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個人投資家の資産管理会社の活用①

1. はじめに 

 私たちは個人として活動しつつ、企業を通じて法人の一員としても活動しています。本投稿ではこの考え方を「投資家」としての自分にも適用することで資産運用の幅が広がるのか、人生をどのようにマネジメントすることが出来るのかを整理します。本文の中で具体的な数値を用いて計算しているサンプルがありますが、細かな条件を割愛している部分もあり概算数値となることにご注意ください。 

2. 個人投資家と法人投資家の使い分け

 私たちは常日頃から個人と法人の立場を使い分けながら生活しています。個人としての私と●●という仕事上の肩書を背負った私というイメージです。どちらの私も本物であり、場面に応じて(プライベートとビジネス)使い分けています。このような発想を「投資家」としての私にも拡張してみることが本投稿の目的です。

 一般に投資家は個人投資家(アマ)と機関投資家(プロ)に分けられます。多くの投資家はサラリーマン兼投資家のアマチュアであり、業としての投資家(年金基金・保険会社・銀行・ファンド)には該当しません。よって資産運用=個人としての自分、の立場での投資となります。ここに法人としての立場を加え資産運用を2つの立場でマネジメントすることを検討することで投資家としての幅を広げることを検討します。 

 具体的には個人投資家として証券会社で特定口座やNISA口座を活用しながら資産運用を行いつつ、自身の財産管理を目的とし資産管理会社を設立し一部の資産の運用を移管します。資産運用において個人と法人を使い分けることが可能となります。尚、資産管理会社の設立・管理の前提として一定の資産を有していることが前提となります。 

3. 生涯投資の時代背景

 昭和の時代、多くの労働者(サラリーマン・自営業者)にとって資産運用は身近なものでもなければ、必須科目でもありませんでした。どちらかというと「投機」としてギャンブルと同義で扱われることが多かった時代です。 

 しかしながらバブル崩壊・平成の30年を経て価値観は大きく変化し、社会情勢も変化しました。30年超の間、経済が成長せず賃金が上昇しないにも関わらず、社会保障費・各種税金が増加を繰り返しており、企業の実質負担は年々高まっております。企業の名目賃金は上昇しておりませんが、社会保険料の50%は企業が負担していることからこれらの間接費用の負担は増加し続けています。 

 昨今、内部留保が槍玉にあげられることが多いと感じています。しかしながら解雇規制が厳格な日本において解雇は容易ではありません。内部留保は不況時の備えにもなりますし、倒産リスクのヘッジにもなります。結果として企業は非正規社員を多めに配置するか、自主的な早期退職を募ることになります。

 このような社会情勢を揶揄して最近では日本を「衰退途上国」と表現することがあります。言いえて妙ですが、自虐的な印象を受けます。日本の社会情勢の変化と緩やかな衰退は多くの要因が絡み合っており特定の要因を悪者にしても問題解決は困難です。

 日本という国・社会の性質を考慮すると今後も劇的に変わることは困難と思われます。であれば、「経済は成長しない・政治は変わらずシルバー民主主義が継続する・少子高齢化が加速する・社会保障費は今後も増加する・様々な税金が引き上げられる」を前提にどのように行動するかを考える必要があります。

 今後は親がよほどの富裕層でない限り資産運用が必須となります。加えて「生涯投資」の視点を持ち社会人となってから死ぬまでの間、投資を継続することが必要です。一般に長期投資というと20年~30年くらいの期間を想定するかもしれませんが、「平均寿命-22歳」で計算すると60年程度の期間、資産運用と付き合うことになります。生涯投資の時代における投資期間は従来の長期投資よりもずっと長いことが分かります。投資は一部の特別な人の行為ではなく、誰にとっても当たり前の行為へと変化します。 

 投資の位置付けが変化する中、投資に対するアプローチも必然的に変化します。昨今ではFIREと呼ばれる動きや独立・起業、副業・兼業など様々な働き方・生き方が模索されています。どれが正解ということはありませんが、従来のように新卒から定年までを一社で勤め上げ、副業・兼業もせず、週5オフィスに出勤するようなスタイルは少数派になると考えます。社会の流動化は個人の主義主張を超えて拡大し、個人は否が応にも適応を求められます。

 「社会の変化の中、投資家としてどのように振る舞うか」これが本稿のテーマです。私はこれからの社会を見据えて①生涯投資の実践と、②法人の活用を提案します。生涯投資は自身で安定的な収入を得られるようになってから死ぬまで投資を継続する考え方です。投資が仕事であるプロとは異なるので出来る限り時間と労力をかけず継続することが鍵となります。 

生涯投資はフェーズを3つに分類します。ここでは便宜的に「資産形成期・資産維持期・資産取崩し期」とします。投資家は資産形成期から維持期を経て取崩し期へと至ります。生涯投資に関する解説は別の機会に譲り、本投稿では②法人の活用について重点的に考察します。 

4. 資産管理会社の活用

 ②法人の活用は資産管理会社を活用します。個人の資産を法人という「器」を用いて管理・運用することで「個人+法人の合算で最適化」を図るのが今回の検討テーマとなります。個人では特定口座・NISA・iDeCoなど個人が利用可能な制度をフル活用します。個人の場合には利益の20%が分離課税の対象となります。法人との比較の際にこの20%が目安となります。 

 法人の場合、税率は個人よりも高くなりますが経費や損益通算が幅広く認められることから1人法人(マイクロ法人)としてこの点を上手く利用します。法人税は大きく「法人税・法人事業税・法人住民税」の3つに分類されます。このうち赤字の場合は法人税・法人事業税は発生せず、法人住民税のみ支払うこととなります。個人の場合、損益通算は3年が限度ですが、法人の場合には10年まで可能なので決算利益の調整も余裕を持って行うことが出来ます。 

 資産管理会社を設立して法人化することで「経費」の幅が拡大します。まず住宅を社宅扱いとすることで50%~80%の額を経費にすることが可能です。これだけで年間120万(10万*12か月)程度の節約効果が発生します。加えて投資に関連する書籍やセミナー参加費なども全て経費清算することが可能です。1万円~2万円/月とすると年間で20万円程度の経費を法人扱いとすることが可能です。代表者の給与も法人の経費扱いになります。 

 資産管理会社の場合には自身に高額の給与を払うメリットは存在しないことから、運用資産額に応じて控えめな額を給与に設定します。仮に300万円とします。他費用としてオフィス賃料・光熱費・通信費、交通費・会議費・交際費、什器備品費・支払報酬・社会保険料・その他雑費などが考えられますが1人法人であるため金額的には軽微です。諸々を合算した経費が年間500万と仮定した場合、分配金・配当金・売却益の合計が500万であれば損益はゼロとなります。法人の場合は損益通算の猶予が10年間あるので実務的には3年~5年に一度売却益を調整して過年度の赤字を通算するイメージです。 

 マイクロ法人の場合、自身への給与はいくらでもいいのですが、目安の1つとして所得税+住民税の合算が20%以下かどうかが基準となります。これは特定口座の利益に対する課税率をベンチマークとしています。課税所得額が195万~329万円までは所得税率が10%で住民税が10%(こちらは一律です)で合算で20%です。よって課税所得額329万円が特定口座との比較での所得上限となります。尚、329万円は課税所得であるため控除前の年収は600万円でもこのレンジに該当します。 

計算式の詳細は下記の国税庁のページを参照ください。

 仮に年収を300万と仮定すると給与所得控除は「年収×30%+80,000円」の計算式が適用され300*0.3+8となり98万円となります。この場合、給与所得金額は202万円となります。次に課税所得金額を算出します。ここでは基礎控除として48万円が計上できます。(配偶者控除や医療費控除などは属性によって異なるため誰でも適用可能なもののみ採用)

 加えてiDeCoの掛金として月額2.3万円(年額27.6万円)も課税所得から控除可能です。また小規模企業共済を併用することで月額7万円(年額84万円)も課税所得から控除可能です。これらを合算すると202-(48+27.6+84)=42.4万円となります。課税所得額が195万円以下となるので所得税率(額)は5%(2.12万円)、住民税率は10%(4.24万円)となります。 

 社会保険に関しては法人の場合、「国民健康保険・国民年金」ではなく、「健康保険・厚生年金」の適用となります。役員報酬を少なくすることで、国民健康保険・国民年金と比較して少額で済ますことが可能です。東京都で300万円の場合、報酬月額25万円で報酬月額の25万円以上27万円未満の区分の等級に該当し、25,506円/月の健康保険料を労使で折半する形となります。

 厚生年金保険料率は18.3%であるので、25万*18.3%=4.575万円となり労使折半となります。合算すると個人の負担分は概算で12,753(健康保険)+22,875(厚生年金)=35,628円/月(社会保険料)となります。※介護保険・雇用保険は考慮せず。 

 これまでの試算を整理すると手取り25万円から35,628円(社会保険料)、23,000円(iDeCo)、73,000円(共済)、1,766円(所得税)、3,533円(住民税)※均等割考慮せずとなり、控除合計は136,927円となり毎月の手取りは113,073円となります。(全て概算)

 尚、社会保険料を最小に抑えたい場合は月額報酬を6万3000円未満にコントロールすることで圧縮可能です。注意点としては所得額が少ないため、iDeCoや共済を上限まで利用することはできません。各々の考え方に応じて課税所得額を試算し、最適な額にコントロールする必要があります。 

 最適は各々の置かれる環境によって異なり、「マイクロ法人経営者・個人事業主・個人投資家・サラリーマン」などといった属性をいくつ組み合わせ自身のポートフォリオを構築するかによって異なる結果となります。 

 FIREを達成した投資家と仮定した場合、シンプルな構成では「マイクロ法人経営者+個人投資家」という属性を持ちます。この場合は所得税+住民税の税率を20%にコントロールすることが最適化の大方針となります。課税所得で1,950,000円から 3,299,000円までの所得税率は10%であることから先程の前提を利用すると、600万円の給与の場合、給与所得控除額は(年収×20%+440,000円)144万円となります。先程の所得控除枠を当てはめると(48+27.6+84)=159.6万となります。控除を合算すると303.36万円となります。よって課税所得金額は約半分の296.4万円まで圧縮可能です。この場合、3,299,000円までに該当するため所得税率は10%となり、住民税との合算で20%と特定口座の分離課税と同レベルに抑えることが可能です。 

 よって「マイクロ法人の収益=給与600万円+その他費用」をコントロールすることで法人としての決算をトントンにすることが可能です。あとは福利厚生と経費を税理士に相談しながら問題の無い範囲で活用することでサラリーマンや個人事業主と比較して最適な資金コントロールが可能となります。この場合の資産管理会社の役割は過度な節税ではなく所得の分割と法人として利用できる制度の活用であるため、資産管理会社の規模は拡大し過ぎず、一定に保つ方が良いです。 

 仮に資産管理会社で10億円の資金を運用する余力があっても上記前提の場合、1億円~1.5億円程度の資金があれば十分です。1.5億円で3%の配当金の場合、年間で450万円となります。この場合、単年では毎年300~400万円の赤字としつつ、数年に一回のタイミングで売却益を計上することで過去数年分の赤字を清算するイメージです。

 尚、資本金は100万円程度で問題ありません。運用資金は「役員借入金」を活用します。代表者個人のポケットマネーから1億円を資産管理会社に貸し付ける形です。この場合、資本金は増加しないので軽減税率の適用に影響を与えません。また返済期限や利息の有無も柔軟に調整可能で使い勝手が良いです。

 デメリットとしては銀行からの融資が受けにくいという点がありますが自己資金で完結させる場合には影響はありません。不動産の融資を受ける場合には注意が必要です。役員借入金は将来、自身の手から経営を手放すとき・廃業する際に回収するイメージです。例外的なケースとしては運用が好調で増えすぎた場合には運用額のコントロールの一環として貸付金の一部を回収します。 

 法人投資家の場合、有価証券の保有区分が問題になる場合もあるので少し触れます。短期売買目的の場合には損益が期末時価評価で含み益に対しても課税される点に注意が必要です。(売買目的有価証券)本ケースでは頻繁な売買は想定しておりませんので「その他の有価証券」として保有する想定です。法人の場合、投信の売却には「解約と買取」で税務上の違いが生じます。(個人の場合にはどちらでも同じ)ざっくり言うと解約は源泉徴収され、買取は源泉徴収されない扱いとなります。 

 投資家として個人と法人を使い分けた運用の概略は以上ですが、オプションとしてマイクロ法人(給与所得)と個人事業(事業所得)の損益通算という技もあります。FIREしてのんびりと過ごしたい方は該当しませんが、趣味として継続したい仕事がある場合には個人事業主を継続することで所得を事業所得として扱うことが可能でマイクロ法人の給与所得との損益通算も可能です。 

 資産管理会社を活用せず個人投資家として活動する場合、対外的には無職でありちょっと肩身が狭いかもしれません。厚生年金の対象にもならないため将来回収できる資金が減少します。法人化の利点として給与を低水準にコントロールすることで国民健康保険・国民年金よりも安価に健康保険・厚生年金の適用を受けることが可能となります。

 加えて経費をある程度コントロールすることもできるので一定額の資産を運用する場合、その一部を法人に切り替えることは合理性があります。逆に対外的に一切、所得が無いように見せたい場合には特定口座の源泉徴収あり口座の中で全て完結させるのが良いです。この場合、住民税非課税世帯の適用が受けられることから優遇措置を受けることが出来ます。 

 今後は多くの投資家が個人と法人の立場を使い分けることになると思われます。税制は毎年改正されることから投資家にとって有利な制度はこれからも潰される可能性が高いと思います。投資家その都度、活用できる制度をフル活用しながら制度が許す範囲で合理的に最適な行動を続けるに尽きます。その際に個人+法人の合算での最適化の視点を持っていただければ本投稿の目的は達成されたも同然です。 

 今回は投資家として個人と法人の使い分けの第一弾として戦略の概略に触れました。本テーマは生涯投資を迫られるこらからの時代の投資家にとっての基礎科目となります。社会の変化に応じて自身の働き方・投資家としてのスタイルの最適化を模索する学問です。今後も定期的に情報のアップデートを続ける予定です。

 

 

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