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真夜中の5分前〜良の目線

ヒロインである双子の姉妹に翻弄される日本人の青年『良』
もの静かで、まるで喧騒から身を潜めて生活しているような物静かな老人と暮らす寡黙な青年。来客があっても頭を上げることなく一心に時計を修理している。まるで時計を直す事が自らの使命の様に一心不乱と云えるぐらい集中しているのだ。会話の端々ぐらいは耳に入っているのかもしれないけれど格段何の興味も無いようにみえる。時計店と言う特別な空間に流れる特別な登場人物たち。日本人の青年と老人。衰えた目や細かな作業のかなわなくなった手先の変わりをさせている青年とのもの静かな空間。この老人にはどんな経緯(いきさつ)があって、この日本人の青年をしかも住み込みで雇うことになったのか?その背景に曰くがありそうで気になっている。何かの偶然で出逢った青年をたまたま何も訳を聞かずに家に招き入れたのだろうか?上海という土地がそこまで安全な街であったと言う認識では無かったので驚いた。原作とは違う設定なので監督が作り出した世界なのだろう…。何の背景も無い設定をされる方のようには見受けられないので細かいシュチュエーションも含めてプロットが出来上がっているのだと思ってる。色んな歴史のある街なので余所者に対して優しい人と頑なな人に別れるのだろう。日本人に対しては未だに消えない感情も残っているハズだから。そんな都会の賑わいから外れた居留区で昔から営まれていたような時計店に身を寄せる日本人。周りにはどのように映っていたのだろうか?ただ目立たぬように息を潜めるようにヒッソリと暮らす若者は傍目には日本人には見えていなかったかもしれない。遠くから来た物好きな孫とでも思われていたかもしれない。そのくらいその風景に溶け込んで居るのだ。時折プールで泳いだり、街頭のシネマシアターを観に行ったりが唯一の贅沢だったのでは無いだろうか?それ以外は黙々と時計のネジを外したり組み立てたりの繰り返しだったのだろう…あの日彼女に出逢うまでは。

彼女の美しさに目を奪われながらも、突然の誘いに戸惑う青年。何故自分が選ばれたのかも分からぬままにプレゼントを探そうと走り回る。良にとっては心踊ると云うよりも困惑と戸惑いの方が勝っていただろう。『また、プールで…』と言われても再会出来ない落胆。突然にこやかに現れた彼女に誘われて落ち着かない様子の青年の胸の内を表す挙動不審気な振る舞い…入れ替わりに目の前に現れた彼女が別人だとはつゆにも思わぬほど緊張していたのだろう。ただの鈍感と言うよりも緊張していたと取るべきだろう。その可愛らしい反応は少年の様にさえ見えた。
そこで良かれと思って選んだアンティークの置時計に、時計を贈る事には忌みがあることを知らされる。これは物語を通しで見た時の伏線だと思った。後に恋人となったルオランへ腕時計をプレゼントする青年。その時は以前聞いたこの話しは覚えていなかったのだろうか?それとも彼女へ5分遅れの時計を贈る事で一緒に時間(とき)を刻んで行こうと言う事を伝えたかっただけなのか?異国の地で暮らす異国の青年には馴染みの無い習慣でうろ覚えだったのかもしれない。あの日、あの事故が起きるまでは思い出しもしなかったかもしれない…。

ある日ルオランに呼び出されて、ルーメイと婚約者のティエルンに連れられてゴルフ場へと出掛ける事になる。車中での会話に話しを合わせようと一生懸命な表情がとてもリアルに可愛らしかった。何より出て来た映画のタイトルが『となりのトトロ』なのだから、いかに興味が無いかを証明しているようなものだった。何か外国でも有名な映画だと思ったのだろう。このチョイスに脚本家のセンスを感じる(笑)
実際春馬くん自身も好きなアニメとして「となりのトトロ」を挙げていたので監督とのやり取りの中で生まれた一言だったのかもしれない。中国でも人気のアニメだから。素朴な時計修理工の青年にゴルフなど出来るはずなく、案の定OBを出して茂みの中をルーメイとロスボールを探し回る。そこでルオランの仕事や婚約者の事を語るルーメイの表情に僅かに心を動かされていた。その夜の別荘で酔って踊りだしたルーメイに耐えかねたように飛び出したルオランを追いかける。双子の妹への押し込めた感情を良に向かって吐き出した。ただ抱き締めて受け止める良。そして二人だけで時計店の二階の良の部屋へ帰って来る。あわてて洋服をかき集めて片付ける姿やチラリと横目で見ながらベッドのシーツを直す姿が微笑ましかった。『(車を乗って来てしまって)ふたりはどうやって帰って来るんだろう?』と笑う二人がイタズラ気で可愛い。翌日階下の時計の音に目を覚まして部屋の時計と時間がズレている事に気付く。亡くなった彼女のクセだと寂しげに言う青年の見えない過去に彼女は何を思っていたのだろうか?嫉妬をする程の仲でも無いこの関係でチクリと心が痛んだのだろうか?この日を境に距離を縮める二人。
どこまでも意地悪な運命は映画館に来て飲み物を買いに行った良からルオランを引き離す。彼女が知らぬ間に髪を切った妹と間違えた婚約者からルーメイへのプレゼントのワンピースを受け取ってしまう。この時から運命の歯車は動き出していたのかもしれない…

ある日ルオランから妹のルーメイと一緒にモーリシャスへ旅行へ出掛けると告げられる。この時のルオランの表情が何故か気になった。これは本当にルオランだったのだろうか?鏡の前の彼女のあの仕草の意味は?不可解な謎を残して彼女たちは旅立つ。

いつものように時計を修理する良に聴こえてきた海難事故のニュース!その時揚羽蝶が何処からともなく飛んでくる。このシーンは『バタフライエフェクト』を彷彿させる。かなり昔の映画だが過去と現在を繋ぐ象徴として揚羽蝶が使われる。これは映画の演出ではなく原作でも使われているものを忠実に再現されている。愛しい人を悲劇から救う為に何度も繰り返される現実だった…シリーズ化されていて三部作になっていたハズだが原作と映画はラストが変更されていたと記憶している。今見ても面白い映画だと思う。昔読んだマンガでヴィーナスの化身として揚羽蝶が使われていて女性を象徴するイメージがある。この映画の中の双子の姉妹関係に似たイメージではないかと感じた。

【バタフライエフェクト】
バタフライ効果(バタフライこうか、英: butterfly effect)は、力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象
カオス理論で扱うカオス運動の予測困難性、初期値鋭敏性を意味する標語的、寓意的な表現である

一年後に話しが跳び、あの事故で生き残ったのはルーメイだった。しかし結婚生活は上手くいかず、夫は妻の事を疑いルオランではないかと良に判断してくれと頼む。双子の見分けが付くほどの付き合いでは無かったようだが?仕方なくルーメイを訪ねる。そこに居たルーメイは以前の自信満々の彼女とは印象の違う女性だった。どこか不安げで儚ささえ感じるのだ。そこでマントルピースに飾られた置時計の時刻が正確であったのを確認した。その時に、もしもルオランだったとしても彼女はルーメイとして生きる事を選んだのだと考えたのではないだろうか?『あれはルーメイだ』と告げられても受け入れられない夫のティエルン。結局二人は離婚と言う形で終わりを迎える。
家を出た夫に傷心のルーメイは自分が誰なのか分からなくなってしまいプールに飛び込み自分は泳げない事を確認しようとする。それを見た良がプールの底に沈んだ彼女を助けだす。『よかった、泳げない』と悲しげに呟く。見かねた良は部屋へ連れて帰る。そしてルオランとのデジャブを繰り返しながらルーメイと過ごす。この時の良は彼女に何を見ていたのだろう…いなくなったルオランを見ていたのかルーメイを見つめていたのだろうか?
ある日老人の落とした詩集を読んで何を思ったのか?自分を取り戻したいと思ったのか…モーリシャスの教会を再び訪れる。回想の中でロザリオと腕時計を入れ替えていたのはルオラン?良との決別?5分前との決別はルーメイとの決別を意味するのか…戻って来た彼女はロザリオを戻し再び腕時計を手にしてマリア像を見上げた。
突然何も告げずに居なくなったルーメイを探して街中を走り廻る良の目には涙が溢れる。目の前に居る女性が誰で在ろうと彼女自身を愛すると思っていたのではないのだろうか?また愛する女性を失ってしまうと思っていたのでは?
真夜中に物音で起きる良…ルーメイが置いていった腕時計を見て彼はどちらを想ったのだろう。やはりルオランだったのか?そして気付く…5分遅れでは無い時計に。新しい自分と言っていたルオランが目の前に居るのか?それともルーメイだと思っていた女性なのか?ふたりが見詰め合ったシーンで物語が終わる。


この映画は見終わった後にあの女性は一体誰だったの?と思わされる。そしてあのふたりはどうなるの?と結末は観客に委ねられている。

この映画の主人公は日本人の青年で彼が出逢った双子の姉妹に翻弄されるストーリーのハズだが…青年の事よりも双子の姉妹の方が気になる。まるで双子の姉妹のルオランとルーメイが主役の様である。これは監督の仕掛けたストーリーに嵌められているのでは?主人公の良よりも相手役のヒロインに気持ちを持って行かれてしまっているのだ。それこそがカオスを招いている。良の目線でたどり直せば何か気付く事があるのかも?と思って書き始めたが記憶を辿りながらだと上手くいかなかった!やはりもう一度観てみよう!それが結論(笑)

まるで良目線のあらすじ辿りになってしまいました😅皆さんはどう感じましたか?やはり何度も見直したくなってしまった3日目でした。


#真夜中の5分前
#三浦春馬

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