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名前が書けない

こんにちは、白紫菖蒲です。
今回は、認知症のご利用者様との出来事を書いていきたいと思います


高齢者デイサービスで勤務していた時に
80代の女性のご利用者様がいらっしゃいました
とても穏やかな方で、他のご利用者様からも愛され
本当に素晴らしいなと思ったのは
他のご利用者様やご家族様、介護士も含め
ご利用者様に関わる人の悪口を聞いたことがありませんでした

中~重度の認知症があり
ご主人が介護をなさっている状態で
食事の準備から、トイレの始末もすべてご主人がされ

「介護用品を薬局で買うのも、
   最初は恥ずかしかったけど
 もう慣れました」

そう笑って仰ってみえました
高齢世帯のご夫婦でご主人様が奥様の下着や肌着を
買う時や、リハビリパンツや尿取りパットを買う時に
躊躇われるというお話しをよく聞きます

厚生労働省が平成23年頃から推奨している
「介護マーク」というのがあります
都道府県によって取り扱いは違いますが
介護をする方が周囲からの偏見や誤解を
受けないようにと策定されました

多くの高齢者世帯は、ご主人様の変わりに若い家族が
買ってきて用意してくれるという流れですが
そのご利用者様は、ご主人様が購入してみえました

「兄が家におる」
ご利用者様の中では、家にお兄さんがいて
いつも喧嘩しているとお話しをされてみえました
実際には、
お兄さんはもう亡くなられていらっしゃいます
幼少期の記憶が色濃く残っているようでしたが
ご自宅までお送りすると、
玄関先にご主人様が待ってみえ
「ああ、お爺さん」
と、ご主人様のお顔を見ると記憶が
毎回リセットされていました

毎利用時に、脳トレをお配りし
今日の日付けや名前、天気、昼食の献立等を書いて頂き
ファイルをしてご自宅に持って帰って頂いていました
物忘れや認知症に対するアプローチの一環として
実施をしておりましたが
段々と、ご自身の名前が書けなくなっていったんです
苗字を旧姓で書かれることや、漢字を思い出す事が
出来ず、カタカナで書かれる事が増えていき
時にはご主人様の名前を書くこともありました

「脳トレを見返すと、
   名前が書けなくなってきましたね」

ご主人様からのお言葉に
ご本人様には良いと思っても
ご家族様にとっては現実を突きつけて
しまっていたんだと
深く考える出来事でした

脳トレを止めるかどうかご主人様に相談し
本人が嫌がっていないから続けて欲しいと仰られ
そのまま利用が終わるまで続けました

高齢者デイサービスの「利用が終わる」とは
・他のデイサービスに行かれる
・長期の入院をする
・入所、入居施設に住まいを移される
・引っ越しをされる
・天国へ旅立たれる
その他理由はありますが、そのご利用者様は
天国へと旅立たれました

数日がたって、ご主人様がご挨拶に
施設にいらっしゃったときに

「うちの家内はご迷惑をお掛けして
   いませんでしたか?」

そう、仰られました

老人介護を仕事にしているので
介護士の目線で「迷惑なこと」は起きません

認知症の周辺症状である
徘徊や失禁、易怒、幻聴、幻覚、せん妄等は
「迷惑なこと」ではありません

ただ、ご家族様にとっては
「迷惑なこと」と受け取っていらっしゃったんだと思います

ご主人様には
いつも周りに人が集まっていたこと
受診でお休みをされた時は
他のご利用者様が心配をされていたこと
皆さんから愛されていましたよ、と
お話しすると
ご主人様が涙を堪えていた姿を見て
私の方が涙を流しました

「家内はデイサービスに行くことを
 楽しみにしていました
 行きたくないと言ったことは
 無かったです」

そのお言葉で更に泣いてしまい
ご主人様と一緒に涙を流しました

私たち介護士より、ご主人様の方が
大変だったと思います

トイレに行かないとシーツが濡れてしまうからと
夜間、3時間起きに起こして
手を繋いでトイレに行き
買い慣れないリハビリパンツを買いに行かれ
食事の準備から片付けまで
すべてご主人様がなさってみえました

本当に頭が下がる思いでした

施設介護に比べ、家族介護は
家族の歴史や感情が入り
介護士の想像を超える
ご心労があると思います

週に1回でも構いませんので
家族介護に疲れたら
介護施設を利用してください

お金には代えられない
ホッと出来る時間を作ってくださいね

本日も読んでくださり、ありがとうございました
誰かの一助となりますように


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