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連載小説 星のクラフト 13章 #3

 21次元に戻ったランは、たった今0次元で話合ったことをナツに話し、直ちに次の手続きへと向かうことにした。
 家族に違和感を感じている人から0次元における住所を聞き出すのはナツの仕事で、他の隊員と家族をどうやって0次元へと導くかを考えるのがランの仕事とする。
 ナツは速やかに三人の隊員から住所を聞き出し、その足で0次元へと向かうことになった。ランよりもナツの方が0次元の地域に詳しい。三人の隊員からは家の鍵も借り、「詳しい説明は後でするが、とにかく他言無用」と念を押すと、三人とも「わかりました」と真剣なまなざしで約束してくれた。
 そこまでやり終えると、もう深夜だった。
 それでも、着々と仕事は進めていく。
 森は21次元とはいえ鬱蒼として野生をむき出しにしていたが、運よく月が明るい夜だったので、道を歩くのに不便はなかった。
「もう命綱は必要ない」
 ランは入り口まで同行し、0次元に降りると階段が見えなくなることを伝えた。「船体室の保管庫にある懐中電灯の光を向けると階段の存在が浮かび上がってくる。もしもクラビスたちがいなかった場合にはその明かりを使って階段を確認し、一旦戻って来るように。いくら有能でも一人では動けないはずだ。あの周辺に地球人は見当たらないらしいよ」
「了解」
 ナツはすでに仕事モードの引き締まった顔つきになり、無駄なジョークも飛ばさずに恐る恐る階段を下りて行った。やがて、音に気付いたのか、クラビスとローラン、ローモンドが船体室に来て、ナツを出迎えてくれた。
「OK」
 ナツは21次元との接続ポイントから覗いているランに向かって親指を立てて見せ、それを確認したランも親指を立てて返し、扉を閉じた。ひとまず安心して自室へと戻り、ランは次の作戦を練る。

「早かったね」
 クラビスはナツを見て微笑んだ。
「とにかく一週間しかないからね」
 ナツはすぐにでも動き出したい気分だった。
 クラビスがローランとローモンドをナツに紹介し、四人は食堂に移動して早速この後の仕事をどうするかと話し始めた。
「私たちの車で行きましょう。建物の横に置いてある」
 ローランが提案する。
「それは助かるな」
 ナツはこの上ない幸運に顔をほころばせた。
「地図は?」
 ローモンドが眉間に皺を寄せる、
「カーナビじゃだめ?」
「なんとなく、カーナビで動くとお嬢様たちに気付かれそうよ」
 ローモンドは慎重だ。
「中央星とは連絡も取れないのに?」
「大丈夫さ。預かった住所は俺にもわかりそうなものだし、預かってきた住所は三つともほとんど同じ区域にある」
「ナツ、運転は?」
「できるよ。普通の車だったらね」
 ナツはここにいる奴らは自分以外は地球人ではないとすでに察していた。宇宙人専用車だったら運転できるかどうか。でも、彼らのことを信じられないわけではなかった。
「普通の車よ。ナビを使えば自動運転だけど、マニュアルモードにもできる」
「OK。みんなも一緒に行く?」
 ナツはできればそうして欲しかった。
「もちろん」
 クラビスが口笛を吹き、専用台に止まっていたインディチエムを呼び寄せた。「インディチエムも、ね」
「よし。行こう」
 
 四人と一羽の乗った車はまっすぐな道に出た。0次元も煌々とした月夜で、街灯もあり、夜でも辺りは明るい。
「懐かしいね」
 道沿いには農場へと向かう標識や牧場用の器具を置いた小屋がある。
「どこまでもだだっ広い農園に見えるけど」
 ローモンドは後部座席の車窓を見ていた。
「ここをずっと行くと、下り坂になり、湖がある。その湖畔に住宅街があり、隊員たちの家族はほとんどそこに住んでいる人たちらしい」
 ナツは隣に居るクラビスをちらりと見た。「クラビスは?」
「僕はもう少し遠くに住んでいた。仲間たちがどうしているかを見に行きたい気もするけれど、食い扶持がないからと追い出された身なのでね、行ったところであまり歓迎はされないでしょう」
 寂しそうに微笑む。
「それにしても、確かに誰もいないね」
「深夜だからじゃないかしら」
 ローランも車窓を見ている。
「車も走っていないのは気味が悪いな。もう少し、何かが居た気がするけどね」
「あ、猫が横切った」
 ローモンドが小さく叫んだ。「眼が光ってる」
「いなくなったのは地球人だけなのかしら。猫や犬はどうなったの」
 まだ何もわからなかった。
 しばらく行くと湖が見え、その湖面に明るい月が映し出されて揺れていた。T字路に突き当たり、住宅街のある方へと右折する。
「ほんとだ。同じ形の家がたくさん並んでいる。あの中のどれかね」
 ローモンドが嬉しそうに言う。
「全く明かりが灯っていない」
「深夜とはいえ、ふつうはひとつくらい点いているものよね」
「さてと、この中のどれかなあ」
 ナツはひとまず、湖畔のパーキングエリアに車を侵入させた。
「暗いけど、歩いていくしかない。明るいと、それはそれで、なんとなく仕事がし辛い気もするし、この時間帯がちょうどよかった」
 駐車し、四人と一羽は車を降りた。
 湖から藻の匂いを含んだ風が柔らかく吹いてくる。確かに地球らしい匂いだ。月明りが家々の屋根を艶やかに照らし、それぞれの玄関先に均等に植えられた樹木は葉を揺らしていた。

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