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浜松新野球場 県民に開かれた議論を

 静岡県が浜松市に建設する新野球場を巡って、議論が本格化してきた。浜松の政財界は「地域活性化の核に」とプロ野球を呼べる規模の多目的ドームを熱望するが、概算事業費は370億円と巨額で賛否の声がある。県民に開かれた議論でベストの選択を見極めてほしい。要は、血税をどう使うかなのだから、県民も「自分のこと」として県政にかかわる、よい契機になるのではないか。
 県は1日、新球場を含む遠州灘海浜公園の基本計画案を公表。その中で、2万2千人収容のドーム型と屋外型2案の3案を改めて示した。ドーム型だと、東海4県ではバンテリンドームナゴヤに次ぐ規模になる。屋外型2案の概算事業費は収容人数の違いでそれぞれ100億円、70億円。
 5月の知事選で当選した鈴木康友知事は、浜松市長時代から球場新設を県に働きかけ、前知事がそれにこたえて建設方針を決定。新球場の3案もまとめた。これを引き継ぐ鈴木知事は、近く市と新設する協議会で費用負担などを議論し、構造や規模を決めると表明したが、課題は少なくない。
 一つは、地域バランスだ。県営球場は中部の静岡市と東部の沼津市にあるが、産業が盛んで、人口や納税額の多い西部にはない。浜松側が球場を求める大きな理由の一つだが、中、東部側には、コストが高いドーム型に反発がある。ただ、ドーム案は、アカウミガメの産卵地が球場計画地=写真、本社ヘリから=に近く、照明などによる影響を考慮して浮上した経緯もある。
 計画地が南海トラフ地震発生時の津波浸水想定エリアにあることへの懸念も根強い。交通アクセスの不便さや需要見込みから採算性を疑問視する声もある。人口減を見越し、2049年度末までに県有施設を15%減らすとした県の計画との整合性も問われる。
 就任前、鈴木知事はドーム案を推していた。ただ、名古屋大大学院の恒川和久教授は、県民の納得を得るカギとして▽さまざまな関係者の協議参加▽オープンな議論と決定過程の透明化-を挙げる。知事には、そうした機会の確保にこそ力を尽くしてほしい。

https://www.chunichi.co.jp/article/923575

「概算事業費は370億円と巨額で賛否の声がある」とサラリと書いてあるが、いったい誰が賛成しているのだろう。別にドームがダメだと頭ごなしに言うわけではないが、ずっと物議を醸しているこの問題、なぜドームが良いのか、未だにちゃんとした理由を聞いた(見た)事がない。
 砂から守るとか、本文にあるようなウミガメの産卵への影響、というのは、遠州灘海浜公園というおよそ野球場に相応しくない海辺が前提故の消極的な理由であって、場所はともかくまず「ドームが欲しい」という前向きな理由が伝わってこない。傍から見て、造った後の事をイメージしているようにはあまり思えない。
 静岡に草薙球場があるのに、という事ならまだ理解できるが、それだと「浜松球場じゃだめなの?」という話になる。単なる「野球場問題」なら浜松球場を大改修(何ならドームにでも)すればいいじゃんで終わる話だが、やっぱり「遠州灘海浜公園」でないといけない政治的な理由がありそうだ。
 そんな不可解な計画に「さまざまな関係者の協議参加」をさせて果たして誰がどんな建設的な意見を言うのだろうか。是非続報を待ちたい。

 場所の事は度外視してこの新球場問題を単に「新しい野球場を造りたい話」として少し前向きに考えてみたい。

 370億円かけてドーム球場を造るという考えが共感を得られないのは、造る根拠に乏しいからだ。「入居者」を失った札幌ドームがどうなっているか、知らないわけではあるまいに。
 昔、草薙球場で「パ・リーグ東西対抗試合」を観ていた時に、後ろの人が話していた。「マスターズリーグでも良いから地元にチーム欲しいよな」と。
 これが県民の総意というわけではないだろうが、球団がない地域の人々の普遍的な欲求には違いない。
 主(入居者)がいないけど器だけ造ろう、という話だと何か空虚で現実味がなくて力が入らないが、「球団を設立しよう」という話とワンセットになれば文字通り「実を伴う」議論になる筈なのだ。
 新潟とくふうハヤテがNPBに参入した時、NPB側の当事者が「エクスパンションを見据えた話ではない」とわざわざ断りを入れていたが、それはあくまでNPBの立場であって、「地元に球団が欲しい」人たちがそれに無条件に追従する必要があるわけではない。
 もし庵原球場でのくふうハヤテベンチャーズ戦のスタンドを常時地元の熱心なファンで埋める事ができたら、中央のメディアが放っておかない。それでもNPBは「エクスパンションはしない」と言うだろうが、世論が動く。その上ベンチャーズの当事者がNPB正式加盟希望を表明すれば説得力が増し、勢いが出る。
 球場を造りたい側は新球団に無関心。新球団を応援する人たちや県民は野球場話に無関心。しかし、もしこの2つの「つながらない話」が有機的につながったら、新球場話はモチベーションというか根拠を得る事になり、そこではじめて具体的に動くような気がする。
 今のところ、少なくとも普通の球場はともかく「ドーム構想」がポジティブに語られるシナリオが他に思い浮かばない。

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