20240608『八月の銀の雪』

読んで。聴いて。

人を知りたければ、その人の好きな本を読むこと。
どこかで聞いたことがある気がしますけど、今回は気まぐれ。
お腹の虫が、頭で鳴いたから——。

伊与原新さんの代表作を調べ、雰囲気で選んだこの本。
『八月の銀の雪』は表題作を含め、5つの短編によって成り立っています。
それぞれが自然科学を題材とした、寂しくもどことなくやさしい話でした。

短編『八月の銀の雪』を読み終え、自分の中に2点の驚きがありました。
1つは「これ、ミステリじゃない」ということ。
もう1つは「意外と面白い」ということ。侮っていました。
(もちろん、もともと雑食なので侮るは誇張。ミステリ系作家の心理描写は比較的薄いという漠然としたイメージを持っていました)

理系×心理描写のように、二つの(反するイメージのありそうな)ものを組み合わせると物語に奥行きが生まれます。
なんとなく、『ハゲタカ』の真山仁さんは経済×心理描写だなあ、と思い出して好きな短編(一俵の重み)を読み直しました。テイストはまるで違っていましたけど。本も人も、複数の構成要素の連なりなのかもしれないと再考してみたり。

八月の銀の雪

表題作

地球の中心は鉄の雪が降る。
けれど地の底は見えません。だから、耳を澄まして。

人のことを知りたいなら、胸に耳を押し当てて。
あなたの中にはどんな色の雪が積もっているの?
どんな要素があなたを象っているの?

自分のことを知りたいなら、何を聴けばいいのだろう。
実のところ、文系なのか、理系だったのかすらよく分かっていません。
結局わたしは……?

たまには目を閉じて、静かに耳を欹ててみたくなりました。
私にも何か聴こえるかしら。

ちいさな救いの物語、本作では抜群でした。

他4編とちょっとした洒落

人間は大きいものや不変のものに、救いを求めがちなのかもしれません。
クジラのように泰然と、小さなことに目くじら立てずにいられたら、アルノーにはちゃんと帰るところがあるのに、なんてね。
まるで凧みたい。風吹けばいつでもたかいとこへ飛んでいってしまいそう自分を思うと、なんだか焦燥感が沸き上がってきたり(精神状態がよくない)

そう考えると、等身大の『玻璃を拾う』はリラックスできて読みやすかったような。まつ毛がキーアイテムになっていたのは盲点で、やられたという気持ちになりました。

いずれの短編も、もう少し欲しくなる……長編でも読んでみたい物語でした。

さいご

人の好きな本を読むことで人の理解に繋がったか、やっぱり分かりません。
敬愛する作家の瀬戸口廉也さんも「人と人は分かり合えない。でも、」というスタイル。

ただ、読後に作者の作品を調べ直した時、
あっ、この人『リケジョ!』の作者さんでしたか!
ようやく気付きました。あのひと、紹介してくださった人のおススメはたぶんこっち。……と、いうことくらいは分かったような気がします。

今回、自分ではきっと選ばない本を読んで、またひとつ世界を広げられました。
こうして何かを識ることが、私への救いになるのかしら。
それでも、自分くらいは私の世界に対して「大好きだよ♡」と囁きかけてあげられるくらいの余裕を取り戻したい。

ありがとう、大好きです。

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