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連載小説 星のクラフト 12章 #5

 数日後――。
 ランとナツ、そしてホテルに滞在していたパーツ製作員たちは集会室に集められた。家族はそれぞれの居室に残したままで来るようにとの通達だった。
 集まった製作員たちにはゴシック様式で作られた椅子が与えられ、四人ずつで共有する丸テーブルには白いテーブルクロスが掛けられ、豪華な茶器と菓子台が用意された。穏やかなピアノ曲が流れている。
「やたらと特別扱いじゃないか」
 ナツは果実と花の描かれたカップを持ち上げ、じろじろと眺めた。
「どちらかというと、こういう場合は嫌な予感がするね」
 ランは菓子台からマカロンをひとつ摘み取って口に放り込んだ。
「ヘンゼルとグレーテルってとこか」
 ナツも同じく菓子台からメレンゲを取って口に入れた。
「それにしても、リオはどこにいったんだろうね」
 会場を見渡してもどこにもいない。
「そもそも、向こう側の人だったんじゃないか」
「だますつもりはなかったとしても、そういうことだろうな。クラビスが言っていた通り、彼女はこの21次元に移動する前から、移動した後は0次元の建物が崩れ去ることを知っていた。製作したパーツをこちらに持ち運ぶ必要があることを知っていたのだからな」
 ひそひそと話していると、ホテルのウェイターがテーブルの横に立ち、背の高いポットからカップにお茶を注いだ。
「あ、ボーイさん」
 ナツが声を掛けた。
「なんでしょう」
「前回にもお会いしましたね」
「前回というのは?」
「今回の新星打ち上げのひとつ前のことだよ。あの時もこのホテルを使ったと思うが――」
 ナツは再び菓子台からメレンゲを取り、さっくりと噛んだ。「この味、覚えている気がするし」
「さあ、どうでしょう。私の方ではお客さまのお顔までは覚えておりませんが。メレンゲにはアーモンドパウダーの半分をピスタチオパウダーにしております。弊社の独自開発したものですから、記憶に残られたのでしょうね。十年間、この味を保ち続けております」
「十年前に新世界に移った人はたまにはこちらに戻ってきているか」
「いいえ。一人も。お客さまが初めてです。お客様があの時の参加者だと仰るのでしたら」
 それには答えず、
「このメレンゲ、本当に旨い」
 ナツは得意の人懐っこい笑顔を見せてウインクをした。
 ウエイターが深々とお辞儀をして去ると、
「どういうこと?」
 ランは熱い紅茶を啜った。「そのメレンゲ、どこかで食べたの?」
「いや。俺たちにとっては初めての新星打ち上げだが、実はこういうパーティはあちこちで組まれて、頻繁に行われているだろうと思ってね。それをちょっと確認してみただけ。あの反応では、最低でも十年に一回はやっているらしい」
「意外でもないが、初耳ではあるね」
 ウエイターたちの慣れた動きを目で追った。
「お待たせしました」
 会場の前方に女性が一人立ち、マイクで言い放った。
「リオじゃないか」
 ナツがつぶやく。
「そのようだな」
 最初に見た少女のような雰囲気はなく、大人びた服装をし、髪もたった今美容院で整えたかのようだった。
「いよいよ、私たちのミッションが次の段階へと進むことになりました。私が大事な鍵を喪失したことで、製作員のみなさまが苦労して作られたパーツの入った箱を開くことができなくなっていましたが、もう大丈夫です。鍵を新しく作り直し、箱を開けることができました」
 リオがそこまで言うと、製作員たちの間では徐々に拍手が巻き起こった。
「鍵穴から鍵を作ったのか」
 ナツがランの耳元でささやく。
「だとしたら、もっとさっさとできただろうに」
 ランも小声で答える。
「ただし――」
 リオが声を大きくした。
 すぐに続きを言わないので、会場がざわめき始めた。
「ごめんなさい。ちょっと言いづらくて」
 リオが言うと、ざわめきの波が引いていった。
「言ってください」
 製作員の一人が大声で言った。
「わかりました。実は、パーツが三つ足りません」
 再びざわめく。
「どういうこと?」
「私は上部から指定された通り、すべてのパーツをダウンサイジングして箱に詰めたのですが、三つ不足しています。それは誰が製作したものかもわかっています。確認したところ、どういうわけか、その製作者も居ません」
 会場のざわめきは大きくなった。
「それでは、まだ新しい星の製作に向かうことができないのでしょうか」
 製作員の一人が立ち上がった。
「いいえ。設計書があるので、その三つに関してはこちらで作ることにしました。たまたま、それに関しては材料がこの次元にも存在しました。それでは、ここからは司令長官にマイクを譲ります」
 リオは軽く礼をし、いつの間にか隣にいた司令長官にマイクを渡した。

つづく。

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