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連載小説 星のクラフト 8章 #7

 樹下のテーブルまで戻ってくると、クラビスは「司令長官とのミーティングに参加しない」と言った。
「私の目的は伝説の書物を取り戻すために、故郷の星へと帰る事。そして、それについては、一応、上部には知られていないはずだ。知られたくないのでね」
 ナツにとっては初めて聞く話だ。
「深読みすれば、クラビスがその本を入手できないようにするために、青実星が消されようとしているのではないか」
 ランは職業病からか、どこまでも深く、そして細かくケースを分けて考える癖がある。考えすぎだろうとラン自身も思う。
「ないとは限らない」
 しかし、クラビスは否定しなかった。
「クラビスはそんなに重要人物だったのか」
 ナツは二人の顔を疑わしそうに見た。
「私だけではないだろうからね、その書物を取り戻そうとしているのは。あの星で地球探索要員として養成され、地球に降り立った者の中には、伝説の書物のことを知り、写本し、元の本をどこかに託した後、写本したものを没収された者がたくさんいるはずだ。元の本を取り戻したいと考えていそうな者は私だけではない」
「まさか、危険思想でも書いてあるのか」
 ナツは片頬を歪めた。
「わからない。何が書いてあるか、わからないんだ。文字のような記号の羅列だ。まだ誰も解読してはいない」
「は?」
 ナツが気抜けした声を出した。「それなのに取り戻したい?」
「写本を地球に持ち込んだ者は一人もいないのか」
 ランは、きっといるはすだと考えていた。長い任務で知り得たのは、どんな場合でも「漏れ」は存在することだ。
「一人もいないはずだ」
 クラビスはきっぱりと言う。
「はずだ、ということは、確認はしていないと、そういうことだな」
 ナツの野太い声が怖いのか、クラビスの肩に止まっているインディチエムが掠れ声で囀る。
「確認は、していないね。しようがないからね。仲間とは切り離された場所に降ろされ、やがて、故郷の星の記憶を消去される。そして、地球に適合する過去を装着される。それが通常の工程だ。だから、もしも書物を持ち込んだ奴がいたとしても、遅かれ早かれ、その記憶は失われるだろう」
「じゃあ、クラビスはどうして故郷の記憶があるの?」
 ナツは不思議そうだ。
「それは――」
 インディチエムの背を撫でる。「記憶入れ替えの瞬間にインディチエムが到来し、それを阻止してくれたから」 
「そんなのって、かなりの機密情報じゃないか」
「だから、この樹下で、この話をしているんだ。司令長官がどんなにいい人間だったとしても、この話は伝えないでほしい。ちなみに、私はこの21次元地球のどこかに、青実星へと向かう空港があると考えています。これから、それを探す。たとえ消失間近な星だったとしても、新しい中継星が出来上がるのを待つのは気が長すぎるとわかったからね。それよりはマシだ」
 テーブルに置いたオブジェを指した。芽生えた植物はまだ数ミリしか育っていない。
「もう会えないのか?」
「そんなこともないでしょう。空港がすぐに見つかるわけでもないし、拠点としてあのホテルを利用するしかないのだから」
「この樹木の下、三人で時々会おう」
 ランが提案した。「念を押して聞いておきたいのだが、クラビスの目的は、故郷の星に帰ることではなく、その書物を手に入れることだね」
 その言葉に、クラビスは迷わずうなずく。
「だとしたら、僕の勘では、クラビスは青実星になど行かなくてもいいだろう」
 ランはインディチエムをちらりと見た。その鳥も、ランをまっすぐに見据えている。
「じゃあ、どこに書物が?」
「地球、0次元」
 ランは確信に近い自信があった。
「え? マジ?」
 ナツが目を見開いた。

つづく。

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