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P・K・ディックのクラシック音楽(5)

じつはラジオDJ小説でもあるディックの"Broken Bubble"(1988)には、ラジオ放送で、レコードがあれこれとかけられる場面があります。当然、実際の演奏を思い浮かべて読んでほしいという願望があったのでしょう。戦前の演奏が中心なので、著作権が切れていて、自由に聴ける録音が多いのがうれしいところです。ディックがどんな演奏に耳を傾けたかがわかります。

まずは、ジーリが歌うプッチーニの『ラ・ボエーム』に出てくるロドルフォのアリア「冷たい手を」が流れます。ジーリはお気に入りの歌手だったようです。

そして、ベイヌムがロンドンフィルを指揮したチャイコフスキーの序曲「ロミオとジュリエット」が続きます。

ロジンスキー指揮のクリーブランド管弦楽団で、シュトラウスの「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」が選ばれています。

この連続からも、ベルカント好み、弦の美しさが好きなことがわかります。

ダメ押しとも言えるのが、主人公夫婦のお気に入りとして、メンゲルベルク指揮でリストの「レ・プレリュード」の古い録音が選択されていることでしょう。弦の美しさに憧れていたことがうかがえます。オケの指定は明記されていませんが、コンセルトヘボウ版ではないかと思います。

ただし、主人公は、妻に隠れてこっそりとメンゲルベルク指揮の序曲「レオノーレ3番」を手に入れている、と言っています。ここまでくるとかなり重症だったことがわかります。


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