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16【母と二人の一番長い8分 】


母との関係は難しい

手放しで近づけるわけでもなく
遠くに追いやれるわけでもない

正直にいおう

ムウは母のこと、大好き

もちろんきっとそれは普通に

母から産まれた
誰もがそう思うように

そして
この”大好き”という気持ちを
認めるのにずいぶんと
長い時間がかかった



はじめての幼稚園
母に置いていかれるのがいやで
下駄箱の上に登って
ずっとずっと大声で泣いた

捨てられた気分だった



小学校のころ
母の自慢の子供でいたくて
いろんなことを頑張った

誰よりもかわいくて頭のいい子

手間のかからないききわけのいい子
自分でなんでもできる子
一人で家においておいても大丈夫な子

お手伝いもすすんでできる子

だけど、そんな称号を
キープすることは
容易ではなかった

貧乏暇なしで忙しくする母に
負担をかけたくはないけれど

それでも、かまって欲しくて
いいことだけじゃなく
悪いこともするようになった



はじめて万引きで捕まったとき
母はまさかうちの子が!?とパニックになり

警察署と反対方向にひたすら走ったと聞いた



そして母が理解のできないところまで
エスカレートしていった

ムウも自分で、もう
よくわからないほどに



少年法が適用される
中学2年、14歳になって10日後、4月25日の早朝

目覚めると枕元に刑事が五人
ムウの顔を覗き込んでいた



そして積み重なった数々の事件の審判をうけるため
堺市田出井町8−30の少年鑑別所にいくことで

はじめて母と離れた

(なぜかこの住所と鉄格子の外から聞こえる
 
 ハトのクルック〜クルック〜だけは鮮明に覚えてる)

あー こんなことを書き始めたらキリがない

思い出していくと止まらない



母の話だ



そのあとすったもんだがあって
ムウは柏原市の施設(教護院)に送致される

そこでの辛い暮らしが半年たった頃

ムウは数年ぶりに母に救いを求めた

連れて帰って欲しい

 と


本当に辛かったから

どうしてもだった

しばらくの無言のあと

それは無理よ



ポツリいわれた

のぞみの糸が
プツリときれた

母に完全に捨てられた

と感じた

ムウはいらない子
この世界にいてはいけない子なんだと



そして世界から
施設から逃げた

2階から珍しく積もった雪の上に飛び降り
真夜中、ひたすら裸足で逃げた

もちろん逃げきれずに
翌日に連れ戻されたけど

もう、ムウ自身は元に戻れなかった


この世界から突き放されたまま

二度と







そんな母に
5月3日 会いに行った
ルウや娘や孫たちが
コインランドリーに洗濯をしにいってる間に

ムウが母に一人で会いにいくのは
まずもってありえないことなんだけど


母にいった

あのさ、ちょっと話があってね

顔色が変わった

どうしたの?

うん、実は病気が見つかってね

絶句した


あれこそまさに絶句


たぶん、漫画にかけそうな
時が一瞬止まり

”絶句”の音が聞こえるような絶句



まだ詳しいことはまったくわからんけど
食道と胃の間あたりにそこそこ大きい
ガブちゃんがあることは確かやって


聞いている

聞こえてるかどうかはわからないけど

聞いている

昨日千葉大に行ってきて
これからいろんな検査がはじまって
30日に詳しいことがわかるってさ


だから色々これから迷惑かけるかもしれんけど
よろしくお願いしたい


自分のことはまぁ仕方ないけど
ルウや娘たちのことがやっぱり
どうしても気がかりやから
色々と協力してやってほしい


とさら〜と努めて
たいしたことない風で、

伝えた

その気持ちは本当だった

そうなのね


(母もまったくそうではないくせに
 努めてなんでもないような雰囲気を出して)

まぁいまは二人に一人がガブちゃんになるし
医学も進んでるからそんなに大事に
思わなくても大丈夫よ たぶん


間がしばらくあって



そうか、そうなのね(と、再度つぶやく)

実は私も
あ、しってるとはおもうけど
ガブちゃんやってるからね

大丈夫だから


 うん 大丈夫


と、まったく大丈夫だと思ってない人がいう
大丈夫がこのあとしばらく続くのであった

ごめん、
ずっと迷惑と心配ばっかりかけた上に
こんな病気になって
もしかして先に逝っちゃうかもしれんムウを

どうか、どうか許して欲しい



いや、無理か、許すもなにも無理か

だけどたぶん、最後まで
口にだして ごめん は言えんやろうなぁ

と

なぜかそんなことを思いながら

大丈夫じゃない大丈夫を
ただただ聞いていた



そんなわけでさ
ルウにも昨日の朝、伝えたばっかりで
娘たちにはまだどう伝えていいかわからんから
いまんとこは何にも知らんってことでお願いね

でも、
できたらルウの話し相手に
なってあげてくれたら助かります

彼女が一番、こたえてるからさ



もちろんよ
うん、わかった


でもね、そんなに心配しなくても
大丈夫だから



あなたが一番心配してる。。。

でも、ありがとう
それが、その気持ちが伝わってきて
伝えてよかったと思えてるよ

口にはださんけど
ムウはあなたのことが
ずっとずっと大好きで
ずっとずっと甘えたまんまで
ずっとずっと謝ってる

そしてずっとずっと心からの
ありがとうを伝えたいと思ってる

ごめんね ありがとう




ガブちゃんのこと
誰にも伝えないで昨日まで来たけど
ガブちゃんがわかったとき
母には伝えたいとおもった

なぜか母には早く伝えないと

 と

なぜ、そんなふうに思うのか
自分でもちょっとびっくりしたけど

母には早く

、と


母との関係はムズカシイ
ただ、ただギュッと抱きしめてほしいのに
絶対、そんなことはされたくはない

母との関係はムズカシイ

一番、そばにいて欲しいのに
一番、遠くに追いやりたい




でも、伝えられてよかった

ほんのすこしほんのりと
ほっとした



そうこうしているタイミングで
ルウたちがやってきた

なにごともなかったように

きたよー
孫たちの可愛い声とともに





この間、たぶん 8分ぐらい
ほんの隙間のたった8分

それは、何十年かぶりの

母と二人の長い長い8分だった



このタイミングでしかありえなかった
長〜い長〜い 8分




教訓
:みんな母が大好きだ
:母も子がきっと大好きだ
:言葉と思いは一致しなくても伝わるね




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