ぐにゃぐにゃとした虹の上

とあるライブの帰り道の話。

もう何次会まで飲んだのかも記憶に無く、乗車拒否を繰り返すタクシーに手を振りながら歩いていた。

深夜も3時をとっくに過ぎていたが繁華街の裏道を行ったところにある公園は、縁日のような虹色に輝く電飾が施されていて、何かの催し物が行われている。

こんな深夜に何をやってるんだろうと公園を覗いてみると、そこではバザーが開かれていた。

丁寧に陳列された商品を見てみると、小さい時に読んだ絵本が置かれていた。

ガリバー旅行記。

その横には小学生の頃に買ってもらった 正座早見盤もある。

すぐにスライド盤が壊れてしまったんだった。こちらの早見盤も壊れている。
やっぱりアレは不良品だったんだな。

陳列された商品を舐めるように見てみると

学校で買わされた左利き用の彫刻刀。
英検の過去問題集。
グリーンデイのドゥーキー。
初めて弾いた安物のエレキギター。
昔付き合ってた彼女からもらったネックレス。
初めて買った原付バイク。。。

店の男が声をかける。

私によく似た風貌の男は「ここに並んでないものも取り寄せることができる」という。

広げられたカタログには、僕と寸法がぴったり合った綺麗なスーツ。
真っ白なファミリーカー。
見知らぬ女性と子供。
大きくはないけど住むには苦労しない一戸建て住宅。


「これら全てを差し上げます。その代わりにあなたがお持ちの楽器一式との交換になります。」

男はまるで私を試すかのように、微笑んでそう言った。

空は青を見せはじめた。

深夜と朝の境界線に立たされている。

目をつぶって考える。
予想だにしなかった美しき未来図は、すぐに虹色の走馬灯となる。

読み上げる母親の声から必死に景色をイメージしたガリバー旅行記

どうしても生で見たかった、みなみじゅうじ座

割高になる為、買ってもらうのが申し訳なかった左用の彫刻刀

友達とジュースをかけて受けた英検3級

何百回と聴き続けたWhen I Come Around

姉貴から貸してもらったフライングV

初めて付き合った彼女とのデート

バイト代を貯めて買った原付バイク

幾度となく繰り返してきた過ち

腹がちぎれるぐらい笑いあった友達

組んでは解散させてきたバンドのこと

メンバーとの飲み屋での痴話

鼓膜がちぎれそうな爆音のスタジオ

胸に焼け付いたセブンスコード

何回も書き直したリリック

打ち上げのぬるいウーロンハイ

そんな暮らしで知り合えた友人達と過ごした、手汗が止まらなかったレコーディング

喉を潰し切ったワンマンライブ 

何事もなかったかのように繰り返される日常


僕の脳を行き交うメロディ達は沢山の思い出を引き連れ何層にも重なり、大きな五線譜を描く。
長い人生の一時を共にしたメンバーや友人、家族との足跡の一つひとつが音符となりメロディとなる。

そんな何層にも重なる虹のようなメロディは、まだBメロにも達しちゃいない。

中途半端にAメロの最中じゃないか!


目を開けると、そこにはなんの変哲もない、いつもの公園の姿があった。
幼少期の頃の僕に似た少年がこちらを見つめているが、何も言わずに振り返る。

ごみ収集車のメロディが聴こえる。
歩行者信号のメロディが聴こえる。
飲み足りない飲兵衛たちのメロディが聴こえる。
僕は重い腰を上げ、ぐにゃぐにゃとした虹の上を歩きだした。

真上から見下ろす虹はアスファルトの色そのままではないか。

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