見出し画像

稲田堤『たぬきや』にて

 こちらの「観光道踏切」の記事を目にして、ふと思い出した貴重な経験。それは、この稲田堤にあった川茶屋『たぬきや』で過ごした束の間のひととき。2018年2月10日、土曜日の昼下がりのことだ。

 JR南武線の稲田堤駅から、まさにその「観光道踏切」を背にして、トコトコと多摩川まで歩く。多摩沿線道路を渡って、京王相模原線の鉄橋がよく見える土手を越えると、そこに『たぬきや』があった。

 店内に入り、まず嬉しかったのは暖かいストーブ。我が子と一緒に訪ねたので、おでん、焼きそば、ジュース、ポテトチップ…と彼らの食欲に任せるがままに注文。流行りモノではない本物の昭和の空気感にしばし浸った。

 『たぬきや』の歴史は80年以上に及んだそうだが、私がこうして訪ねた9ヶ月後、2018年11月に閉店となった。私が『たぬきや』の客となったのは、結局この一度きり。多くの常連客がその人間模様を見せてきた空間を、わずかながらも体験できたのだから、まさに奇跡の一日だ。
 
 多摩川沿いに、こんな昔日の行楽を追体験できるような場所はもうほぼないだろう。大田区の多摩川駅周辺で少しばかり、名残といえるかわからないほどの雰囲気に出会えるくらいか。

 いつか多摩川沿いの行楽の文化史をしっかり語れるように、もっともっと勉強したいと思っている。

こんなに美味しそうな焼きそばに、今後出会えるだろうか…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?