山口組分裂抗争の分析

はじめに

山口分裂抗争は4年以上にわたり継続している。
本記事では、報道ニュースをベースにこれまでの抗争事件を収集し分析を行った。期間は分裂~2019年11月末としている。

抗争概要

抗争を行っているのは、いずれも指定暴力団である山口組、神戸山口組、任侠山口組の3団体。

・推移

2015年8月27日 山口組が分裂。神戸山口組の発足。
2016年3月7日 警察庁が抗争状態と認定。
2016年4月15日 神戸山口組が指定暴力団へ指定される。
2017年4月30日 神戸山口組が分裂。任侠山口組の発足。
2018年3月22日 任侠山口組が指定暴力団へ指定される。

抗争事件数

・警察発表
山口組分裂以降、2018年末までに抗争事件は114件発生している。
2015年8月27日~2016年3月6日 49件
2016年3月7日~2018年12月31日 65件


・報道ベース(筆者収集)
山口組分裂以降、2019年11月末までに抗争事件は130件発生している。
情報が限定されること、また集計方法の違いから警察発表とは件数が異なるが、概ね9割程度の事件数は把握出来ていると判断している。
2015年8月27日~2016年3月6日 43件
2016年3月7日~2018年12月31日 72件
2019年1月1日~2019年11月30日 15件
※本記事では、報道ベース(筆者収集)に基づき記載する。
※破門者等の元構成員等が関わる場合でも、組織対立が背景にあると推定されるものは事件に含めている。
※個人的なトラブルの要素が強い場合でも、対立組織間で起きたものは事件に含めている。

発生時期

抗争事件は、特に分裂から半年後の2016年2月~3月に掛けて多く発生し3月に34件とピークに達している。警察もこれを受け、抗争状態であると3月に認定し、神戸山口組を指定暴力団へ指定することを決めた。
その後、事件数は月1件~3件で推移している。

山口組分裂抗争の発生件数

組織別事件数

・どちらが事件を引き起こしているのか
発生事件を引き起こした組織によって、集計を行った。
結果山口組の犯行によるものが71件、神戸山口組の犯行によるものが71件、任侠山口組の犯行によるもの4件となった。
興味深いことであるが、山口組の犯行による事件数と、神戸山口組の犯行による事件数が一致する結果となった。
暴力団の抗争においては、「血のバランスシート」という言葉が従来用いられている。これは「やられたらやり返せ」という暴力団に根付く習性が、抗争時には結果的に加害数、被害数の均衡をもたらす様を指しているが、山口組分裂抗争においても、その現象が伺える。
※乱闘等、双方が事件を引き起こしたものはそれぞれ1件と集計している。そのため、本項目における合計数が上述の抗争事件数を超過する。

3組織別発生事件数

・主戦派二次団体
二次団体別に事件を引き起こした組織を集計すると、山口組では弘道会、神戸山口組では山健組となった。双方の中心組織であり、当然の結果と見える。また犯人が特定されていない、もしくは市中に情報が出ないことから組織名が未詳という場合も多い。
※任侠山口組は事件数が少ないことから検討外。

二次団体別発生事件数_山口組分裂抗争_201911

事件種別

・全体
抗争事件を分類すると、器物損壊が4割と多数を占める。暴行傷害がそれに続く。
※分類に当たっては、適用法ではなく事件内容から分類を行っている。
 示威=暴力行為が伴わず徒党を組む・脅迫等で威力を示したもの 
 暴行傷害=少数による暴力行為。乱闘や刺傷を含む。 
 小競り合い=集団による暴力行為を伴う乱闘

山口組分裂抗争の事件種別

・器物損壊事件
器物損壊事件に最も用いられたのは車両である。相手方の事務所や居宅にトラック、乗用車が突っ込む事例が多数発生している。
威力が大きい、調達が容易、量刑が銃器を用いるより軽いなどのメリットがあり、実行手段として選択されていると推察される。

副次的な作用であるが、相手方拠点に対する攻撃は周辺住民が立ち退き要求をする切っ掛けとなり、結果的に拠点を失わせた事例が見受けられる。

山口組分裂抗争_器物損壊事件の内訳

・減少した手段
火炎瓶を用いた放火や集団で公然と乱闘を行う事件(小競り合い)は、抗争が過熱した2016年において見受けられたが、その後発生件数は低下している。
放火は量刑の重さがリスクとなり避けられたと推察される。
乱闘行為は、関わった者の多くが逮捕され組織運営に大きなダメージとなる場合があり、避けられたと推察される。

山口組分裂抗争_減少した攻撃手段


以上

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