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珠美の島〜18年の時を経て〜16話

善田公園を出て
みどり丸の慰霊碑を探す

草や木々、空以外には
何もない道を走って行くが
それらしい何かは見つからない

「今あるかどうかはわからないよ」

宗形さんの言葉がよぎる

「もういいよ、行くの、諦める」
「いいの?」
「うん」

日が沈む時間も
近づいてきていたので
これ以上やみくもに
車を走らせるのは
申し訳無いなと

「五枝の松行った事ある?」
「ううん、ない」
「じゃ、せっかくだし行ってみようか」

走りながら
戸田くんが久米島に住む事になった
いきさつを聞いてみた

「それまでサイパンに住んでたんだけど
 沖縄に移ろうかと探してたら
 久米島のホテルで
 テナントを募集している話が来て」

やっぱり
呼ばれてたんだなぁと

会うべき人に会い
行くべき時に
行くべき場所に
引き寄せられて

絶妙なタイミングで

そこからまた
未来が形作られて行く

自分が望んだ世界が
きっと

広がり続け

五枝の松、到着

確かに見事な枝っぷり
でも
もっと気になったものが
松の枝のたもとに

「最近はパワースポットとして
 人気があるみたいで
 ここで写真を撮ってる人が増えたよ」

枝に守られているような
その祠
農業の神様を祀ってある
と書いてあった

ひざまづいて目を閉じ
手を合わせる
目を開け
祠をじっと見つめてると

あれれ
なんだか

「ここって誰か手入れしてる人
 いるのかな」
「国の天然記念物だし、いると思うけど」

そっか、
それならいいんだけど、

て、松はそうだろうけど
この祠も同じくらい
手をかけてもらっているのだろうか

なんだかもやもやと
マイナスの気を感じたから

悲しんでるよな
怒っているよな
何だか、喉に詰まるような

パワースポット、て…

もらうことばかり願う
お参りや祈りには
何も宿らない

後ろ髪引かれながらも
もう一度手を合わせ
その場を離れる


松のすぐそばにある、せせらぎ
クメジマホタルの生息地

草木に囲まれた
奥まった場所なのに
その水は
淡い光を取り込んで
澄んだ空気を解き放っていた

「ふわぁーって
 辺り一面に光が舞って
 ほんとにきれいだよ」

そっか、
一ヶ月早かったか、
いつかリベンジだな

空想で舞う
クメジマホタルを
見上げて思った

ほんとの光を
いつか見に来よう、と。




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