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【論文紹介】人工呼吸器管理のCOVID-19重症患者に必要なタンパク質量

集中治療室で人工呼吸器管理を受けるようなCOVID-19重症患者の多くは体内のタンパク質の分解(タンパク異化)が亢進している。食事からエネルギーを摂取することが難しく、筋肉等のタンパク質分解して何とかエネルギーを確保しようとしているためだ。COVID-19に限らず、ICUに入室するような重症患者の多くはタンパク異化が亢進している。筋肉が分解されれば体重も落ちるので、死亡のリスクは高くなり、また治ったとしてもその後の回復に時間がかかる。

このような背景から、重症患者に対しては、健康な人よりも多くのタンパク質を摂取することが各国の治療ガイドラインで推奨されている。日本版重症患者の栄養療法ガイドラインでは【1~1.2g/kg/day以上】と記載されている。体重50kgであれば1日あたり50~60gのタンパク質が必要となる。米国集中治療学会(SCCM)のガイドラインでは【1.2−2.0g/kg/day】と、日本版より多くのタンパク質量投与が記載されている。

COVID-19の重症患者についても、タンパク異化は亢進しているようだが、実際どれだけの量のタンパク質が喪失されているのか、報告が待たれていた。

今月頭にアメリカから報告された論文を紹介する。

Protein requirements for critically ill ventilator-dependent patients with COVID-19
CT Buckley et. al (2021) Nutrition in Clinical Practice
拙訳:人工呼吸器管理のCOVID-19重症患者に求められるタンパク質量
https://doi.org/10.1002/ncp.10763

米国の一病院のICUにて人工呼吸器管理となった22名のCOVID-19重症患者の治療データから、各患者の窒素バランスを算出し、求められるタンパク質量を考察した論文である。

窒素バランスとは、窒素摂取量と窒素排出量の差のことで、体内の窒素(タンパク質)の代謝動態の指標である。算出方法は割愛するが、この論文では窒素バランスが-4~+4であれば窒素バランスが取れているとしている。つまり窒素バランス-4未満であればタンパク異化が亢進していると解釈ができる。

結果だが、22名の重症患者の窒素バランスの平均は-12.1であった。17名が窒素バランス-4未満と、大多数がタンパク異化が亢進している状態であることを示唆する結果となった。この17名と窒素バランスが-4以上だった5名とで平均のタンパク質投与量を比べると、前者は0.8g/kg/day、後者は1.2g/kg/dayと、後者では優位に(p=0.046)多くのタンパク質をICU入室期間中に投与されていることが分かった。

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横軸がタンパク質量の投与量、縦軸が窒素バランスとなっている。タンパク質の投与量が多いほど窒素バランスが増加することも示唆された。

論文の内容はここまで。これだけ読むとCOVID-19の重症患者に対しては他の重症患者と同様、高タンパク質投与が必要だと思われる。一方で、この論文では両グループ間で死亡率やICU入室期間については差が認められなかった。あくまで米国の単一施設での解析であり、かつサンプル数も22名と少ないので、日本からの報告も含め、複数施設からの研究報告が待たれる。

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