね。ちょっと嬉しいです。
    おためし用のをちょっとつけさせてもらったんです。
B これ、ゲランのじゃあないですか。
    ゲランのルールブルー。
A (驚いて)ええ!御詳しいんですね!
B いえ、ね、ちょっと凝ってたことがあって。懐かしいです。
    夜から朝、または夕暮れから夜にかけての青い時間。そのあわい。そ
    のどちらともちかない時間。か。じつはちょっとばかり香水の販売を
    やっているんですよ。
A わあ!凄いです!
B いや、そんなでは。
A   ゲランってフランスですよね。フランス、パリはシャンゼリゼ通り。
    パリにいってみたいなあ。
B ふらんすへいきたしと思えども。ですね。
A 印象派ですねえ。夕暮れ時の小川かあ、だけどこう言うとイメージさ 
    れるのは何だか自分のよく見知った夕暮れ、あのオレンジ色の夕焼け 
    ですねえ。すすきとかが生えていて、鼻がむずむずして、ちっちゃい
    変な虫がいっぱい飛んでいて
B  ……
A あ、すみません変な話ししちゃって。
B パリにいけるといいですね。(立ち上がる)
A    はい、(やはり立ち上がり)ありがとうございます!
      AB握手する。
B    楽しかったです。
A こちらこそ
B これ、ちっちゃいサンプル品ですけど。(と小さな香水のスプレーを
     鞄から探し出してAに渡す)
A え、そんな、あ、ルールブルーだ。
     うわあ、ありがとうございます。
B    いいえ、それじゃあ。縁があったらまた、どこかで、
A いつか、パリで会えたりしたらいいですね。
B ええ。本当に。
     じゃあ。いつかパリで。
A  いつか、パリで。

       B去る。

A カフェテラス。パリかあ。

       A一人テーブルでコーヒーをすする。
       夕暮れ時の終わり。
       まさにルールブルーが来ようとしている時間
       ぱっと電灯がともる。
       街に夜が来ようとしている。

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