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連載小説 星のクラフト 8章 #6

 三人は0次元との接続ポイントへと向かった。
「ブラックホールを持った状態で、0次元との接続ポイントに行くのも、ゾッとする話だがな」
 ナツはまだそれを見た事がない。
「それほど楽観的な話ではないでしょう」
 クラビスは少し前を飛ぶインディチエムに口笛で呼び掛けた。
「次元間制御に関する任務は数多くこなしてきたが、こんなのは初めてだ」
 ランはこれまでのミッションを回想する。
 どれもこれも薄暗い中での任務だった。個の人間はすぐに思い違いをする。そして、大義を扱う高次元と中間次元はすぐに混線する。個人の記憶などはすぐにすり替えられ、有利な解釈を主張するエリアは常に有利で善であり、その図々しさを持たないエリアは常に不利で悪だった。どうにかしてその偏りを改善しようと、次元間配線の「ほぐし」をするのが任務のほとんどだった。地球は豊かだが、感情の宝庫で、それゆえに他の星に牛耳られやすい。
 その薄暗い任務は気分まで暗くするものだったが、慣れてくればパターン化されて、熟練として短時間で終わらせることができたし、ランの気分までどんよりと暗くなることもなくなっていった。
 
 ――でも、今回のミッションは。

 鮮やかな緑の木の葉から漏れる光。そよ風。何もかもが明るく、重い感情の穢れが皆無に思える環境だが、小さなミスが大災害を起こすだろう。
 
 クラビスの木に巻いた青いリボンが現れ始め、目印の岩を過ぎると、0次元との接続ポイントとなる樹木に辿り着いた。
「この下にある」
「大地の、下?」
 ナツが露骨に顔を歪めた。
「0次元、だからね」
 クラビスは近くに落ちている枝を拾って二人に渡し、「これで落ち葉や土をのけよう」と言う。
 三人で始めればあっという間にガラスの天井が現れ、持参した懐中電灯で中を照らすと、ナツがアッと声を上げた。
「俺達が居た場所だ」
 一瞬で蒼ざめた。昨日伝えたはずだが、本気にしていなかっただろうか。
「降りてみますか」
 クラビスは口笛を吹いて、樹上に居るインディチエムを呼び戻した。
「いや、やめておく」
 ナツは即答した。「見れば充分。間違いなく、俺達が居た建物だ」
「司令長官にも上司が居るだろう。そして、司令長官は上司から今回の計画全てについて知らされていないのだとしたら、もしかすると、この0ポイントについても知らない可能性もある」
 ランはそれほど司令長官をそれほど悪人と疑ってはいなかった。長年共に仕事をしてきた。いつだって、こちらを陥れようとすることはなかった。
「いっそ、司令長官に全てを話したらどうかな」
 クラビスは意見を聞きたいのか、肩に乗ったインディチエムを近寄せて頬ずりする仕草をした。インディチエムは首を傾げたまま、何も答えない。
「全てって?」
「この0次元接続ポイントのことと、それから――」
 クラビスはランの目を見た。
「なんですか」
 
 ――鍵のことだな。気付いているのか?

「何か、隠しているでしょう?」
「隠し事のない人間などいない」
 視線を外した。
「ということは、なんだ、ラン、何か隠しているのか」
 ナツが声を大きくすると、インディチエムが驚いてクラビスの肩から飛び立ち、近くの枝に飛び移った。

つづく。

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