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非野球もの/『ゴジラ FINAL WARS』を観た感想

 ゴジラ映画のいわゆる「ミレニアムシリーズ」の最終作。あれからもう20年経つ。怪獣を指して「マグロ食ってるような」という名セリフを残した事で知られる(?)。

「平成VSシリーズ」は全作が世界観を共有していたが、ミレニアムシリーズは各作品が縦につながっておらず、それぞれが「ファーストゴジラ」と直接つながっているという設定となっていた(メカゴジラが登場した2作は縦につながっていた気がする)。

 たしかに「VSシリーズ」のように、毎回主要都市が破壊されていたらもう社会が機能しなくなる筈なので、ミレニアムシリーズの世界設定が正しく、そんな風に色々リアリズムというものを意識するようになってきたのがこの頃の怪獣映画だったように思う。

 が、本作は「ファーストゴジラ」とさえつながっていない色んな意味で自由な作品だった。その結果概ね酷評されたわけだが、ストーリーとかデザインとか映像とか構成とか音楽とか、あらゆる要素が既存のゴジラ映画とかけ離れていたのが敬遠されたのではないかと思う。

「いや、単純にひとつの映画としてダメだ」という向きもあると思うが、そうした批判的な意見を大体肯定したうえで、私はこの映画が結構好きだった。ゴジラ最終作としてではなく、「次のゴジラ」へのセットアッパーとして。

 特に「かけ離れている」要素のうち、「映像センス」という部分は気に入っている。特撮技術という部分は大昔からそれなりに進歩を重ねてきたものの「映像センス」は決して変わっていない。生真面目すぎるというか、怪獣の重厚感を出したいのか、何か「もっさり」していてスピード感がない。

 例えば何の映画か忘れたが、モンスターの閉じた目が建物の窓ガラスにへばり付く。建物の中の人達は一体何だと思って注視する。すると窓ガラス越しにモンスターの目がパッと見開く。

 こういう、モンスターをより怖く、スリリングに見せるセンス(技術ではない)が日本の怪獣映画には絶望的に欠けていた。

 本作には今までのゴジラ映画にはなかった技術が使われてはいるが、それ以上に怪獣を「見せる」センス(技術だけで決してない)に私は驚いた。ラドンがニューヨークを襲うシーンはゴシックホラーのような怖さとスピード感(平成ガメラシリーズのギャオスのシーンの影響は受けていると思う)があり、アンギラスが上海を襲うシーンは単純によく出来ていた。カマキラスのシーンは生物感があり、ようやくこの「単なる巨大カマキリ」に「小憎らしさ」というキャラが与えられたように思えた。エビラを倒すシーンは、人間が直接(間接ではない)怪獣を倒すという、古い怪獣を使いつつ今までの日本の怪獣映画には欠けていた人間側のアクションというものがあった。

 それとガイガンのビジュアルが良い。私が子供の頃に初登場した怪獣で非常に人気があり、復活のリクエストも多かったが、酷評する向きはこのガイガンが2度登場しながらすぐにやられてしまった事も不満なのだろう。例えばモスラが登場する際、いきなり「インファント島の小美人」が出て来るのが唐突すぎて苦笑ものだったが、そういうのも含め「怪獣総出演のお祭り映画」なのだからそこは大目に見ましょうよというのが私の立場だ。

 映像センスというと「マトリックス」他色んな映画をパクっている事が一目瞭然だが、そういう「ごった煮」みたいな安直さも酷評を買っている一因かと思う。ここから「今後のゴジラ」の方向性を読み取るのは難しかったと思うが、どんな創作も何かの模倣であり、その「何か」を消化して自分達のものにしていくのがクリエイターというものである。私には日本のゴジラ界が「このくらいは作れるよ」と示したうえで「今度ゴジラをやる時はもっと凄いのを作るよ」というメッセージを発しているように受け取れた。それは、今までの作品と変わり映えしない、ラストは何だか感動的な「最終作」を作り、「さようなら、またいつか会いましょう」といったありがちなメッセージを残すよりも余程頼もしく思えた。

 そういう「メッセージ」を残すことが本作の役目であったと思っている。そして2016年の『シン・ゴジラ』である。

 他に良かったのはキース・エマーソンの音楽だろうか。ここに違和感を感じて酷評した向きもあるかと思うが、EL&P大好きな私は大歓迎だし、『幻魔大戦』のテーマ曲をバックにゴジラが雄たけびをあげてもまったく違和感はない。まあ、これは好みだが。

 いけないところは、それこそ色んなものを混ぜすぎて、時に人間が怪獣より目立ってしまっていたところだろうか。ゴードン大佐のセリフだけ口の動きと合ってないのも(当然だが)違和感があった。

 ゴジラがやたらスリムなのも好きではなかったが、着ぐるみである以上スピーディーに動くためには仕方がなかったのだろうか。私は「モンスターバース」に登場するデブゴジラが好きなのだが。

 そんなところか。繰り返すが、酷評する向きがあるも、ゴジラの「歴史」として俯瞰すれば、その中で需要な役割を果たしたターニングポイントと言える作品であった。ただ、2016年にもし同じようなものが作られたらさすがに私も怒っていたと思う(笑)。

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