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42【揺らぐ揺らぐ決心】


6月24日 11時 虎の門病院に着く

この時点でムウは覚悟を決めていた

ムウの運命はムウが決める

揺るぎない気持ちで
先生にムウの気持ちを伝える

何をどう言われたとしても
小さい方の手術を選ぶと



いつも通り、13時ごろ

滝川さん 診察室へどうぞ
と呼ばれる

あ、お待たせしてすいません
あと、
わざわざ来てもらってすいません

やっぱり顔を見て話さないとね
とっても大事なことなので。。。

はい、よろしくお願いします


で、

上まで切らない術式を希望する

ということですよね

はい、その通りです。

メールにも書いたとおり
術後のことを考えるとやはり
そういう結論に至りました

そうなんですね
わかりました

もちろんその選択は尊重しますし
最終的に決めるのは滝川さんなので
そう決めるのであれば
そちらの方法で全力でやります

ただね
先日も話したとおり
我々、医者はやはりどうしても

最善の方法をオススメしたい

という
習性を持っていましてね

今の滝川さんの状態から考えると
やはり先日、私がオススメした方法が
最適だという考えであることは
変わらないということは理解してほしいです

(ドキドキが激しくなってくる)
(もちろん不安が増してくる)

そうですよね、、、

ただ、O先生にも

転移や再発に関しては
どちらの術式を選んでも変わらない


言われたので
術後のリスクが変わらないのであれば
最小限の手術がいいかと思うんです。

先生、仮に今転移の可能性の強い
リンパ節より上まで転移があった場合は
やはり、手術はできないですよね?

はい、再手術というのはまずやりません
その場合は、化学療法になります。

それが効くかどうはは個人差があるので
なんとも言えないのが現状です。

あとね、滝川さん、

食道がんって確かにここ20年で
相当改善はされてきましたけど

5年生存率で言うと
ステージ全体では50%

ですからね

命に関わる病

であることは
しっかりわかっておいた
頂きたいんですよ

なんとなく
治る前提で考えがちですけど

この診察室にくる方の半分は
5年後にこの世にいない

と言うのが現実です

(ムウはこの時点ではまだ怖くて
具体的な生存率からは目を背けてきてた)

20年前だと30%ぐらいの生存率だったんです。
ステージが上がるたびに生存率は変わりますが
そこはしっかりわかった上で
最善をオススメしたいんです

うまくいって治った人のことは
あんまり我々も記憶に残らないですけど
ダメだった人はやっぱり強く覚えてるんです。

あーー
あの時、もうちょっと強く
あの術式を薦めていれば
命はあったかもしれない


と言うようなことを
僕はやっぱりずっと
クヨクヨ考えちゃんですよね

だからゼロを目指せるならば
できるだけそれに近いところに
持って行きたいと言うのが本音です。


揺らぐ
揺らぐ
揺らぐ

このことはこれまでもう
いっぱい考え尽くしてきたはずなのに

揺らぐ
揺らぐ
揺らぐ

ムウは
ムウの命があることを前提に
術後の生活のことを考えてるけど

この先生は
ムウの命がなくなることが
経験値としてリアルにあるんだ

ちょっと

考えが甘いのかもしれない



リンパ節への転移っていうのは
検査では実際にはわからないんですよ

110番に関しても影があるから
可能性が高いってだけで
もしかしたら転移じゃないかもしれない

その場合はもちろん
滝川さんが望まれる術式を選んで
あーよかったねー となります

だけど検査で写っていなかった転移が
すでに上まであった場合
あーあ、手術の意味がなかったね
となってしまうわけです

がんの治療で手術を選択する場合は
全部、

可能性のある部分は全部、
取ってこないと意味がない

んです

ちょっとだけ残して
あとで対処したらいいというものではなくて
そのちょっとがまたすぐに大きながんに
なってしまうので、考えうる限り
全部取るというのが 大前提なんです

逆に

全部取れないならば
手術はしない

ということです


そうか
そうなのか

揺れる
揺れる
揺れる


もちろん滝川さんが
高齢であるとか体力がないとか
持病があるって場合には
大手術に耐えられないし
そんなに長く生きることを
考えるよりは余生を楽しく過ごす
という意味で軽い方の手術を
おすすめすることはありますけど

まだ滝川さんの場合
ここでがんが治ったら
少なくてもあと30年はありますからね

その間の転移や再発のリスクを
限りなく低くしたいというのが
私の考えであり

外科医としての使命

だと思ってます。


だよね
だよね

しっかり治して
可能性を限りなくゼロにして
たとえその後の生活が多少辛くても
生きる!ってことを考えないと
いけないのかもしれない

ビビるな ムウ



で、もし手術後に転移であれ再発であれ
がんが見つかった場合は
もう

自動的にステージ4

になりますからね
(ステージ4の場合生存率は0−17%)

そのこともやっぱり
考えておいた方がいいと思います


(マジかー いきなりステージ4なのかー)

あれだけ決意を固めてきたはずなのに
この時点ですでに小さい術式にこだわる
気持ちはほぼ折れていて、
先生の言うことをきく方に気持ちが向く


そうですね、先生
私は、この病気をだいぶ
甘く考えていたのかもしれません

5年後に生きられない人が
半分であるならば
少しでも生きられる可能性の
高い方を選択するべきですよね。。。


やっぱりここは
先生のおっしゃる通りの
術式で行く方がいいような
気がしてきました。。。

(ちなみにステージ3のムウの生存率は
 5年後で35%である。。。
 こうして自分で自分を説得し始めてるけど 
 ほんとか 本当にいいのか。。)


揺れる
揺れる

こんなの答え出せないよ
誰かー 助けてー

もう やだーーーーーー


とこう着状態になったのを
死ってか知らずか


あと、もう一つ
大事なことがありまして
もし術式を変えるのであれば
ロボット手術という最先端のものを
使った手術をする必要がありまして
先日、決めた日程では手術できないんです

なのでもう少し後ろ倒しで
1から医者の段取りなど調整をする必要が
あるのでそれもあって
わざわざ来てもらったんですよね

あ、そうなんですね。。。。

そう、これまでに4例ほど
やったことがあってうまくいってるので
大丈夫だとは思うんですけど。。。


(よ、よ、4例なのか。。。。。
 これはちょっと逆にその不安も出てきたな
 あんまり自信もなさそうな気配もあるし、、)

(前回予約した流れで全部、段取りしたしなー)

(新月、入院の満月、退院がいいしなー
 それも変わっちゃうのかーーー。。)

と逆にあんまり命と関係のないところで
選択する考えに思考を逃すムウに気づいてはいたが
もうこの選択地獄から早く抜け出したい一心で
なんとなく

お月様の道かけに運命を委ねる

ことに
しようと考え始めた。。。。。
(ここまでのは何やったの。。笑)


わかりました、先生
今日、先生とあって話して
やっぱり先生のおっしゃる通りの方が
いい気がしてきましたので
そちらの方向で行く可能性が
高いと思います。

今日、決めた方がいいですよね?


いやいや 滝川さんはきっと
またここを出たら悩むと思うので
この週末、しっかり悩んでいただいて
連絡してもらう方がいいと思いますよ

いずれにしても
今取ってる予約に関しては、来週なので
他に手術の予定を入れることはないですし
キャンセルや日程変更はできるので
来週、明けにでも連絡いただけますか?



わかりました。
ではその方向でもう一回
しっかり考えて連絡します。

どうも今日はありがとうございました。

あー
いずれにしても
やっぱりなんていい先生なんだーーー

もう、委ねよう

自分の選択は手放そう


ここまでやったんだから
人智を尽くして天命を待つって
とこまで来たと思っていいでしょ?

いいかな?

いいよね?

いいのか?

もーー
わからーーーーん


と一人、レインボーブリッジで
叫びながら帰路に着いたのであった

ただ
もう、ほぼほぼ

考えることに疲れ果てていた

ので
このままの予定で行くことに
腹は決まっていたように思う

(一体、何回、腹きめんねん!)


教訓
:決断はいとも簡単に揺らぐ
:もう自分じゃ決められないこともある
:最後はお月様に任せましょー





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