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『余命10年』の感想を書く。

あらすじ

数万人に一人という不治の病で余命が10年であることを知った二十歳の茉莉。彼女は生きることに執着しないよう、恋だけはしないと心に決めて生きていた。 そんなとき、同窓会で再会したのは、かつて同級生だった和人。 別々の人生を歩んでいた二人は、この出会いをきっかけに急接近することに——。 もう会ってはいけないと思いながら、自らが病に侵されていることを隠して、どこにでもいる男女のように和人と楽しい時を重ねてしまう茉莉。 ——「これ以上カズくんといたら、死ぬのが怖くなる」。 思い出の数が増えるたびに失われていく残された時間。二人が最後に選んだ道とは……?(公式サイトより)

https://wwws.warnerbros.co.jp/yomei10-movie/about.html

はじめに

この作品は2007年に刊行された小坂流加の小説が映像化されたもの(自分は現時点で原作は未読)。2017年に加筆修正された文庫版が発売されたのだが、残念ながら小坂氏はその発売3ヶ月前にこの世を去ってしまった。
彼女が患っていたのは指定難病である「肺動脈性肺高血圧症」という病気。言うまでもなく今回の映画のヒロインが患っていたのと同じ物である。

肺動脈性肺高血圧症

流石に患者数も多くない指定難病という事もあってか、Google等で検索しても情報がそこまで出てこないのだが、概ね劇中で紹介されていた通りの病気と考えて問題ないと思われる。
日本での患者数はおよそ2,000人で、男女比で言うと女性の患者数のほうが2倍程度多い。疾患の原因は基本的に不明(遺伝的なものもあるとか)。
治療を受けた患者の5年生存率は50%とも言われていたが、近年では治療法が発達したためか死亡率も低くなっているそう。

唐突な自分語り

ここで何故自分が今回この映画を鑑賞するに至ったかを軽く書いておきたい。
この映画を意識したきっかけは、『恋する寄生虫』という映画の上映前に流れた広告。その恋する寄生虫のヒロインはやはりとある「死に至る病」を抱えており、更に『余命10年』のヒロインと同じく小松菜奈が演じていた。いやなんかめっちゃ似てるやん、と当時は思った。(実際の作風は全然別物であったが)
その時の印象が自分の頭の中で強く残っており、それが頭から離れなかった結果、今回の鑑賞に至る。

自分はこういう映画は基本的に一切観ない、いや寧ろ忌避する側の人間であった。「こんなお涙頂戴の映画なんて女子供が見るもんやべw」と思っていた事をここに正直に記しておきたい。

だからこそこの機会に、このような自分が今まで避けてきた作風の映画を鑑賞しようと思ったという側面もある。

感想

初めに言っておく。信じられないくらい泣いてしまった。どのくらいかと言うと、涙と鼻水でマスクがぐしょぐしょになるくらいには泣いてしまった。(汚くてごめん)

自分は割と涙もろい方なので「いやどうせ泣いちゃうんだろうな」とは思っていたが、ここまであっさり泣いてしまうのもそれはそれでどこか悔しいものがある。以前『フラ・フラダンス』という映画を観た時にも信じられないくらい泣いてしまったのだが、今回はそれに次ぐ涙の溢れ具合であった。

一言にするならばこの作品は「自分の余命が10年と知ったヒロインが、どのように死と向き合っていくか」というものだ。
その病気に関しては冒頭で明かされる。当然この世界には奇跡も魔法も存在しないので、その死の運命からは逃れることはできない。そんな中どこか飄々としているヒロイン茉莉(まつり)が、どう10年を過ごしていくのか。それがとても丁寧に、切実に描かれていた。

この作品の魅力

この作品の魅力はなんだろうか。それはもう間違いなく「映像がとても綺麗」であることだと思う。

こういう風に言ってしまうと申し訳ないのだが、ストーリー自体はありきたりな物であったように思う。正直予告を観れば大まかな話の流れは予想できるし、実際その予想から大きく外れる急展開のような物も無い。

それでもここまで自分が感動して涙を流してしまったのは「映像に力があったから」だ。それは間違いない。

日本の四季は美しい

この作品に触れて改めて感じた。「日本の四季は素晴らしく美しいものだな」と。

春には薄紅色に咲き誇る桜があり
夏には突き抜けるような青空があり
秋には黄金色の銀杏が頭上を覆い
冬には銀白の雪が静けさを運んでくる

そんな季節と共に様変わりする風景がこれでもかというくらい丁寧に、鮮やかに描かれていた。正直自分は花より団子というタイプの人間なのだが、そんな自分ですらこの四季の美しさには感動されたし、圧倒させられた。

なんと言っても一番心を打たれたのは、二人が桜吹雪をバックに見つめ合うシーン。こんなに綺麗な画があるものかと唸ってしまった。(美男美女だからこそ映える画だなとも思ったが)

予告にもあるシーンなのだが(43秒辺り)、劇中でのそのシーンは本当に格別であった。自分はこの場面で完全に心を掴まれたと言っていい。

更に言うとその場面、そしてその演出は非常に大きな意味を持っていた。それが分かった時に本当に涙が止まらなくなってしまった。

「映像の力」というものを改めてヒシヒシと感じさせられた瞬間でもあった。

俳優さんって凄いよね

プロの方にこんな事を言ってしまうと最早逆に失礼なのではないかとすら感じてしまうのだが、それでもやはり映像作品を鑑賞する度に思う。皆演技が上手だなと。
セリフもそうなのだが、言葉が無い場面で感情を身体で表現するのが本当に上手なのだなと毎度毎度感じさせられる。

今回の作品で特に印象に残ったのは二人。
松重豊が演じた茉莉の父と、リリー・フランキーが演じた和人の(実質的な)父の二人である。
今作は全体的に映像中の女性比率が高めの映画だなと感じたのだが、そんな中で主人公たちを支える「父親」として、作品自体もしっかりと支えていたように思う。

言ってしまえば映像の力演者の力。この二つに今回はねじ伏せられてしまったように感じる。

うるうびと

今作の主題歌であるRADWIMPSの「うるうびと」。そのMVビデオなのだが、今作のもう一人の主人公である和人が登場している。
しかも彼が"あの"ビデオカメラを持っていることからも分かる通り、時系列としては映画本編後となる。

いやそんなんズルやん。

このMV観てまた涙が溢れてきたわ。ハッハッハ。

どうでもいい話

主に2013年から2019年の間が作中の時系列だったのだが、特に序盤で登場したスマホがしっかり当時のものを意識していた。Apple製品で言えば当時はiPhone5辺りが最新機種であったらしい。広いベゼルと旧世代を感じさせるUI。そういうものを見て少し懐かしさを感じた。

作中では「東京五輪招致決定」や「新元号令和」など、実際にこの日本で起きたことが忠実に再現されていた。ということは恐らくこの作品の世界でも2020年に新型感染症が流行してしまうのだろう。
そんな中2019年に自分の飲食店を構えた和人。彼がこれから直面するであろう困難を想像すると涙を禁じえない。本当に。

平日の朝に鑑賞したにも関わらず、(普段と比べると)割と多くの人が劇場に足を運んでいた。学生の人が多かったような気もするので、もしかしたら春休みという物が関係しているのかもしれないが、自分が知らないだけでこの映画は話題になっていたのだろう。いや知らんかった。

正直な話、「ここで泣かせにきてるんだろうな」と感じて涙が引っ込んでしまった瞬間もあった。性格が捻くれているからこその弊害。

こういう作品に触れた後はどうしても「生きること」「死ぬこと」について考えてしまう。ここでは勿論自分の死生観のような物について触れることはしない。
ただこういうそこそこにリアリティのある形でそういう事を考えさせられる機会というのは大事なのだろうなと思う。

まとめ

本当に映像が素晴らしい映画だった。日本人だからこそ最大限に楽しむことができる作品だと思う。やはり桜というのはいつ見ても美しい。

先程ストーリーがある種ありきたりと言ってしまったが、演出や構成が丁寧で、初見でも分かりやすく作られていたと思う。設定がスッと頭に入ってくるし、登場人物も皆キャラが立っていて人物関係がごちゃごちゃになる事も特に無かった。丁寧で親切な作品。安心して人にオススメできる。
(一方で、先程話題に出した『恋する寄生虫』という作品は結構ぶっ飛んでいた。自分は好きだが)

こういう作風自体が苦手な人も多いと思うが、それでも丁寧に丁寧に描かれた風光明媚な四季折々の風景を堪能して欲しいと自分は思う。(ちなみに劇中の四季はCGを用いず、その季節にしっかりと撮影したらしい。つまり制作に少なくとも1年は掛かったという事。すごい)

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