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連載小説 星のクラフト 11章 #1

 光る鳥は部屋の中を旋回し始めた。

 ――なんだというの?

 それほど高くない天井付近を、まるで蛍光灯のように光りながら回り飛ぶ。天井にひとつだけぶら下がっている電灯の傘に止まると、首を傾げて私を見下ろした。
「ローモンド?」
 そんなはずはない。でもそう呼んでしまう。
 さっき、ローモンドが鳥に姿を変えて飛び立った時、それはローモンドと同じ大きさだった。人間の子供と同じくらいの鳥だった。
 でも、この光る鳥は、地球で見かける鳩と同じくらいの大きさだ。光っているので羽根の色はよく見えない。
「ローモンドじゃないわよね」
 私は自然に腕を伸ばしてみた。そうすれば、腕に止まるのではないかと思った。
 望んだとおり、光る鳥は電灯の傘から降りてきて、私の腕に止まった。

 ――う、痛い。

 鳥がぎゅっと腕をつかむ。

 ――それに眩しい。
 
 間近で見ると、太陽光のように眩しく、周辺は暖かいどころか熱かった。
「まるで白熱灯」
 私は自然に目を閉じ、目を閉じたまま
「あなたは誰?」
 と聞いてみた。
《ローラン。わたし》
「わたしって、誰?」
 私は目を開いて確かめようとしたが、あまりの眩しさでそれは叶わない。
「眩しくてよく見えない」
《わたしよ》
 何度「わたし」と言われても、私にはわからなかった。
 目を閉じていても、瞼の裏に緑や橙色がちらちらと見える。毛細血管が透けて見えているのだろう。
 やがて、私は眠くなってしまった。いっそ、この白い光に包まれて眠ってしまいたい。その欲求に抗うことはできず、床の上に座り込み、倒れ込むように横になった。
 光る鳥は、私の胸の上に止まっているようだ。目を開きたいが、開かない。本当は、こんなところで眠ってしまってはいけないのだけど――。

 私はそのまま、眠りに落ちた。

 夢の中で、白い砂浜の上を裸足で歩いていた。波の音がする。長い間、飽きるほどそうしている。横に誰かがいる。声の調子からすると、私よりも年長の女性。でも、どうしてもその顔を見ることができない。横顔すら見えない。ただ、その横にいる人も裸足で砂浜の上を歩いていて、うつむき加減になれば、足先だけは見える。爪を綺麗に切り揃えた白い足だ。
「どうして、羽根を拾わなかったの」
 その人が言う。
「私は私の道を行きたかったから」
 どうにかしてその人の顔を見たかった。でも見えない。
「もともと、誰かに決められた道を歩いているのに?」
 その人は笑い出しそうな声だった。
「誰かに決められた道?」
「そうよ。お嬢様とか、養成学校の先生たちとか」
「そうだったわね」
 私は立ち止まり、後ろを振り返った。驚いたことに、白い砂浜の上には一人分の足跡しかなかった。
「あなたの足跡がない」
 私が言うと、
「違う、あなたの足跡がないのよ」
 とうとうその人は笑い出した。
「何を言うの?」
 ついに私は怒りが込み上げ、大声で言った。

 その私自身の声で目が覚めた。

 ――夢だったのか。寝てしまったのだ。

 夢の中で激しく怒ったせいか、呼吸が荒かった。
 もう夜になっている。光る鳥はいなかった。窓は割られたままで、涼しい夜風が入り込んでいた。
 
 ――どれくらい、寝ていたのかな。

「ローラン」
 暗闇で声がする。
 顔は見えない。
 
 ――まだ、夢を見ているのかしら。

 私は目を擦り、ゆっくりと身体を起こした。

つづく。

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