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東村アキコ/偽装不倫(1)

純愛のシチュエーションには、
どういったものがあるだろうか。
いがみ合う両家の認められぬ愛。
醜い容姿、深刻な症状を追う相手に対する、
献身的な愛。
自分が得るものは何もない。
相手を想い、相手に思われる。
愛のための愛。
障壁が高ければ高いほど、
それを乗り越える愛は深まる。

どうやらそうしたシチュエーションでは、
現代の純愛は測れないようだ。
多様な価値観が乱れ咲き、
共通認識がなくなりつつある今、
ある種、特殊な設定が必要なのかもしれない。

不倫。

結婚ではなく、結婚した後の関係が、
純愛のような位置づけだった時代もある。
ひょっとしたら今もその風潮は残る。
けれど不倫は純愛から遠い。
必ずしも純愛ではない。
多くの場合は遊びだと認識されつつある。

この物語の設定は、
それを裏付けるものかもしれない。

偽装不倫。

本当は独身なのに既婚を装い、
その上で恋愛をする。
ギミックと純愛は馴染まない気もするが、
ギミックの上にこそ純愛が成り立つ
時代かもしれない。

偽っているのに、心は本物。
不実ではないのに、倫理に反する。
絡まる事実、裏表を行き来する心。
身体だけでは、すんなり互いを受け入れる。

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