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連載小説 星のクラフト 8章 #4
翌朝――。
ホテルのダイニングで出会った時、ランとナツは一度目を合わせただけだった。ナツは家族と共に朝食を楽しんでいる。子供たちはビュッフェでプレーンオムレツを取り過ぎだと母親のマヤに叱られていた。
ランは一人でテーブルに座り、ホットコーヒーとビスケットだけの朝食をとっていた。ダイニングでは誰もが忙しそうに料理を探している。そろそろ豪華なビュッフェにも飽きてきたのか、あるいは慣れてきたのか、人の流れはスムーズだ。
ランが二杯目のホットコーヒーを口にすると、
「ご一緒しても?」
後ろから声を掛けられた。
振り向くと、クラビスだった。
「いつも後ろから登場するね」
「声を掛ける時には後ろに回るようにしているのでね」
クラビスもコーヒーとビスケットを盆に乗せている。
「どうぞお座りになって」
ランが言い終わる前に、クラビスは盆をテーブルに置いて、椅子を後ろに引いていた。
「あれのフェイク版は作れそうですか」
《帰還》のオブジェのことだ。
「実を言うと、あれから一晩でいろいろと変わってしまった。もうフェイクを作ったりしない」
「それはまたどうして?」
コーヒーを啜り、熱かったのか、顔をしかめた。
「部屋に戻ってから、いろんなことが分かり始めた。いや、むしろ、分からなくなり始めたと言った方がいいか」
まだ考えはまとまっていない。そのせいでまどろっこしい言い方になってしまう。
「私には教えて貰えないのでしょうか」
クラビスが不満げに首を傾げる。
そう言えば、今朝はインディチエムがいない。インディチエムを連れていない時のクラビスを見るのは初めてだろう。もちろんハルミと二人だけでいるところを見掛けたことはある。でも、クラビスの説明によると、ハルミはインディチエムでもあり、ハルミといる時には彼はインディチエムといることにもなる。
「インディチエムをダイニングに連れてくるわけにもいかないからね」
ランがクラビスの肩辺りを見ていることから察したらしい。
「じゃあ、今は部屋に?」
「さあ、どうかな」
思わせぶりに微笑む。
イメージの中で、クラビスの周囲をインディチエムが激しく飛び、あの甲高い声を上げる。ひょっとしたら、今、インディチエムはクラビスの中に流入しているのかもしれない。
「とにかく、オブジェのフェイク版を作るのは止めた。そんなことはしない方がいいからね」
どうせ上部組織にはバレているのだから、と言おうとしてやめた。「それより、今日はこの後、ナツと森散策に行く予定でね」
「楽しそうですね」
「よかったら、そちらの方にも参加しませんか」
コーヒーカップに口を付けながら、クラビスの目を伺い見た。
クラビスの切れ長の目が、奥の方できらりと光る。
「ぜひ」
短く言うと、クラビスもカップに口を付け、ランを見返した。
「じゃあ、樹の下で」
そう言うと、ランは立ち上がった。ダイニングで長話をするつもりはない。
ナツはまだ家族と食事を取っていた。ランが視線を送ると、ナツがちらりとこちらを見返し、小さくうなずいた。
つづく。
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