052 | 最近見た映画

(※、各作品についてネタバレが含まれます)




残穢(ざんえ)
小野不由美の原作を先に読んだ。元々昨年の暮れに東京国際映画祭に出品とかってネット記事が目に入り、でも一般の劇場公開は何ヶ月か後で、我慢できずに活字に手をつけてしまった。

読み進めるに連れ薄ら寒い空気が這い上がる、静かなホラー小説だった。リアルタイムで只事じゃない現象も起こるけど、それでドキっとしたりゾワぁ〜となるより、その謎を主人公の小説家 “” と、読者の “久保さん” が、探求・発掘する流れがグっと来る。コワいんだけど謎に向かって遡る過程は、ちょっと浸っていたくもある。小説家や、怪談そのものも重要な要素であり、そういうものも含めた日常がみるみる裏返る。

原作先に読んでしまったけど、遅ればせながら映像ソフトがリリースされたのを借りて観た。先に原作読んじゃうと、映像作品は残念に感じる時があるけど、映画「残穢」は活字を読んだ時の空気感や時間感覚が、いい塩梅に置き換わっていた。近年流行りの所謂ジャパニーズ・ホラーとして観たら地味かも知れないけど、嫌ぁ〜な感じが積層されていた。
久保さん役の橋本愛が、ボーダー柄のシャツばかり着てたのは何かの伏線だったのだろうか(笑)。

2016年日本映画 監督:中村義洋
https://www.youtube.com/watch?v=JHtyWAkX3zo




10クローバーフィールドレーン
密室サスペンスものと言えばいいのか、今時そんなシンプルで懐かしささえ漂うシチュエーションの映画、よく撮ったなと製作陣の心意気に喝采を贈りたい。子供の頃、テレ東「午後のロードショー」とかで見て震え上がった、テレンス・スタンプ主演の「コレクター」を思い出した(古い・苦笑)。

本作はシンプルなプロットだから具体的に内容は触れないけど、主演の1人=ジョン・グッドマンがいい味出していた。これまで私が知るジョン・グッドマンは「オールウェイズ」の消防飛行士役や、「アルゴ」の映画プロデューサー役など、いずれも笑顔の似合う気のイイおっさんだったけど、本作のジョンはほぼ全編仏頂面。で、体格もいいもんだから威圧感がある、コワい。と言うかその強面大男がジョン・グッドマンだった事に最後まで気づかなかった、役者って凄い。
観る時は公式サイトや予告編見ず、事前知識を一切入れずいきなり視聴がオススメ(←無茶な注文)。

2016年アメリカ映画 監督:ダン・トラクテンバーグ




フリスコキッド
しばらく前、DVD3枚で2000円とかって安売りで買った内の1枚。買ったら満足しちゃったか、他の2枚がよほど面白かったのか、ずっとDVD棚の肥やし?になっていた、その「フリスコキッド」をやっと観た。

なぜそんなン買ったかっつーと、タイトルさえ知らなかった、主演がジーン・ワイルダーとハリソン・フォードという異色コンビだったから。ちなみに'79年製作、日本では劇場未公開のコメディー西部劇。
’79年と言えばハリソン・フォードはもう’77年に「スターウォーズ」に出た後。ブレイク後に喜劇俳優ジーン・ワイルダーと共演なんて、旦那、俺ぁ知らなかったヨ。例えるなら売れ始めた豊川悦司と、伊東四朗が共演!みたいな意欲作。

しかし序盤の展開がヌルくて、それで購入直近の視聴を途中でやめちゃったらしい私。あらためて全編見たら、不思議なコメディーだった。
無名時代ならともかく、ブレイク後にハリソンがコメディーに主演するのも奇特だし、そこに職人芸のようなとぼけた大真面目な演技でジーン・ワイルダーが笑わせに来るのだけど、なんか、時々、あまり乗り切れないネタが炸裂する。
いい加減に撮ってるとか駄作って感じゃないのだけど、どこか焦点がボヤけてる。もしかしてその事自体がコメディーなの? なら私のようなボンクラ映画好きにはレベル高すぎる><。

そう思わせた本作の監督名を今回確認してビックリ、私の魂の飛行機映画「飛べ!フェニックス」(’65年)を撮ったロバート・アルドリッチその人だ。アルドリッチと言えば他にも「特攻大作戦」や「北国の帝王」など、ギラギラした漢(おとこ)の映画をガっツンガっツン撮ってた御仁、コメディーなんて撮ってたんか。

謎が謎呼ぶコメディー映画「フリスコキッド」は、ゴールドラッシュに沸くアメリカは西部のサンフランシスコに、遠くポーランドからラヴィ(ユダヤ人宣教師)が派遣されるが、災難に見舞われる珍道中もの。そのラヴィをジーン・ワイルダーが演じ、ギョロっとした目の表情とチリチリ頭で笑わし、そのラヴィと共に旅する事になる、飄々とした銀行荒らしの若者をハリソンが好演。
なのだけど何かが足りない、何かがおかしい。笑えるところは笑えるし、最後なんてちょっと感動的だけど、摑みどころがよく分からないロードムービーだった。映画ってまだまだ奥が深い・・。

ジーン・ワイルダー ファン、また日本語吹き替え洋画ファン、にとっては未だ不滅の人気を誇る、私も好き過ぎて日本語吹き替え音声付きDVDが初めて出た2010年に発売日と同時に手元に届くようにポチった「大陸横断超特急」(’76年)のように、主演のジーン・ワイルダーを広川太一郎がノリノリで吹き替えたバージョンの「フリスコキッド」が存在したら、その楽しさは何倍も底上げされただろう。ちなみにその場合のハリソンの吹き替えは、やっぱ磯部勉しかいないだろうなー。

1979年アメリカ映画 監督:ロバート・アルドリッチ
https://www.youtube.com/watch?v=oOZP2iKns3M




リトル・マエストラ
大手動画サイトで無料公開されていたのを観た。
北陸の小さな入り江の漁業町に、小さな有志の楽団があるのだけど、多分がんばってその楽団を引っ張ってきた老指揮者が亡くなってしまう。町の助成を受け細々活動していたが指揮者がいないんじゃ助成はと、役場から沙汰が下る。

そこで団員考えました、なんでも老指揮者の才能を受け継いだ孫である若き天才が都会にいるから、冬休みの間だけでも呼び寄せて、アマチュア・コンクールの出場目指して頑張ろう!  が、話はそんなうまくいかないのである。

楽団のレパートリーは「威風堂々」1曲、炭鉱町を舞台にした同じく楽団もの、ユアン・マクレガー主演「ブラス!」にオマージュ捧げちゃったのか、お約束だ。
また、ジーン・ハックマン主演「勝利への旅立ち」や、ジョン・キャンディー主演「クールランニング」などのスポーツものに、第一線や中央から脱落したやさぐれコーチが、ローカル駄目チームを鍛え直す話があるが、実は誰よりも再生しちゃうのは他ならぬコーチ自身だったという展開の、本作は極東島国非体育会系アレンジと言えるかも知れない。

リトルマエストラなどと評され漁業町に歓迎された孫の女子高校生は、実は学校生活がイヤで逃げて来たも同然のはみ出し者だった。もはや楽団は空中分解寸前・・。
ストーリーはTVドラマ的と評されるかも知れないし、web上でも酷評が見受けられたけど、私はなんだか嫌いになれない、好きな映画だ

脇を固める前田吟、蟹江敬三、篠井英介、小倉久寛らベテランが、手堅く物語を組み上げていた。作り物のセットもあるだろうけど石川県の志賀という町がロケに全面協力した漁業町の佇まい=静かな雪の漁港や、草臥れた集会所や役場や、場面に叙情があるのも良かった。

2012年日本映画 監督:雑賀俊郎
https://www.youtube.com/watch?v=SIy_okkwK4w




日曜洋画劇場40周年記念 淀川長治の名画解説
これ「映画」じゃないし最近初めて見た訳じゃなく、何度も見てて最近また見直した。
タイトルから分かる通りTVの映画枠の淀川長治の解説を集めたものだけど、これが素晴らしいの一言に尽きる。内容は52作品=130分もあるが、見始めると最後まで見てしまう。

40周年(2006年現在)とあるが、その40年前の放映当時の解説映像は残ってない。現存してて本ソフトにも収録されている最も古い解説は’73年放映の「大いなる西部」について。勉強不足の私はその「大いなる西部」未見だけど、それでも淀川さんの解説は楽しい。

それ以外の多くの作品、「ローマの休日」や「サイコ」や「ミクロの決死圏」や「スティング」や「燃えよドラゴン」や「2001年宇宙の旅」や「JAWS・ジョーズ」や「普通の人々」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」や「刑事ジョンブック 目撃者」や「ダイハード」や「ターミネーター」や「シザーハンズ」や「ラストマンスタンディング」や、地上波ゴールデン枠だからハリウッド映画が殆どだけど、誰でも1回は見た事ある往年から近年の作品が、淀川氏の名調子で紹介&解説される。で、紹介された作品は思い出してまた見たくなる。

これは映画の解説集であると同時に、映画の使者が遺した “讃歌” だ。私はこの解説集を時々見たくなる、で、見ると胸が熱くなる=とにかく映画というものを見たくなる。私はこれら解説の、魂の名調子を死ぬまで忘れない。忘れないように何遍も見る。

いつか私も自分の好きな映画について「このキャメラ、キャメラ、キャメラがいいですね」などと語ってみたいものだ、カメラじゃなくてキャメラだ! いつか私も、どんなにシュっとした二枚目俳優が出ててる作品でも父親役の時は「このオトっァンがいいんですね」などと評してみたいものだ。いつか私も「スターウォーズ」の映像技術を語る上で、リュミエール兄弟の「ラ・シオタ駅への列車の到着」を引き合いに出してみたいものだ。

また、この日曜洋画劇場以外にも、以前は淀川さんが映画を紹介する番組があって、それにそそのかされ幾つ映画を見る事になったか知れない。淀川さんがいなかったら、私は趣味の1つに映画鑑賞を挙げる事はなかった。
ちなみに淀川さん、どんなヘボ映画でも何か1つは “良かった” を見出す天才でもあったから、是非とも「ザ・ビースト/巨大イカの逆襲」とかを網羅する、トホホなZ級映画編の解説集も出して欲しい(微笑)。

https://www.youtube.com/watch?v=8IhWMofnD3c
そうこうしてる内に「DX版」が出てた><