小野俊太郎

『シェイクスピア劇の登場人物も、 みんな人間関係に悩んでいる 作品から学ぶ言葉の力』、…

小野俊太郎

『シェイクスピア劇の登場人物も、 みんな人間関係に悩んでいる 作品から学ぶ言葉の力』、『シェイクスピアの戦争 虚構と現実の格闘のなかで』(小鳥遊書房)。

最近の記事

「皇帝円舞曲」とフロイト

あまり話題にはならなかったようですが、「100分de名著」の立木康介によるフロイトの『夢判断』はなかなかおもしろいものでした。最後ラカンにまで踏み込んだのもなるほどと感じました。 第1章の先行研究つぶしは、学問の手続きのお手本のようなものですが、普通の読者はここでへこたれるので、大平健のようにバッサリと切り捨てたもののほうが分かりやすいのも理解できます。「不気味なもの」も同じ手続きをとっているので、読者を減らしている気がします。 シンクロニシティではないですが、立木康介に

    • おしどり夫婦作家

      ハワード・ホークスの『リオ・ブラボー』が再映されるとか。色々すぐれた点のある映画ですが、脚本家のリイ・ブラケットが果たした役割をもっと評価すべきに思えます。 ブラケットは、エドマンド・ハミルトンといわゆる「スペースオペラのおしどり夫婦」でしたが、ブラケットの凄さは、ハードボイルド小説を経て、『三つ数えろ』以後のハワード・ホークスを支える脚本家となったことです。ホースオペラを焼き直したのがスペースオペラなわけですが、そのエッセンスを活かしたといえるでしょう。 ブラケットの重

      • 日本研究は衰退しているのか

        筒井清輝スタンフォード大学社会学部教授が、日本研究がアメリカの大学機関で占める割合が減り、有望な研究が減っていると嘆く記事がありました。 確かに日本研究そのものは後退している気がします。第二次世界大戦戦後の「カウンターカルチャー」とみなせる文化への関心から、冷戦後の「サブカルチャー」への関心に移行したことで、今でも同時代的な文化領域には一定の人気はあるかもしれません。 そのため日本文化についてときには日本語で解説してくれる「外国人」学者も増えています。「世界サブカルチャー

        • 「季節のない街」

          クドカンによる2023年の配信ドラマ「季節のない街」をテレビ東京で流してくれています。話題作となった「不適切にもほどがある!」の前に「あまちゃん」のパロディと自己解体のドラマがあったことはもっと考慮すべきでしょう。 『ゼブラーマン』とか「吾輩は主婦である」のように本歌取りが得意というか、ある意味それしかできない宮藤官九郎ですが、それだけに現代的な問題を盛り込むのがうまい脚本家です。 12年、つまり干支が一回りした時期を狙って東日本大震災の復興の内実を描くドラマを打ち立てる

        「皇帝円舞曲」とフロイト

          『牛泥棒』

          蓮實重彦の文章で『牛泥棒』のタイトルを目にして、なかなか見事な映画のことを思い出しました。アメリカの民主主義の理念を考えるうえで外せない映画の一つだと思います。もっとも、十分にわかっていながら政治的読解を忌避する蓮實さんのことですから、あれこれのショットの話かなと思ったりもします。 この映画のヘンリー・フォンダがなければ、『荒野の決闘』も『間違えられた男』も『十二人の怒れる男たち』もなかったのは確かでしょう。ダナ・アンドリュースファンとしても見逃せない映画です。そして、『つ

          『舞台は廻る』

          ホームドラマチャンネルで『舞台は廻る』1948を。笠置シヅ子が「ラッパと娘」などを歌いまくる映画です。監督が田中重雄(『永すぎた春』に『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』)で、作曲家役に小津映画の常連斎藤達雄が出ていて、それも興味深かったです。 冒頭にNHKが街頭で市民の声を聴くラジオ番組をやっていて、そこで、古い価値観をしめす作曲家(斎藤)と、その隣人で新しい価値観を示す若い女性(三條美紀)が意見を戦わせる場面が出てきました。戦後の「声」を考えるうえで興味深いものがありました

          『舞台は廻る』

          ヨハンナ・スピリの『ハイジ』

          テレビでヨハンナ・スピリの『ハイジ』1881についての番組をやっていましたが、当時ヨーロッパで著作権に関する法律がそれほど明確に確立していなかったこともあり(1891年が重要な日付となります)、英語などにすぐ翻訳されました。 『ハイジ』を読んで自作に大胆に取り入れたのが、バーネットの『秘密の花園』1911です。テクストを読み替えるお手本でしょう(30年離れているのは案外著作権が絡むのかもしれません)。 アルプスの代わりに、ヨークシャーの田舎(これ自体語り手がロンドンから保

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          「スイスの象徴になった少女 〜“ハイジ”はこうして生まれた〜」

          「スイスの象徴になった少女 〜“ハイジ”はこうして生まれた〜」を。戦後、ナチス・ドイツに協力したスイスのイメージの払拭や観光産業に『ハイジ』が果たした役割が浮かび上がります。小田部羊一たちのスイス再訪を取材し、可能な限り可能性を汲み取りながらも、高畑アニメがスイスの脱色に加担していることを静かに告発しています。 (『赤毛のアン』と同様に)ハイジが児童労働力として売買されている事実を消している点の指摘もありました。スイスのなかでも、フランス語圏では書き換えと続編が作られ、ドイ

          「スイスの象徴になった少女 〜“ハイジ”はこうして生まれた〜」

          世界サブカルチャー史 欲望の系譜「シーズン4 21世紀の地政学 アニメーション編」

          世界サブカルチャー史 欲望の系譜「シーズン4 21世紀の地政学 アニメーション編」を。少々古臭くなったネイピア史観が強いので、異論もありそうですが、それなりにまとまっていました。収穫もいくつかありました。 ベティ・ブープをきちんと扱ったのが重要でしょう。個人的には筒井康隆の最良の仕事のひとつが『ベティ・ブープ伝』だと思います。ディズニーを相対化するのに、フライシャーをもってくるのは鍵で、宮崎駿も含めて影響は大きいわけです。「カワイイベティサン」という絵本が映り、「カワイイ」

          世界サブカルチャー史 欲望の系譜「シーズン4 21世紀の地政学 アニメーション編」

          「こんなところで裏切り飯」の秘書課長

          志田彩良と伊武雅刀とのW主演の「こんなところで裏切り飯」が意外とおもしろい。第1話は松山のグラタンの話だった。 冒頭で「孤独のグルメ」に喧嘩を売ったように、社長と臨時採用の秘書との物語である。描かれるのは祖父母と孫という離れた世代間の関係性であり、「釣りバカ日誌」のスーさんとハマちゃん的な共通の趣味なり事項において、身分や地位を超える関係性を描いている。そこに、ご当地グルメではない料理を挟み込む。グルメに飽きた社長が喜ぶ隠れた料理が紹介されるというわけだ。 となると、二人

          「こんなところで裏切り飯」の秘書課長

          ダンドリドラマとしての「ハコビヤ」

          田辺誠一主演の「ハコビヤ」は毎回のダンドリが決まっているフォーマットドラマのひとつだが、第1話のフォーマット紹介がそれなりに上手く終わった。共演の影山優佳がコメディエンヌの素質をもっているのに助けられている。 『トランスポーター』が切り開いたサブジャンルをどのように展開していくのかが課題なわけだが、今放送しているなかでは、韓国ドラマの『デリバリーマン~幽霊専門タクシー』が、そうした系譜につらなる。第1話でのタクシーが警察と組んで窃盗犯を捕まえる場面など、まさに車のスピードや

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          最近テレビに出てきた建築家(坂倉準三、谷口吉郎、伊東忠太)

          「日曜美術館」で、坂倉準三を特集していた。コルビジュエに学び、渋谷や新宿の駅近辺の風景を作り上げた建築家だった。 鎌倉文華館鶴岡ミュージアムの水面の反射は美しい。これは、故郷から依頼された旧羽島市役所が、周囲のれんこん畑と調和させるために水面を活かすために、反射するための水面を利用するのと通じる。 新宿西口広場の穴の話がとりわけおもしろかった。排気ガスを逃がすために最初は通風塔を建設する予定だったが、坂倉が難色をしめし、小田急の建築部が言った「穴を開けちまえ」という暴論が

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          『仮面ライダーガッチャード』第19話と井上亜樹子

          なるほど、こういう手があったのか、と思わされたのが、『仮面ライダーガッチャード』の第19話「りんねの夜明け!変身・マジェード!」でした。話の展開としては、九堂りんねという裏切り者とされた錬金術師の父の教え(掟とルールの違い)に葛藤する、まじめなヒロインが、仮面ライダーマジェードとして本格的に覚醒変身する大事なエピソードです(映画で一度お披露目してその後封印という商業的理由もあったわけですが)。 ここに井上亜樹子脚本をもってきました。仮面ライダーものに脚本を書くというのは、父

          『仮面ライダーガッチャード』第19話と井上亜樹子

          「#居酒屋新幹線2」と実用ドラマの可能性

          眞島秀和主演の第2シーズンが始まりました。第1シーズンは東北新幹線が舞台でしたが、今回は3月に上越・北陸新幹線が福井まで延伸するのを見据えた話になっています。第1回目が金沢、第2回目が福井でした。 基本的には、隠れた名品の紹介、つまり定番の商品の脇にあったり、地元以外では知られていない商品を視聴者に知らせることが目的です。リポーター役があちこち歩き回る代わりに、主人公を設定して、そこに商品情報を集約していくわけです。そうした場合に、実用本位の「薄いドラマ」をどのように成立さ

          「#居酒屋新幹線2」と実用ドラマの可能性

          篠山紀信と吉行淳之介のヴェニス

          篠山紀信が亡くなりましたが、報道では、宮沢りえの写真集など、社会的に騒動を起こしたポートレートものだけで評価されているのが、いささか気の毒な気がします。磯崎新との建築をめぐる写真集、あるいはシルクロードを旅した「紀行文+写真」という大きな仕事もありました。こちらが本筋のような気がします。 そうしたなかで、吉行淳之介との『ヴェニス 光と影』(新潮社、1980)は写真と文章が乖離しつつ補完しているというなかなか興味深い写真集です。前半に吉行の文章があるのですが、マンの「ヴェニス

          篠山紀信と吉行淳之介のヴェニス

          『シャングリラ・フロンティア』とクソゲーマニア

          TVerにアニメの『シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜』の最新回が出ていましたので、ふと観てしまいました。クソゲーマニアが神ゲー(「シャングリラ・フロンティア」)に挑むが、そのときクソゲーで鍛えた技が役に立つという話で、冒頭部分だけで気になり、視聴を中止し、第1回目から続けて観ました。 もとになったのは、硬梨菜(かたりな)が2017年から「なろう小説」に現在も900話以上連載している作品で、小説の単行本化はされずに、「コミカライズ→アニメ」と

          『シャングリラ・フロンティア』とクソゲーマニア