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[実話怪談]お地蔵さん

S子さんがまだ20代前半の頃に体験した怖い話である。

当時S子さんは石川県のとある場所で寮に住み込みで宴会コンパニオンの仕事をしていた。

着物を着て旅館や料亭などでお客さんにお酒を注いだり空いたお皿を片付けたり、おもてなしをする仕事だ。 

S子さんは会社が用意してくれたアパートに同僚の女性と2人で一緒に暮らしていた。

1階に3部屋、2階に3部屋の全部で6部屋ある古い木造アパートでS子さんは1階の左端の部屋に住んでいた。

仕事は夕方の4時頃からはじまり夜の10時か11時までだった。

仕事帰りは寮が飲み屋街の近くだったこともあり、同僚と一緒に行きつけのバーで軽く飲んでから帰るのが日課のようになっていた。

バーのマスターとは気が合い、いつも仕事のグチを聞いてもらったり和気あいあいとお喋りできるこの時間が好きだった。

寮に帰る頃には夜中の12時近くになることが多く、そこから同僚と交互にお風呂に入ったりいろいろしていると、寝るのは1時とか2時くらいになっていた。

あの日もS子さんは仕事を終えて行きつけのバーで同僚と軽く飲んでから寮に帰宅した。

帰ってきたことで安心して気が緩むと仕事の疲れが一気に押し寄せてきて、S子さんも同僚もシャワーを軽く浴びるとすぐに布団に潜り込んで寝た。

しばらくすると急に身体が硬直する感覚に襲われS子さんは目を覚ました。

金縛りだ…

隣で寝ている同僚に助けを求めようとしたが、足も手も首も動かない。

「う〜ん………う〜っ」

悪夢を見ているのか、同僚がうなされている声が聞こえてきた。

どうにかして金縛りを解こうとしたが、かろうじて動かせるようになったのは目だけだった。

それでも首が動かないので目に映るのは天井だけだった。

S子さんはどんどん身体が硬くなり石のようになる感覚や緊張からかすごく喉が渇いてきた。

その時だった

天井から男の顔面が浮かび上がってきた。

青白い顔色で無表情の男がS子さんをじっと見つめている。

天井に張り付いている男の顔が次の瞬間グググーっとS子さんに迫ってきた。

顔がどんどん大きくなりながら近づいてくる。

それまで無表情だった男の顔が目を見開き口を大きく開けて眉間にシワを寄せ、まるで鬼のような形相で「あーーーーー」と叫びながら迫ってきた。

その瞬間金縛りが解けた。

「うわっ!」
「きゃっ!」 

S子さんと同僚が一緒に叫びながら布団から飛び起きた。

2人は顔を見合わせた。
 
お互い表情を見て同じ体験をしていたのだと分かると怖くなり、一刻も早く部屋を出たいと思った。

2人は部屋着のまま部屋を飛び出し、行きつけのバーまで走っていった。

息も荒くバーの扉を開けるともう3時過ぎだったこともあり、中に客は居なかった。

マスターは何事かと驚いていたが、片方はパジャマ、もう片方はジャージで、2人ともすっぴんで頭もボサボサな姿に何かとんでもないことがあったのだろうと思ったのだろう。

「何があったかわからないが、まず落ち着いて椅子に座りな」

そのマスターの気遣いに安心した2人は落ち着きを取り戻した。

今あったことをマスター話すと

「あ〜あのアパートね。もしかして1階の左端じゃない?」

そう言って話し始めた内容は、バーの客で昔あのアパートの一階の左端の部屋に住んでいた人がいて「毎晩のように男の唸り声がするから気持ち悪いんだよな」というような話を聞いたのだと言う。

「あのアパート古いからな〜なんかいわくつきなんじゃないの〜」

と他人事のように明るく笑いながら言うもんだからS子さんたちも、恐怖が少し和らいできたので、マスターに話を聞いてくれたお礼を言って寮に戻ることにした。

寮に付いた頃にはもう辺りは明るくなっていた。

S子さんはマスターのいわくつきという言葉がとても気になり、なんとなくアパートの裏に周った。

アパートの裏はちょっとした庭になっていたが手入れはされていないので雑草がボーボーに生えていた。

ちょうどS子さんたちの部屋の裏側に来たところであるものに目が止まった。

お地蔵さんだった。

S子さんは何故アパートの裏を見ようと思ったのか分からないがお地蔵さんを見た瞬間に

「呼ばれたんだな〜わたし」

そう思い水をお供えしたそうだ。

この出来事以降は寮でなにか見たりすることは無くなったという。


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