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解読 ボウヤ書店の使命 番外編③-1

 2023年3月30日、この解読『ボウヤ書店の使命』⑭-2を書いた後、31日、4月1日、2日と休み、31日には三菱一号館美術館の『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』、1日には三鷹scoolの限界研「テン年代のミステリ、テン年代というミステリ、そしてこれから」 『現代ミステリとは何か』出版記念トークイベントに出掛けた。
 三菱一号館美術館はこの展覧会を最後に、建物のリニューアルのため休館となるらしく、しばしお別れなので駆け付けた次第。レアな浮世絵を間近でみることができた。小さな部屋をいくつも巡る形式のこの美術館は最もお気に入りのひとつでキュレーションの質も高く、何が来ようと足を運んできたので、来年秋のリニューアルオープンが既に待ち遠しく感じられる。鑑賞後にどこかで食事をしようと思って歩いたがどこも賑わっていて入れず、迷っていたところセキレイが現れて尻尾を上下にしながら歩くようにして導いてくれた。着いていくと、地下鉄の入り口。家で食べた方がいいと言っているのだろうか。セキレイの撮影をした後、それに従い地下鉄に乗った。後でセキレイの写真を見たら写っておらず、数日前にウリさんの動画に出てきた筒状の物体に見えなくもない。


 三鷹のscoolは久し振り。今書いている長編『クリスタルエレベータ』がミステリーなので、三部に入る前に批評家の方々の話を聞いてみるのもおもしろいと思った。
 三鷹には早めに着いたので、ヒヨドリの声に導かれてなんとなく駅からジブリ美術館の方向へと歩いてみた。水道沿いに桜が咲き、緑も多く鳥たちの居心地は良さそうだ。

あまり遠くに行っても迷って遅刻することになったらよくないと思いながら歩いていると、右へ行くと骨董店と示す看板が目に入った。時間を潰

すのに良さそうと思って足を運ぶとガレージセールをやっていた。

毎週土曜日に開催しているのだとか。パッと見て質の良さそうなものが優しい価格で置いてある。ご主人となんとなく話をしながら見ていると、地下には通常の店があると仰るので、奥様に導かれて階段を降りてみた。地下と言っても窓の外が吹き抜けになっていて明るく、きちんと整理された状態で江戸と明治に分けて置いてあり、いい空間だった。奥様が震災の時にも全く割れなかったと仰った。見ているとたくさんお客様が来られたので、私は再びガレージに上がり、ずっと必要だと思って探していたなます皿を買うことにした。以前、吉祥寺で購入したアザミのなます皿がひとつ割れてしまって、サイズ違いの小鉢を使っていたので不便だったのだ。そこで江戸ものを二つ選び、最後に、おや? これは…と思う皿を見つけた。八角形でこれも江戸ものと表示してある。どうにも焼き物の肌がピカピカしていて500円。当たり前だが安すぎる。

それでも八角形が気に入って購入。現在書いている長編ミステリー『クリスタルエレベータ』の探偵の名前は八田一之介でもある。これは縁がある。
 さて、購入した器をスマホの柄検索で調べたところ、そっくりなものがあり、やはり実際のものはそんなに安いものではないらしい。

それで思い出したのが私の小説『路地裏の花屋 外伝 ツツジ色の傘』だ。骨董店が出てくるのだが、五つ揃えの小皿に実はもう一つ小皿があったはずなのに——との件が出てくる。以下に抜粋し、掲載してみよう。

《「それより、先程仰っていた小鉢の揃えというのはどういったものですか?」
 話を前に進めたようだ。
 女は、お待ちくださいと言うと木製の踏み台に上って、テーブル横の棚上にある木箱を降ろした。木箱は日に焼けて随所に染みが浮き上がっており、見るからに年月を感じさせる。「これです。どうぞご覧になってください」ぎしぎしと木の蓋を押し上げて開け、中から白い薄紙に包まれているものを五つ取り出した。「よろしければ、お二人で薄紙を外すのを手伝ってもらえませんか」木箱を足下に置いた。
 三人で壊さないようにと丁寧に薄紙を外していく。器には白地に青で山波と雲を背景にした梅とホトトギスが描かれている。全てを円状に並べ終えると、
「これは古伊万里でしょうね。波佐見ですか」模糊庵は眼鏡をしっかりと掛け直してから小鉢のひとつを両手で包んで持った。顔を近付け模様を隈なく見る。
「恐らく有田だという話です。もうよく分からないくらい古い伊万里焼です。ちょっと変わっているのは、ほら、右側の梅の木に咲いている花の数が全部違いますでしょう?」
「なるほど」中西は二つ手に取って見比べていた。「これには三つ、こっちは五つ」
「ひとつだけ咲くものから、五つ咲くものまでがあります」女は花の数の順に並べ始めた。「本当でしたら百万は下らないという話です」
「本当でしたら、とは?」中西はもう一口お茶を飲んでやはり苦いのか顔をしかめた。
「その五つ以外に実際にはもうひとつあったので、価値が下がってしまいましたの。薄紙だけはもう一枚ここにあります」足下に置いた木箱の蓋をそっと開けて見せた。確かに何も包まれていない薄紙がひとつ入っている。「おかしいでしょう? 一枚だけ薄紙を残して中身は消え失せたなんて、御菊さんのお皿みたいで」ふふふと笑う。「実は私、この薄紙に包まれていたひとつを一度だけ見たことがあります」》

全体を読んでみたい方はボウヤ書店でどうぞ⇓。

 この500円で購入した江戸ものと貼られていたピカピカの皿は、柄を検索で調べてみると同じ柄の五つ揃えの皿(ピカピカしていない)が29800円で売られていることがわかった。ということは、この500円のピカピカした江戸ものと貼られていた皿は、私の小説『路地裏の花屋 外伝 ツツジ色の傘』で登場した六枚目の皿と同じ位置付けになりはしないか。もちろん、同じ柄の29800円の五つ揃えの江戸期の皿は写真で見たところ、柄の色がもう少し濃く、表面もそれほどピカピカしてはいない。購入した500円のピカピカのそっくりな柄の江戸ものと貼ってあった器はどこからきたのだろうか。謎。
 後で骨董店の名前を調べたところ、三鷹にあるアンティークショップ『マグノリア』だとわかった。現在、解読を進めている『キャラメルの箱』のプロローグに出てくる花は木蘭であり、つまりマグノリアなので、あらま、とびっくりしたのだった。

 その後、馳せ参じたscoolでのイベントは大盛況で、非常に楽しかった。今はそこで購入した書籍『現代ミステリとは何か』を丁寧に読み、コメントなどをTwitterに載せているところだ。


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