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伊勢物語 ~筒井つの~

連休後半は雨になるかと言われていた大阪ですが、少し後ろにずれたよう。お出かけもしやすいでしょうか。

今日は「伊勢物語」第二十三段の一段目。
幼い頃、よく共に遊んだ男女が大人になり、一緒に過ごすことはなくなったけれど、お互いを妻に、夫にと思い定めていました。やがて男性の側から送った歌が

筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見るざまに

筒井はまるい筒のように掘った丸井戸、井筒はこの丸井戸の上にのせた円形の井戸枠のことで、この枠の高さにも及ばなかったわたしの背丈も、あなたに会わないでいるうちに、井戸枠より高くなったと思いますよ、と会いたい気持ちを込めます。

女性からの返歌が

くらべこし ふりわけ髪も 肩すぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき

あなたと長さ比べをした髪も、今では肩を過ぎてずっと長くなりました。あなた以外の誰がわたしの髪上げをすることができましょうか、と。髪上げは夫が決まってから、有力な親族などが行う成人の儀式ですが、この男以外の相手を夫として迎えるために髪上げの儀式をすることは考えていない、というような意味ですね。女性の方が、より積極的に思えます。

で、この歌のやりとりなどをしながら、やがて二人は結ばれました、というものです。転じて、仲のいい男女の幼馴染のことを筒井筒などと言ったりもします。

後の時代、戦国大名の筒井順慶から豊臣秀吉に贈られた井戸茶碗の名品があったのですが、ある時、秀吉の小姓が誤って落とし、五つに割ってしまった。秀吉は激怒するのですが、その場に居合わせた細川幽斎が筒井順慶からの茶碗であることを踏まえ、上記の歌をもとにして

筒井筒 五つにかけし 井戸茶碗 咎をばわれに 負ひにけらしな

と歌を詠み、秀吉の怒りを和らげたという話も有名です。この茶碗は、継がれた後、茶会で使われたらしい記録もあるようですが、今は個人蔵のようで、近年表には出てきていないのだとか。動かすと危ういくらいの状態なのか、内々で楽しんでおられるのか。一度、実物を拝見したいものです。

今日の菓銘は「あやめの君」。
あやめではありませんが、端午の節句に使うのでしょうか、今日は切り花の菖蒲を買い求められた方を何人か見ました。

今は五月五日は、男の子に限らず「こどもの日」。皆が、健やかで食べ物に満たされて過ごせますように、と祈ります。



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