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現実資産(RWA)のトークン化という幻想


1. はじめに 

 多くの人が「トークン化」というものの本質を理解していません。トークン化という単語を用いれば自動的にデジタル化され権利が備わるわけではないが、誤解している人があまりにも多いです。
 
 トークン化の多くは発行者が「自称」しているに過ぎないことを認識する必要があります。ある権利・実物資産をトークン化したというケースの殆どは「トークン化したつもりだ、トークン化したと思っている」であることに注意が必要です。
 
 定義が曖昧なトークン化だが文脈や使う人次第で意味が異なる点には注意が必要です。これはビジネスの曖昧さとも関係している。トークン化を手段として用いるビジネスとしてはWeb3や有価証券のデジタル化などが存在する。
 
 後者は法令で要件が定められ発行ルール・取引ルールが定められており「価値ある資産」の表現方法を従来の中中型の帳簿管理から分散型のデータの共有とトランザクションの承認により実現している。
 
 一方で前者には定められたルールが存在しない。言い換えると無法地帯となっている。トークン化で危険なのは間違いなく前者であり、希望的観測に基づく幻想が蔓延っている。本稿ではトークン化の実態について整理し、最近話題の現実資産(RWA)のトークン化という事象についても触れるます。

2. 言ったもん勝ちのトークン化

 コインデスクジャパンの記事を参考記事として紹介します。

 記事では美術品・不動産・車などの現物資産のトークン化について説明されています。記事を読んで「へぇ~、美術品・不動産・車もトークン化出来るんだ、凄い!」と思った方は注意が必要です。 

 説明内容に矛盾が無いか・合理的かどうかのチェックが必要です。Webメディアが普及する以前、メディアは権威であり特権階級でしたが、今では誰もが自己発信出来る時代です。 

 メディアも同様で個人でも立上げ可能な時代です。特に最新テーマに関してはメディアに専門性が存在せず、ファクトチェックも不十分なまま執筆者の原稿をそのまま掲載するケースもしばしばあります。これによって個人の主張がメディアによって拡散され、あたかもスタンダードのように語られる場面があり注意が必要です。 

3. トークン化の実態

 話を戻すと現物資産とトークン化はそもそも相性が悪いです。現物資産のトークン化は無理筋なものを強引に実現したものが多く、効率性・安全性の観点からベストとは言えません。 

ウォーホルのユースケースは実在のものだ。フリーポート(Freeport)という会社がアンディ・ウォーホルの絵画を分割した権利を提供し、誰でも購入できる作品の権利を表すトークンを1000個作成した。当記事執筆時点では、200ドル(約2万8000円)弱でウォーホルの『理由なき反抗』の1000分の1を所有できる。

コインデスクジャパン記事より抜粋

 例えば絵画のトークン化ですが上記ではトークンを1000個生成し1/1000を所有出来ると説明されています。この説明を読んだ際に疑問を感じた方はアンテナが高いはずです。この説明には矛盾があります。 

 絵画は実物資産であり完全な状態において本来の価値を発揮します。概念的に絵画を千分割し、その1つを所有していると主張してもそこには何ら価値は存在しません。

 絵画は実際には分割不可能な動産であり、概念的に1/1000を所有していると主張しても、絵画は自身の手元に留めることは出来ません。分割状態で使用価値の無い動産を無理矢理デジタル化しても意味のない典型例です。仮にトークンが絵画から発生する収益の分配権に該当する場合は有価証券に該当するので別の整理になります。 

 不動産・車なども同様で実際のところ分割された一部を所有しても意味がありません。不動産の場合は1部屋単位の区分所有であれば価値はありますが、細切れにすると1部屋未満の所有単位となり、動産本来の機能を発揮することは出来ません。 

 これらの動産のトークン化は実際のところ「無意味な区分所有かシェアリングサービス」であることが実態です。自身で管理・処分は出来ませんし、動産本来の価値の発揮も難しいです。 

 加えて、法的には権利の帰属が問題になります。表面上は数百人が権利を有しているように見えても登記上・契約上の所有者は限定されます。権利者のように見えて無権利者であるものが多数存在します。 

 更に動産の場合はデジタルデータであるトークンの移転(譲渡)と現実世界での権利の移転、動産の移転(必要に応じて)を連動させることが困難です。オンライン上で譲渡が完了しても、現実世界で権利を行使できなければ価値がありません。現状のリアルアセットのトークン化はこの問題を解決出来ておらず、解決策が備わっている場合にも複雑でコストが高く付く場合が殆どです。 

 トークン化と相性が良い資産は間違いなくデジタル資産です。トークンの譲渡と一緒に紐づくアセットの譲渡が完了し、権利処理まで完了出来れば価値があります。ブロックチェーン基盤を活用してトークン化するだけでは必ずしも権利や所有権をトークン化したとは言えません。それを法的に認める制度、技術的に確保する方法が不可欠です。 

 STの場合には法的に認める制度改正がありましたのでトークン化された有価証券の価値は担保されています。しかしながら他の資産では法的に担保されておらず、事業者・発行者の信用リスクに依存する危険な状況です。 

再度記事に戻ります。 

ウォーホルの絵に話を戻すと、1000人が1つの作品の権利を所有していれば、他の所有者と調整する必要なく、いつでもその権利を中心に投機や取引ができる。1人の売り手が1人の買い手に売るために、ギャラリー、鑑定士、弁護士、銀行を使って、それぞれに手数料を払う代わりに、売り手と買い手は互いに直接取引し、最小限の取引手数料だけを支払って、即座に資産を譲渡できる。

コインデスクジャパン記事より抜粋

 細切れにされた実物資産のデジタル上の権利に価値がないことは先ほど説明した通りですが、記事ではシステム上の取引(譲渡)が出来る点についてのみ言及しており、「価値」の存在が置き去りにされております。細分化された概念上の権利は表面上は価値を有するかもしれませんが、実態として実物資産が有する価値が存在しません。 

 トークン化された実物資産の譲渡は一見するとDVP(Delivery Versus Payment)が実現できているように見えますが、全然出来ていません。デジタル資産であれば設計次第でDVPに限りなく近い仕組みが可能ですが、実物資産の場合には不可能です。 

 単にラグが生じるだけであれば決済完了までの時間的リスクのみですが、実物資産のトークン化の場合にはそもそも現物の受け渡しが完了しない事態が容易に想定できます。この点について法的な保護が困難な場合、取引相手方(事業者)の信用リスクを負うことになります。 

 このようなデメリットを背負ってまで実物資産のトークン化に価値は存在するのでしょうか?従前の取引方法と比較して本当に優れていると言えるか検証が必要です。少なくても日常生活を送るうえでトークン化された●●を利用しなければならない状況に遭遇することはありません。 

 また王道の資産形成を目指す場合にもトークン化された資産は不要です。手数料が安価な株・債券・投信などを組み合わせることで充分なポートフォリオが構築可能です。

 現実世界においてトークン化された現物資産には実需は存在せず、虚需に過ぎないというのが結論です。結果として投機の対象としてマネーゲームの中で売買が繰り返されます。金融緩和の終了によるイージーマネーの喪失によって相場が崩壊するリスクが存在します。 

 技術の進化によってまるで錬金術のように新しく画期的な商品が次から次へと登場しますが、我々はそれらが本当に投資や実用に足るか精査する必要があります。世の中の多くは宣伝通りではありません。論理破綻しているサービスも多々存在します。

 賢明な投資家は己の認知の及ぶ範囲で理解できることに投資を行います。バフェットですらこの原則に従っています。我々も投資は自信が理解できる範囲に留めることが最善です。

 尚、バフェットはトークン化を含む仮想通貨全般に関して否定的な見方を示しています。技術的に理解し難い点に加え本質的に価値が無い、というのが理由のようです。 

最後にバフェット氏の発言に関連する記事をいくつか紹介して終わります。
これらの考えが正しいかどうかは各々で判断が必要です。

 





 

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