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名前すら知らないわたしを好きになった彼。


この題だけ見るとさ、一目惚れされたのか?って思うよね、んーん、違うんだよ、聞いて聞いて、聞いてってよ。


みんな告白といえば、直接がイチバンでしょ!みたいなところ、あるよね。
わたしもそう、ずっとそう思ってたんだよね。
ずっとそう思っていた考えが覆されたのは、大学生3年生の時だった。
直接告白してくれた彼のことを、重いと思ってしまったわたしがいた。


彼と会ったのは事故のようなものだった。
彼とは友達と興味本位で始めた出会い系サイトで出会った。
出会い系サイトに登録しているくせに、わたしは出会うつもりはさらさらなかった。
ただ、連絡を取る異性がほしくて登録した。
出会い系サイトに登録したことのある人であればわかると思うけど、年齢が若いというだけで、顔を出していなくてもメッセージがかなりの量届く。
その中から厳選して何人かメッセを返し、うまく行かなければぶちって、他の人のメッセを返す、その繰り返しだった。
大体の人は下心丸出しで連絡をしてくるので、出会い系ってこういう出会い系なの?と錯覚してしまいそうにもなった。

先ほども書いたが、本当に出会うつもりはなかったため、自分の住んでいるところは曖昧にしていた。
メッセを返している中で1人、真面目な感じでメッセを返してくれる人がいた。
その日は酔っていたのもあり、すこし、自分のことを話しすぎてしまった。
自分のバイト(パチンコ)も、バイト先の最寄駅も伝えてしまっていたのだ。
その駅前にパチンコ店なんて3つしかない、
「あぁ、やってしまった」
なんて思っても取り返しはつかない。
まあけど深く考えることもない、だって会おうとも会いに行くとも話はされていないのだから。
やってしまったことはしょうがない、次から気を付けよう、そんな軽い気持ちでいた。

あるバイトの日、わたしはカウンター業務の日だった。
パチンコのカウンターは玉やメダルを景品に交換する作業で、景品交換できなかった分はお菓子を渡す、そんな仕事だ。
客層はお年寄りが多く、若い人が来ると珍しいため、若い常連さんの顔は大体覚えていた。
ただその日、カウンターには見慣れない若めの男の人が来た。
チラチラと見てきて、なんだろうこの人 と思ったのが第一印象だった。
景品を渡す時、彼の顔を見ると明らかに動揺して目線を逸らした。
お菓子を渡すと、わたわたしていて、手渡ししたお菓子を落としていた。
なんとなく、面白い人だなと思った。

その彼が出会い系の彼だったと知ったのは、バイト終わりにiPhoneを見た時だった。
「あぁ、だからあんなに動揺してたんだ」
そう思うと、年上だがなんとなくウブで可愛く思えて面白かった。
出会うつもりはなかったけど出会ってしまった、そんな人が彼だった。
「まさか会いにくるなんて」
そう思ったけれど、わざわざバイト中に一瞬会うために来てくれるなんて、なんだかいいなと思っているわたしもいた。
その日のうちに「ご飯行こう」とか、「このあと会える?」とか聞いてくるような男だったら、この話はここで終わってたと思う。

一度会ってしまえば、怖いものはなかった。
いや、本当はもっと警戒しなくてはいけなかったのかもしれないが、なんとなく、その人は大丈夫そうだなと、わたしのあてにならない直感がそう言っていた。
彼は頻繁にわたしのバイト先に訪れるようになり、好きでもないパチンコをうって、わたしと少し顔を合わせて帰る日々が続いた。

ある日、一度ごはんに行きたいと誘われた。
何度もバイト先にも足を運んでくれていたのもあり、行くことにした。

わたしの本当の名前は「妄夢美(例です)」なんだけど、LINEの名前を「妄夢」にしていたため、彼はわたしを「妄夢ちゃん」と呼んだ。
名前は聞かれなかったから言わなかったし、苗字だって聞かれなかったから言わなかった。

わたしは彼の好きなわたしになろうと試みた。
なんとなく、その方が楽しそうだと思った。
彼とご飯へ行く道中、わたしの第一印象を聞いた。

可愛らしくて、控えめで、優しそうで、笑顔が可愛い

彼はそう言った。
全てわたしと正反対の褒め言葉だった。
彼の理想のわたしになるべく、なるべく可愛らしく振る舞ったし、彼をたてるため控えめに振る舞ったし、よく笑うよう心がけた。
彼がわたしのことを好きになっていることを、わたしは気付いていた。

そんな彼はとても優しくて、わたしの話をうんうんと聞いてくれて、わたしがネガティブに思うことにはそれはいいことだよとポジティブに返してくれたり、毎回家へ帰る時お菓子を買ってくれたり、炉端焼きのお店に行った時にはぜんぶ食べ物は焼いてくれて、海老の殻も全部剥いてくれて、熱いから気をつけてねと声をかけてくれたり、バイトが終わるのが遅い日にはバイト先まで迎えにきてくれることも多々あった。
彼のいいところは、夜遅くに車でわたしを送った後も、わたしの家には入ってこようと決してしないところ。
ちゃんと車の中から「また会おうね」と、いつでも笑顔で言ってくれた。

彼とたまに会うようになってから4ヶ月が過ぎた頃、バイト終わりに彼は迎えにきてくれた。
何となくこの日はいつもと違う感じがした。
いつも通り、少し彼をからかうと、彼は笑いながらわたしの頭をポンポンとした。
その空気が、いつもと少し違う気がして、今日はもう帰りますと言って、家までの帰り道はひたすらにバイトの話をした。
相手に話す隙を与えてはいけないと思った。

家の前に車が止まり、わたしはすぐに車を降りた。
30分後くらいに彼から連絡が来た。

「考えたんだけど、どうしても話したいことあって、もう遅いんだけど今からまた会えないかな」

あぁ、きっと告白されるんだろうな

そう思った。
彼と遊ぶのは楽しいし、彼と一緒にいるのは居心地が良かった。
でも何でだろう、誰彼構わず今まで付き合ってきたけれど、なんとなく、彼はそれではダメな気がした。
それと同時にすこし、違和感も感じた。

告白を、されたくない自分がいたからだと思う。

彼は本当のわたしを一体どのくらい知っていたのだろう。
言わないわたしが悪いという意見もあるだろうけど、聞いてこないあっちが悪いっていう考え方もできるよね。
隠してたわけではない、聞かれればちゃんと答えるのだから。

後日、流石に会わなきゃなと思い会った。
思った通り告白された。
その時のわたしはいたって冷静だった、冷静だったから彼のお望み通りのわたしを演じようとして、少し照れたふりをして下を向いて困ったように笑った。
人の好きを利用できないわたしは丁重にお断りした。
わたしが冷淡な人間で、彼の好きを利用して振り回しても楽しそうだなと思ったが、何故かそれはできなかった。
出来る人は人生かなり得してると思うな。

彼と会ってるほんの3時間ほど、彼の望むわたしを演じるだけで好きになってもらえるんだっていうのがわかってから、出会い系をするのが怖くなり、アプリを削除した。
そうだよね、毎日会ってる人でさえその人の本質なんてわからないもの、出会い系だと尚更わからないよね。

ただ別に出会い系を否定してるわけではなくて、わたしには合わなかったっていうのと、わたしみたいなダメンズに惹かれる人にはやらない方がいいだろうなってのが気付ける良い機会だったかなと思います。

その割に今は出会い系登録してみたいなという気持ちがたまらなくあります。笑
人って矛盾してるよねってはなしーーー!!

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