連載小説 星のクラフト 13章 #1
クラビスは「崩壊していなかった建物」の中で、ローランとローモンドと食事をしながら、彼女たちのこれまでの経緯を確認した。
彼女たちの出生について、彼女たちが中央星と呼ぶ星に居る「お嬢様」や「ガードマン」たちのことについて、そして、記憶装置が破壊されたことや、それが関係していると思われる地球人たちの失踪について。
「もう中央星とも連絡が取れなくなっているの」
ランにそっくりな顔とボディを持つローランが、やはりそっくりな声で言う。感情を抑制した話し方までそっくりだ。
「その、ローモンドが別次元で60年を過ごしていた間に、ということだね」
インディチエムもテーブルの隣にしつらえた特製の居場所で穀類を突っついている。
「実際に60年経ったとは思えないのだけど」
ローモンドが自身の髪に触れた。「でも、髪、とても伸びていた」
「その別次元では、この0次元の半日が60年だったのかな」
「そうとも言えない。私の髪も伸びていたのよ」
ローランも自身の髪に触れた。
「撮影しておけばよかったね」
ローモンドが残念そうに言う。
「大丈夫。君たちを疑ったりしないから」
クラビスは本音でそう感じていた。そもそも別次元で60年過ごしたと打ち明ける人は、全部嘘をついているか、全部本音をしゃべっているかのどちらかでしかない。そして、彼女たちは探し求めていた写本を持っていたのだ。何も疑う理由はなかった。
「とにかく、ミッションは、村一つ分の人間がいなくなっている地域にたどり着き、その理由を探し当て、中央星に存在していた記憶装置が破壊されたこととどんな関係があるかを調査することだった。このミッションをしなければ、私は地球探索要員として育成された過去の記憶を消されて、地球人にふさわしい過去の記憶を装着し、地球人として生きていくはずだったのだけど、そうはならなかった。私の子供時代の記憶を担当していたモエリスは中央星に返され、バグとして到来したローモンドが私の相棒になった時、もう過去の記憶を消すつもりなどなくなっていた」
「結局、この辺りでは地球人は見かけないね」
0次元に戻ってから、あちこちを歩き回ったが見当たらなかった。建物の中でオブジェを製作している時には、それほど多くはないが、農場で作業をしている人が機械を動かしていたり、作物を持って家路に向かう人がいたりしたものだった。
「車で移動してきたから、他の地域のことは明確にはわからないけれど、ここよりは居たはず。それに、お嬢様から探索するようにと渡された地図では、問題の場所はこの辺りを指している」
「そして、そのお嬢様とやらが送ってきた写真を見ると、この建物は崩壊しているのだったね。でも、実際には建物は崩壊していない。あらゆる出来事がプログラムのバグのようだ」
クラビスが言うと、インディチエムがほんとだねと言わんばかりに、小さく鳴いた。
クラビスが21次元に移動した時に発生した建物の崩壊と、それが3D映像だったに違いないことについてもすでに話している。
「高次元や、別の星では、この建物は崩壊したことになっている。あるいは、もっと上層にいる存在が崩壊したことにしている、ってことね」
ローランはペットボトルの水を飲んだ。
「ここに居た地球人はどこかに連れ去られたのか、あるいは、情報だけ引き抜かれて、抜け殻のようになってどこかで生活しているのか、ひとまずそこが重要だ」
クラビスはラン達と樹下で話したことを思い出した。
「ねえ、何か、さっきの船体室で声がしない?」
ローモンドが立ち上がった。
「誰かいる?」
ローランも表情を引き締める。
足音が聞こえ、食堂と船体室をつなぐ扉に近付いてくるのがわかった。
「ひとまず、向こうの部屋に隠れて」
クラビスは、急いでローラン、ローモンド、そしてインディチエムを食堂の奥にある部屋へと隠し、自身は扉の横の壁に背中を付けた。
いよいよ扉が開き、扉の向こうから一人の者が部屋に足を踏み入れた。
「ラン」
クラビスは壁から背中を離した。
「ああ、クラビス。居たのか」
ランは腰に命綱らしきものを巻いている。クラビスの視線に気付いたのか、
「21次元への帰り方がわからなくなったら困るので、一応命綱を付けてきた。この先っぽはナツが握っている。僕には道案内をしてくれるインディチエムがいないのでね。実際、こちらに降りてきたら階段は見えなくなったじゃないか」
ランは慌てて説明した。
「特殊なライトを当てると21次元への階段が見える仕組みになっている。下から数段分はジャンプだ。最初に上った時には台があったように思ったけど、それは見当たらないからね。その分はジャンプだ」
クラビスはインディチエムから教わった方法をすぐに教えた。「ライトはここにある」
船体室の収納箱を開けて見せた。
「それより、奥の部屋に、例の女の子たちがいる。すぐに紹介する。ちょっと待ってて」
急いで奥の部屋へ向かう。
クラビスはランの帰還に喜びを隠せなかった。
つづく。
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