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『恋する寄生虫』の感想書く

あらすじ

極度の潔癖症で人と関わることができずに生きてきた青年・高坂賢吾。
ある日、見知らぬ男から視線恐怖症で不登校の高校生・佐薙ひじりと
友だちになって面倒をみてほしい、という奇妙な依頼を受ける。
露悪的な態度をとる佐薙に辟易していた高坂だったが、
それが自分の弱さを隠すためだと気付き共感を抱くようになる。
世界の終わりを願っていたはずの孤独な 2 人はやがて惹かれ合い、恋に落ちていくが———。

はじめに

三秋縋氏の小説「恋する寄生虫」が原案で、どうやらコミカライズもされているらしい。自分は映画鑑賞時にどちらも未読。(あとから原作称せを読んだのでそちらについては後述)

ストーリーやその他は抜きにして、なんと言ってもまず映像が素晴らしかったと思う。主人公の部屋の場面から物語が始まるのだが、部屋中央の窓から差し込んでくる外界の赤い光と、その両脇に静かに佇んでいる自室の青い光の対比がなんとも美しかった。
その他にも劇中に「あっ、この画綺麗だな」と思わされるシーンがいくつもあった。純粋に映像のクオリティが高いので、正直それだけでも個人的な満足度はかなり高い。

また、主人公たちが抱える悩みである「潔癖症」や「視線恐怖症」という物がとても分かりやすく映像で描かれている。実際彼らの悩みがどういう感覚なのかは想像するしか無いが、本当にあの映像のように世界が見えているのだとしたら、それはとても辛いことだろう。しかし映像としてのを感じたのは事実だ。加えて、主人公の心情に応じて部屋やバスが水浸しになったりするといった表現なんかも心惹かれた部分だった。

もう一つ特筆するとすれば、登場人物が少ない作品はやはり話に入りやすいなと感じた。この『恋する寄生虫』という作品に関して言えば主要キャラはたったの4人のみである。正直な話、これくらいの人数が自分としては好みかもしれない。映画はせいぜい120分程度の尺しかない。その中で多くの人物を描いていくのは難しいように思う。

以下ネタバレあり

寄生虫

この作品の主役?はタイトルにもある通り寄生虫であろう。劇中に登場する寄生虫の多くは実際に存在するもので、例えばフタゴムシは「目黒寄生虫館」の初代館長が長年研究していたとか。幼虫の際に出会った相手と融合して成虫になり、その後生きていくのも事実。ちなみにこのフタゴムシは、アジアやヨーロッパの淡水魚に寄生するもの。ひじりのセリフである「恋に寄生する」というのは、実は「鯉に寄生する」という発言。

この作品はこのフタゴムシベースにした、創作の寄生虫を中心とした作品と言える。キスやセックスをするとお互いの脳に住む幼虫が合体する、という辺りは流石にトンデモ設定だと思ったのだが実際にあり得るのだろうか?
しかしそれを大前提にしてしまうなら、中々筋の通った話だなと思った。寄生されていない人間(いわゆる「普通の人」)と恋に落ちてしまわないように、宿主を潔癖症や視線恐怖症などにして社会不適合者に変えてしまう。いざ寄生虫の宿主同士が出会ったら、お互いの居心地を良くする為にその潔癖症などの症状を和らげてしまう。いざ卵を作ったら宿主を自殺に追い込んでしまう、というのはなんとも怖い話ではあるが。
「あなたと居ると視線恐怖症が和らぐの」というセリフ、全てが判明してから聞くと色々な意味がこもっていたのだなぁと感じる。

ストーリー

終盤まで、というか二人が湖で自殺するシーンまでで言えばほぼ完璧な出来だった。お互いに世界を拒絶していた二人がふとしたきっかけで出会い、彼らの距離が段々と縮まってく様子が丁寧に描かれている。そこだけ見れば純粋な恋愛映画と言えるだろう。だがしかし、ハンバーガーから触手は生えてくるし、唐突に謎の寄生虫のイメージが描かれる。そんな寄生虫の描写が観ている人間の不安を育てていたのもまた事実。
そして二人が「もうカップルじゃんお前ら!」という関係になった頃に明かされだす寄生虫の真実。一気に話は動き出し、二人は湖へと向かう。(てかひじりに対して「一晩頭を冷やせ」とか言ってたけど、絶対逃げるだろうからもっと厳重に見張ってた方が良かったと思うんだよね)

正直な話、あのまま二人が死んでしまうのが単純かつ綺麗な終わり方だとは思う。ただそんな誰にでも思い浮かぶような安易なラストにしてしまってはこの映画が生まれた意味は無いと思う。そんな訳で自分は、中盤以降ずっと「この話はどういう結末に向かうのだろう」という事を考えていた。

結果としては「寄生虫は取り除いたけど卵が残っちゃってたよ」エンド。恐らく両者の体内に卵が存在するのだろう(お互いの体内に卵が残るってのもちょっと不思議な話ではある)。劇中では寄生虫が居なくなったことにより潔癖症の症状が出なくなっていたが、いつか卵が孵化したらまた潔癖症に悩まされるのだろうか。それともまた別の症状に悩まされるのだろうか? だとしたら結局湖で自殺をする前と後で何も変わっていないように思える。
だがしかし、最後に彼らはとても幸せそうにキスをしていた(しかも街が崩壊する火花を祝福の花火にして!)。前回のキスが死を覚悟した悲壮な状況だった事を考えると、幸せにキスができるというだけで彼らにとっては大きな一歩なのではないだろうか。自分はそう思いたい。

彼らがお互いに抱いていた恋心が彼ら自身のものなのか、それとも寄生虫が生み出した偽物なのか。それが一つのテーマだった。
寄生虫が摘出された後、潔癖症ではなくなった賢吾がひじりを未だに思っている様子が描かれていた。少なくともあの場面では「潔癖症でない=寄生虫の影響は無い」と考えていいと思うので、彼の恋心は彼自身の物だったと言っていいはず。

作品を観ていて思ったのだが、作中での現象は簡単に言えば「吊り橋効果」に似ている。吊り橋効果は「恐怖や興奮で心拍数が上がった状態を、ときめきによるドキドキと勘違いするというもの。
厳密に言えば違うものだが、「恋という錯覚を生み出してしまう」という点では似てなくもない。

今回の作品を吊り橋効果で例えてみると、「揺れる吊り橋の上で二人が出会い、そのドキドキをときめきと勘違いして彼らが恋に落ちた」となる。寄生虫の摘出後は「吊り橋効果による魔法が解けてしまった状態」と言える。
一般的な話で言えば、吊り橋効果が冷めた後にそのカップルが「やっぱ違うわ」となって別れてしまうパターンも往々にしてあるのだという。それでいうと、吊り橋効果が無くなってもお互いを思い合っていた彼らは、やはり出会うべくして出会ったのだろう。寄生虫はきっかけに過ぎなかったのだ。

その他細々した話

全く事前情報を仕入れていなかったので、作品を観ながら「さなぎひじり」はどんな時を書くんだ? とずっと気になっていた。どうやら「佐薙ひじり」らしい、思ってたより素敵な表記だった。てっきり蛹聖かと。

主人公の高坂賢吾。あそこまで世界に拒絶されている絶望的な状況で「自殺はしないと決めている」と言った彼の精神は凄まじいと思う。でも「君が命をくれた」という言葉から考えるに、自殺しないためだけに生きていたのだろうか。だとするととても悲しい。
ひじりの好きな「蝶(ホントはフタゴムシ)」を使ったアプリを作ってみせたのはマジイケメンだった。なんだかんだ元カノもいたみたいだし、潔癖症が無かったら普通にモテてそうだよね。
というか彼はそれまでの人生で何を食べてどうやって生きてきたのだろうか。とてもとても気になる。コンビニのおにぎりとかだったら食べられるのかな。(ちなみに彼の食べた後に吐きそうになる演技がなんともリアルだった)

映画上映前の宣伝で、『余命10年』という映画の広告が流れた。主人公が余命10年の女性なのだが、その演者が佐薙ひじりを演じる小松菜奈だった。彼女はそういう「死に近い」役を演じることが多いのだろうか? 確かにそういう役がハマりそうな人だなあとは思ったが。(てか25歳なのに学生服が似合ってるの凄い)
さて佐薙ひじりだが、単純にかわいかった。彼女も視線恐怖症が無かったらさぞかしモテモテだっただろう。そう考えると、宿主を社会不適合にするという寄生虫の作戦は正解と言えるのかもしれない。

まとめ

ぶっちゃけた話、細かいところをつつくと相当ボロが出てくる作品だとは思う(最後のウイルスのせいで火花が飛びまくってるのとかもはやギャグ。でも映像パワーで押し切ろうという強い意志を感じて良いと思う)。ただ最初にも言った通り非常に映像に力がある作品だと思うし、メイン4人に関しても役者の方々が上手くハマっており映像中で素晴らしい空間を作り出していた。
加えてフタゴムシという実際に存在する変わった寄生虫を元に、あそこまで設定や話を膨らませられるのは凄いなと感じた。

世の中の社会不適合者の7割は寄生虫が原因というのも中々に面白い設定だ。(でも残りの3割って…)

総評して、とても興味深い映画だったと思う(てかラストシーンに色々持っていかれたよね)

余談(原作を読んで)

『恋する寄生虫』の原作を読んだのだが、とても驚いた。基本的な設定こそ共有しているものの、小説と映画では話の構成がまるっきり違った。
違う点を挙げていけばきりがないが、一番印象的だったのは結末の描かれ方が全く違う。
詳しい言及は避けるが、どちらかというとハッピーエンドだった映画に対し、小説はビターエンドとなっている。個人的に、一つの作品の〆として考えるなら小説版の結末の方が好きだ。しかし映画の終わり方も、映像作品として考えるならば上手い〆方だったと思う。
媒体に合わせて結末が変わるというのもまた、一つの醍醐味なのではないだろうか?

映画を観てこの作品が気になったら、是非原作小説の方も読んでみて欲しい。絶対に楽しめると思う。

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