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高度なAIによる第四次産業へのシフト


1. はじめに 

 人類は技術の発展(産業革命)を経て、一次産業から二次産業・三次産業へとシフトしてきました。現代社会は知的労働に該当するホワイトカラーの第三次産業が経済全体に占める割合が高い傾向にありますが、高度なAIの登場により変化が生じる可能性があります。 

 本稿では高度なAIを用いた技術革新による「第四次産業」という概念について整理し、第三次産業の縮小と第四次産業の発展について今後のシナリオを示します。 

2. 第四次産業とは 

 第一次産業は農業・林業・漁業などで人間が昔から生きるために行ってきた生存に関わる基本的な産業です。第二次産業は産業革命による機械化によって発展した各種製造業や建築業などが該当します。どちらかというと機械を利用する肉体労働が多数を占めます。 

 第三次産業は幅が広く金融・小売・サービス業全般などが該当します。第三次産業は知的労働と肉体労働が入り交じっており、割合としてはホワイトカラーの知的労働が多い傾向にあります。 

 日本は戦後、第二次産業である製造業で大きな成長を遂げました。しかしながら情報化と結び付く第三次産業のデジタル化・IT化で失敗し、米国・中国に大きく差を付けられる結果となりました。 

 そして現在、高度なAIの登場により第四次産業が形成されつつあります。第三次産業の従事者がホワイトカラーの知的労働者だとすると、第四次産業の従事者は「第三次産業の労働者に取って代わったAIをマネジメントするAIマネージャー」となります。 

 これから5年~20年のスパンで現在のホワイトカラー労働の多くはAIソフトウェアかAIロボットに代替されます。これまで100人の労働者が必要だった業務がAIソフトウェアと5人の労働者で処理することが可能となります。 

 この結果、徐々にホワイトカラー労働者がAIソフトウェアに代替され、ブルーカラー労働者がAIロボットに代替されるようになります。順番としてはホワイトカラー業務の代替が先に訪れ、AIロボット開発の損益分岐点がブルーカラー労働の損益分岐を超えた段階で肉体労働も代替されます。 

 この結果、第三次産業の中心はAIソフトウェアとAIロボットとなり、人間労働者は補助的な立ち位置となり就業者も少数となります。 

 代わりにAIをマネジメントする職業の需要が新たに誕生します。これが「AIマネージャー」です。AIマネージャーがマネジメントする対象はAIです。一部で人間労働者のマネジメントも含まれますが、労務の中心はAIマネジメントとなります。 

 これが未来における産業構造変化のシナリオの1つです。AIを前提とした社会におけるAIマネージャーは労働者ヒエラルキーの上位に位置付けられます。相対的にヒューマンマネジメントの必要性が低下することから管理職の定義・立ち位置も変化します。 

 これまでの社会では経営者・管理職・一般労働者の順で序列が定まっており、賃金や権力も序列に応じたものでした。しかしながら今後は、経営者・管理職の地位が相対的に低下します。 

 序列としては経営者・AIマネージャー・管理職・一般労働者という形となります。とはいえ経営者と優秀なAIマネージャーの差は大きくありません。組織の指揮命令系統で経営者が上位となりますが人材としての付加価値だけであればAIマネージャーが経営者に勝る場面があります。 

 従来型の管理職は地位が低下し絶対数も減少します。一般労働者は地位に変化はありませんが絶対数が大きく減少します。将来的に管理職・一般労働者は3割~8割程度減少する可能性があります。 

 代わりに2割くらいのAIマネージャーが新たに誕生します。労働市場全体を俯瞰すると各プレイヤーの比率が大きく変化することとなります。現状は経営者が10%弱、管理者が20%、一般労働者が70%と仮定します。 

 今後は経営者が5%、AIマネージャーが20%割、管理職が5%、一般労働者が10%、AI労働者が60%というような比率になりかもしれません。第三次産業の労働の過半をAIが担うことになる、というのが未来のシナリオの1つです。

 人間が担うこともできますが、AIよりも時間を要し処理が不正確で労務管理が面倒で一日8時間しか働けない人間を働かせる場合、最終的に消費者はそのツケを支払うことになり(価格に転嫁される)、経済合理性を追求するとAIが可能な労働はAIにという形になります。 

 労働ピラミッドで整理すると最下層はAI労働者が多数を占め、人間は上位者として存在しますが、問題は「人間労働者が必要な業務の絶対数の少なさ」にあります。 

 より高度化された社会において人間労働者に求められる業務内容・スペックはより高度化・複雑化します。結果として一部の優秀な労働者以外はAIに処理させた方が効率的、という結果となります。 技術進化の結果として人間が不要となる点は皮肉なものです。

 これが冒頭の第三次産業のホワイトカラーの減少に繋がります。過去の技術革新では失われる仕事の代わりに新しい仕事が生み出されてきましたが、AI労働者(ソフトウェア・ロボット)の普及は過去の産業革命とは異なる結果を生み出す可能性が高いです。 

3. 第四次産業の及ぼす影響 

 私はこのシナリオは不可避の運命だと考えています。避けることは出来ないけれど国家政策によって修正することは可能です。何も対策をしなければ厳しい未来が待ち受けています。 

 日本はこれまで雇用の流動化に消極的で社会構造が変化しているにも関わらず抜本的な改革を避けてきました。今後はワークシェアや週3労働が拡大し、副業解禁の加速、個人事業主・フリーランスが増加します。 

 更に雇用の流動化の本命である正社員の解雇規制に関しても踏み込んだ議論が必要となります。解雇規制が緩和されることで諸外国並みに高い賃金設定が可能となることから悪いことばかりではありません。 

 先進国では人口に対する労働人口の割合が低下します。結果として社会保障費の膨張・圧迫を招きます。失業率が20%~50%まで高まる可能性も否定できません。この場合、従来の社会保障の維持は不可能です。加えて税金・社会保障負担が激増することで労働者の負荷が限界に達します。 

 現状の社会フレームワークでは維持が不可能となるため、真剣にベーシックインカムが議論されるかもしれません。もしかしたら別の社会保障モデルが構築される可能性があります。しかしながら無用者階級の増加は社会に少なからず悪影響を及ぼします。 

 2000年以降の格差の拡大は資本主義の追求による資本家と労働者の対立でしたが、今後の格差はAIの普及による労働需要の喪失による資本家・労働者・失業者の対立へと変化します。 

 これまで失業者は大きな勢力になり得ませんでしたが、今後は失業者が無視できない勢力となる可能性があります。それぞれが自身の立場で権利を主張することになります。資本家・労働者・失業者はそれぞれ異なる利害を持つことから全員が満足する政策を存在しません。 

 誰を犠牲にして何を優先するか政治的な判断が必要となります。資本主義と見せかけた社会主義国家である日本の場合、資本家を犠牲として社会全体を成長させるのではなく底辺の底上げのための再分配にシフトする可能性が高いです。 

 底辺への再分配が雇用の増加・経済成長に貢献する場合には政策として何ら問題ありませんが、雇用にも経済成長にも寄与しない場合には再分配は単なるバラマキであり無駄となります。(一応、最低限の効果として内戦・革命の予防にはなります) 

 これまでの日本の再分配は将来の生産性向上に寄与しないバラマキ政策が多く、今後も変わらない可能性が高いです。よって資本家への課税強化と底辺への再分配の傾向は強まりますが、それは底辺の自立を促すものではなく、経済全体を成長させるものでもありません。言ってしまえば捨て金です。

以下、少し厳しいことを書きますが・・・ 

 厳しい状況が続くと政府は企業に対して個人の面倒を見ることを強く要求します。営利目的の企業はボランティアではなく、特定のサービスを社会に提供し対価として金銭を得ます。社員への福利厚生の提供は手段であり、目的ではありません。 

 究極的には利益を得ることが目的であり、社員の雇用はその手段に過ぎません。これまで企業がサービスを提供するには社員を雇用するしかありませんでしたが、今後はバーチャルなAI従業員を活用し労働生産性にレバレッジを掛けることで人間社員は最低限で済みます。 

 企業としては手段である雇用を守ることで存在目的である利益が棄損することになります。企業には最低限の社会的な役割がありますが、雇用を維持することは本来そこに含まれるものではありません。企業は技術の進化に応じより効率的な組織運営により生産性を高めることが求められます。 

 生産性向上に必要な人材の最適化は企業の権利です。しかしながら無用者階級が増加を辿る場合、政府が本来は国家の役目である国民の保護を一般企業に押し付ける可能性が高まります。 

 企業は従業員を雇う負担に耐えられなくなる可能性が高まり、雇用リスクを考慮しより少数精鋭で組織運営する傾向が高まります。負のスパイラルにより雇用の間口が狭まることにより失業者が益々増加します。 

 これが高度なAIがもたらす社交構造の変化に伴うバッドシナリオです。何も対策をしなければ50%以上の確率でこの絶望ルートに突入するのではないかと思います。日本は世界的にも治安が良い国ですが、流石にこのような状況化では治安の悪化も避けられません。 

 治安の悪化・増税・社会保障費の増加は資本家の海外移住を加速させる要因です。少子高齢化により下落基調の日本経済はAIによる社会構造の変化で更なる苦境に立たされます。現役世代は将来の変化に備えつつ、人的資本と金融資本の適切な最大化を目指すことが重要です。 

4. 人的資本と金融資本の最適化 

 高度なAIによって労働の位置づけが大きく変化します。安定だった人的資本が急激に不安定化します。組織に頼るだけではなく、副業やフリーランスなどの方法で個人として稼ぐ力を高める努力が必要となります。 

 社会の変化に応じて柔軟に人的資本の形を変化させ、人的資本からの所得の一部を金融資本の蓄積に振り分けることによって中長期で見た人的資本と金融資本の最大化を目指す必要があります。 

 金融資本に関しては来年から始まる新NISAを活用することが第一歩となります。1800万円の生涯投資枠は上手に活用することで大きな支えとなります。人的資本に関しては組織に依存せず個人として稼げる力を身に付けることが不可欠です。 

 資産運用の世界では分散投資が基本ですが、労働市場においても分散投資は当てはまります。終身雇用の幻想にしがみつき、現業に執着すると極端に変化に弱い人的資本となります。独立・副業が出来る準備は必要です。 

 将来的には週3は正社員として勤務しつつ、自身の会社を設立して仕事を受注するような形が普及する可能性が高いと思います。本来、自身の収入を1つに依存することはリスクでしかありません。

 これまではそれが当たり前のように考えられてきましたが、AI労働者の普及によって企業の雇用に関する基本的な方針が変更となる可能性に留意すべきです。 

 過度に組織に依存せず個人としての独立の道も確保しておくこと、これが労働市場における分散です。自身の限りあるリソース(能力・時間)をどの仕事(業種・職種)に投下すべきかをよく考え、必要に応じ分散投資を心掛ける必要があります。 

 特に若い世代(20代・30代)には必須の考え方となります。今後は人的資本の価値を維持・向上させることが極めて困難な時代に突入します。一部のエリート層以外の需要が大きく減少する可能性が高いです。 

 これは昭和の時代と比較して明らかに人生ゲームの難易度が高まった証拠です。昭和の時代、会社員は組織の歯車になることを求められましたが、令和の時代においては歯車はAIソフトウェアやAIロボットが代替するので不要です。 

 より高度な人間にしか発揮し得ない付加価値に重きが置かれます。しかしながら高度な付加価値業務の間口は極めて狭く、パイの取り合いとなります。

 中国では若年層の失業者増え「寝そべり族」と呼ばれる層が増加していますが、世界中でAIによる社会構造の変化によって同様の事象が発生するかもしれません。 

 AIの普及は社会全体としては進化ですが、皆が等しく恩恵を受けるわけではない点に注意が必要です。重要なことは恩恵を受けられるポジションに立つことです。細部まで見通すことは困難ですが社会の変化の大枠を想像することは割と簡単です。 

 大枠となるメインシナリオに従って今からリスクヘッジに向けた行動に着手することが恩恵を受けられるポジションに移動するために必要なこととなります。何が必要かは各人が置かれた状況によって異なります。 

 叩き台の検討には本記事と自身が置かれた状況をAIに入力してアクションプランを複数提示してもらい、その中から自身の考えに近いものを選択しブラッシュアップして計画を詰めていくのが良いかもしれません。 

 私は本記事のシナリオとは別に2つのシナリオを想定し、人的資本と金融資産の最適化に取り組んでいます。最近は資産運用について言及される機会が増えましたが、資産運用だけでは金融資本のマネジメントに留まり、人的資本のケアが不十分です。 

 これからの時代を生きる社会人には「人的資本+金融資本の合計値の最大化」を念頭にライフマネジメントに取り組んでもらいたいです。 

 令和の時代の人生ゲームの難易度はMAXです。無策で突き進めばほぼ確実に討ち死にします。私はファイナンシャル・ライフマネジメントの観点から「人的資本+金融資本の合計値の最大化」に資する新しい形の金融サービスについて現在検討しています。 

 事業化は未定ですが一定の需要が確認出来たらサービスを立ち上げかもしれません。B2C向けのオンライン金融サービスは従来であれば一定規模の資本金や人材が必要不可欠でしたが、高度なAIの活用により資本・人員数ともに今までの数分の一で済むようになりつつあります。今後は意思決定の素早い中規模組織が付加価値創造の鍵となるかもしれません。

 

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