見出し画像

サブスクリプションサービスの未来

はじめに 

 サブスクリプションサービスの拡大が続いている。2010年代はサブスクリプションサービスが拡大し、音楽・動画・書籍、服・バック・時計などデジタル・非デジタル問わずサービスの幅が広がりました。本記事ではこれまでのサブスクリプションを整理し、これからのサブスクリプションを予測しながら対比させ、どのような変化が生じるかについて考察いたします。

  サブスクリプションには一定の規則・性質があり、多くのサービスはその枠に従ってデザインされているように見えます。今後登場するサブスクリプションサービスはどのような付加価値を提供する方向に向かうかを考察します。考察に際しては金融を題材とし、金融×サブスクリプションでどのようなモデルを描くことが出来るかを題材に新たな可能性を示します。 

1. サブスクリプションの分類

 サブスクリプション2.0というキーワードで検索すると以下のような説明がヒットします。いくつかのサイトをチェックしたところ表現は異なりますが説明趣旨は概ね同じでした。 

サブスク1.0
商品を購入することに対して定められた料金を支払うサービスであり、サブスクと言う名前が認知される以前から広く普及していた仕組みのことを指します。代表的なものに、新聞の定期購読、配達牛乳などがあり、これらは消費者が一度を利用したことのある古くから親しまれている仕組みです。
 
サブスク2.0
商品やサービスを利用することに対して定められた料金を支払うサービスであり、サブスクの名前が広まるきっかけとなったデジタル配信サービスが主なサービスとなります。このデジタル配信サービスとは、ソフトウェア配信、動画配信、音楽配信、電子書籍などのことを指しており、これは、サブスク1.0とは異なり、購入するのではなく利用する権利を得るサービスとなっています。
 
サブスク3.0
消費者それぞれの嗜好や関心に合わせた商品やサービスを購入することに対して定められた料金を支払うサービスであり、消費者一人一人のニーズに合わせたサービスを提供する仕組みになります。消費者の利用履歴や個人情報などデータを収集、解析し、消費者が求めるサービスを導き出すのです。

web上の説明サンプルの抜粋

 一般にサブスクと呼ばれるサービスは上記ではサブスク2.0に該当します。音楽・動画・書籍の聞き放題・見放題・読み放題が分かりやすい事例です。今回は上記分類でいうところのサブスク2.0と3.0に着目し、Web検索で引っかかる記事とは異なる視点で整理したいと思います。 

2. サブスクリプション2.0・3.0

 サブスク2.0は単純な仕組みで変動費を固定化する仕組みと表現することが出来ます。従来であれば1冊1000円、1曲300円、1本500円と言ったサービスを月額という形で纏めることで価格を固定化させるビジネスモデルです。 

 これは利用者・サービス提供者の双方にメリットがあります。利用者は●本という損益分岐を超えて利用する場合には個別で購入するより割安であり、事業者は月次ベースの売上を固定化(安定化)することが可能です。 

 尚、扱う商材がデジタルデータ(音楽・電子書籍・動画など)の場合は複製コストをゼロと考えることが出来るため、事業者は利用し放題によって発生する追加コスト・デメリットが殆ど存在しません。 

 上記モデルは一定の将来予測(行動予測)に基づき、変動費を固定費に変換する契約を事業者との間で締結していると言い換えることが出来ます。金融的な表現をすると月額●●というプレミアムを支払うことで支出の固定or上限を設定している形になります。 

 サブスク2.0の類型としては娯楽・エンタメ系サービスが多い傾向にあります。リアルなアイテムのサブスクも存在しますが、デジタルデータを取り扱うサービスが多いのも特徴です(複製コストがほぼゼロなので)これが2010年代に普及したサブスクの仕組みです。 

 このタイプのサブスクはメリットが分かりやすい一方でサービスとしての拡張性は低い傾向になります。例えば、動画の見放題サービスの場合は時間経過に応じて視聴可能なコンテンツ数は増加しますが、動画という枠を超えたサービスには進化しません。尚、各種サブスクサービスの競争の結果、動画・音楽・書籍等の複数のカテゴリが統合され1つのサービスとして提供されることはありますが、本質に変化はありません。 

 これがサブスク2.0モデルの限界ではないかと考えています。サブスクとは中長期に渡る契約関係に基づく継続的なサービスの提供です。ですが2.0の場合は中長期で利用しようと本質的にはサービスの価値が高まることがないモデルです。(ルーティンです)サブスク2.0の限界、それは個別に価格が存在する「モノ」を対象にパッケージ化することで変動費を固定費にすることが本質だからです。 

 対してサブスク3.0がどのようなものかを整理します。まずサブスク3.0は変動費の固定化が主目的ではありません。よって●本利用すればお得、と言った試算が困難なモデルです。サブスク2.0は定量的に●回利用すればお得と試算することが容易でしたがサブスク3.0はサービスのコンセプト・利用者の目的が異なるため従来の物差しが通用しなくなります。 

 サブスク3.0においても費用の固定化効果は存在しますが、本質的価値はそこではありません。継続利用(長期利用)による利用者にとってのサービス価値の向上にあります。サブスク2.0型サービスは本質的に利用期間中に得られる価値は一定です。対してサブスク3.0型サービスの場合には利用期間が長くなればなるほど、個々のユーザーにとってより便利に進化します。 

 技術的な背景はビッグデータとAIによる個別カスタマイズ・パーソナル化、自動学習による最適化です。この効果がより発揮される分野はサブスク2.0型サービスではなく、もう少し抽象的な目標に対して作用します。個別の音楽や動画の場合はAIを駆使しても視聴傾向から近い動画をレコメンドする程度に留まります。 

 サブスク2.0との対比で表現すると、個別に価格が存在せず試算しにくい付加価値(利用するユーザーによって効用・価値が異なるもの)を継続的に一定の値段(安価)で提供し、AI等の技術を活用することでパーソナル化と最適化を通じ長期で利用すればより便利になる仕組み、といえます。 

 サブスク3.0の大きな特徴として対象となるサービスが1本●円といった換算が困難であること、ユーザー毎に得られる付加価値が異なること(Aさんにとっては500円の価値でもBさんにとっては5,000円の価値など)が挙げられます。これは特定のサービスの利用ではなく、やや抽象的な目標の実現に向けた包括的サービスの長期契約の形だからです。 

3. 金融版サブスクリプション3.0の考察

 例えば金融サービスの例でいうと資産運用という1つの機能(パーツ)に着目した場合にはラップサービスやロボアドなど一定額(%含む)で機能のアウトソースが可能であり、これらも一種のサブスクと言えます。とはいえ、ある特定の資産運用サービス単体では顧客の本当の問題解決に繋がっているか定かではありません。 

 資産運用には当然目的が存在します。それは老後の備えかもしれませんし、40歳までにFIREしたいという願望かもしれませんし、住宅購入かもしれません。目的に対してそのアプローチが適切か、より大きな視点で考えると適切な目的設定が出来ているかどうかが各アクション(資産運用など)の前提に存在します。上記の資産運用というアクションは上位目標の下位に位置する機能(パーツ)の1つに過ぎません。 

 そもそも金融は何かを実現する手段であり目的にはなり得ないことに注意が必要です。金融取引自体が目標になることはありません。何か別の目的・目標が存在し、その達成のために金融的なアプローチ(金銭的な課題解決)が必要、というケースが殆どです。であれば、サブスク3.0型金融サービスは金融単体では成り立たないことが分かります。手段である金融はその目的の達成とセットで検討されるべきだからです。 

 ではどのような目的と金融を紐づけることが適切でしょうか?1つの答えとしてライフマネジメント×金融がサブスク3.0での付加価値になるのではないかと考えています。ライフマネジメント自体は非常に広範な概念であり、人生をどう生きるか、という本質と紐付いています。これを金融面からアプローチすることをファイナンシャル・ライフマネジメントと呼びます。より良い人生の実現を金融(金銭)面からサポートする概念・サービスです。 

 冒頭に戻りますが、Aさんにとってはその方法が資産運用かもしれませんが、Bさんにとっては節約、Cさんにとっては転職・副業、Dさんにとっては・・・と様々です。要するにユーザーの数だけ異なるゴールが存在し、現在地が異なることからゴールに至るアプローチも異なります。

 よってサブスク2.0のように特定の機能を提供するだけ(材料を提供するだけと言い換えることも可能)では完結せず、抽象的でより上位の目標達成に向けカスタマイズされたサービス(材料ではなく解決策に相当する加工された料理と言い換えることも可能)が必要となります。これがユーザーによって効果の感じ方が異なる部分であり定量化しにくいサブスク3.0の仕組みです。 

 今後、サブスク3.0型サービスが普及する際のボトルネックが上記の分かり難さ=定量化し難さです。●回利用すれば△円の価値がありお得、という物差しが存在しないため個々のユーザーがサービスの価値を見極める必要があります。よって3.0型サービスは2.0型サービスのような普及曲線は描きにくいのではないかと思います。理解されるまでにより多くの時間を必要とすることから収益化のタイミングが後ろ倒しになる傾向があるかと思います。 

 メリットとしては熱心な顧客(ファン)を獲得しやすいこと、本質価値を理解した顧客が長期に渡りサービスを利用する可能性が高いことが挙げられます。2.0型に比べて3.0はロックイン効果が高いことも特徴であり、一度使い始めると類似サービスにスイッチするハードルが時間経過とともに高まります。動画サービスなどの場合はこのスイッチングコストも囲い込み効果も弱いことからネットフリックスの直近の決算を見ると分かりますが容易に利用者の減少が発生します。2.0型サービスが代替可能な単機能サービス型であることが理由です。 

 ユーザーの行動背景にある目的に即したアプローチを採用している場合、個々のユーザーニーズに合わせて複数サービスを組み合わせ個別にカスタマイズしている場合などはそのサービスは唯一無二の性質を有することで類似サービスとの差別化が図れるのです。これが次世代サブスクにおける付加価値になります。 

 今後はこのような定量評価が難しいサブスクに対する物差しが必要になってきます。どのような評価方法が適切か検討しておりますが、答えはまだ出ておりません。これは3.0型が様々な派生パターンが検討可能なことに起因します。金融サービスだけに限定すれば評価方法が無いわけではありませんが、様々な3.0型サービスを評価できる物差しはまだ思い付いておりません。この点は今後も検討を続けて参ります。 

 サブスク3.0のもう1つの特徴としては専門家サービスにかかる費用の固定化という効果が存在します。金融であればFPや税理士等に相談する際に発生するフィーに相当する費用を固定化することが可能です。厳密にはパーソナライズされた専門家AIを用いることで代用します。

 以前から士業はAIの発展によって危うくなると言われておりますが、これは士業に限ったことではなく専門知識という壁で守られていた全ての業種に言えることであり、今後のサブスク3.0型サービスの中に学習型の専門家AI的な機能は必ず実装されることになり、単純な専門知識に価値が存在する時代は終わります。もちろん特定の職業に限定された専任業務は残るかと思いますが、多くの業務が段階的に専門家AIに代替されます。よって今後は専門家AIを使いこなす専門家、専門家AIでは実現不可能な付加価値を提供する専門家が生き残ることになります。

 例を挙げてみます。

 あなたが自身の家計や収支に関してファイナンシャル・プランナー(FP)に相談するとします。特定の金融機関に紐づいていないFPの場合には中立的なアドバイスをするため相談時間に応じてフィーを請求する形が一般的です。単価を1万円と仮定し初回相談を2時間とすると当初費用は2万円です。この場合、2万円で収支シミュレーション(キャッシュフロー図)・問題点の洗い出し・アクションプランが手に入ると考えます。 

 上記は専門家の時間を単価で購入しその時点のインプットに応じたアウトプットを得る契約と言えます。現状のライフプランニングは上記モデルですが将来的には以下のような形に変化します。 

 あなたはFPに提出した情報と同様の情報と希望条件をアプリにアップロードします。アプリは即座に数種類のあなたに適したプランを提示します。(初回プロセス)アプリは以降、継続してあなたのお金に関するデータを自動的に収集・分析し、目標の達成確立・ギャップ分析、達成に向けたアドバイス、プランニングの見直し等をアプリを通じて提案します。そしてあなたの行動を学習し、よりあなたに適した提案・助言が可能なパーソナルアシスタントへと進化します。 

 リアルなFPとの違いとしてアプリは特定時点の情報におけるアドバイスではなく、日々の生活から取得される情報に基づき随時アップデートし、分析結果からユーザー傾向を把握しパーソナライズされたサービスの提供に努めます。ベースがAIであるため利用時間に応じた課金という概念は存在せず、月額●円という固定額で継続利用可能です。仮に月額500円の場合には年額で6,000円です。専門家フィーと比較した場合どうでしょうか? 

 FPのようなコンサルの場合、1年に一回程度の頻度で見直しが必要です。(最低でも3年に1度程度は必要)サブスク形式の場合には継続利用の中でリアルタイムな見直しが可能であり、定点チェックと比較して効率的です。よって将来的には専門家業務の一定割合は専門家AIで置換可能です。職業によって置換度合いは異なります。法人向けサービスは人によるサービスが残る傾向が高いと思いますが、B2C向けサービスは多くが安価な専門家AIにシフトすると考えます。 

 とはいっても3.0型サービスも基本的には補助ツールに過ぎず、目的意識をもって使いこなすことが出来て初めてその価値を発揮します。ただサービスの設計上、より包括的・本質的な部分までサポートできる形になっています。 

 先程、金融は目的ではなく手段に過ぎないと言いました。大事なのはサブスク3.0型の金融サービスを利用して何を実現したいのかということです。先程紹介した金融を対象にした3.0型サービスはキャッシュフローの最適化・最大化を通じた自己実現・理想とする生き方の実現を目指すサービスと表現できます。

 これまで存在しなかったコンセプトに対してユーザーがどの程度の価値を感じ、どの程度の対価(費用)を支払うことに合意するかはこれからのサブスク3.0サービスの鍵となります。

 記事が面白い・役に立ったと感じたらスキ・フォローいただけると幸いです。Twitterでも情報発信しておりますので良ければフォローください。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?