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RNIB(イギリス王立盲人協会)に行ってきた その2

社会福祉士であり視覚障害リハビリテーションワーカーでもある筆者がイギリスの視覚障害者支援について2018年に視察研修したことを書いています。その3回目はRNIBが実施する多くの事業の中からロンドンの本部で実施しているサービスの中で私が興味を持ったものを日本のことなどいろいろ交えながら紹介します。


Sight Loss Advice Service Calls

対応してくれたのはチームリーダーのHannah Jamesさん。JamesさんにはRNIBでの研修を実現するために大変お世話になりました。

Sight Loss Advice Service Callsとは視覚障害に関する専門的な電話相談サービスです。対応するチームは11名からなり、そのうち7名が視覚障害者。Jamesさんご自身も視覚障害者(sight impaired : partially sighted)です。

対応時間は平日の午前8時~午後8時、土曜日の午前9時~午後1時まで。平日は夜間も、そして土曜午前にも実施していて、働く人など日中に時間が取りにくい人も相談しやすい体制が整っているところに「その悩み、絶対受け止める!」というRNIBの本気度を感じます。

「情報障害者」ともいわれる視覚障害者。では相談者はどうやってこの電話相談サービスがあることを知るのかといえば、通院している眼科からの紹介が主です。相談内容の多くはお金に関することで、日本の身体障害者手帳制度のようなCVI(Certificate of Vision Impairment)の登録をすることで給付金や社会保障手当をどれくらいもらえるかについて情報提供することが多いのだとか。そりゃそうだ。お金、生きていく上でなくてはならないもの。

日本では役所での身体障害者手帳交付の際、詳しい「お金」の話は情報提供されないのが普通です。福祉のしおりを渡されて「詳しくはこの本に書いてあるから読んでね」みたいな。視覚障害者はその冊子の文章が見えないんですけどね。だからといってRNIBのような情報提供してくれる場所を紹介してくれるわけでもなく・・・。ワンストップサービスが理想ですが、それができないならせめてサービスに詳しい場所に確実に繋げてあげてほしいところです。

Sight Loss Advice Service Callsの話に戻ります。このサービスでは他にも法律的な問題解決のサポート、カウンセリング、視覚障害者に対するサービスの紹介等にも対応します。今回特別に実際の電話相談場面を見学させてもらいました。かかってきた電話の相談者は重度視覚障害のある男性(80代)で、主訴は「公営住宅に住んでいるが自宅の照明が切れているため躓き転倒した。役所に交換を依頼してもやってくれないので家に来て電球を交換してくれないか」との内容。うーん、お困りの状況はとても分かるけど・・・。相談担当者は相談者の話を丁寧に聞き取っていましたが、結局RNIBでは対応できない内容だったためその旨回答して相談は終了しました。

Talk and Support

視覚障害者が自宅の固定電話を使って興味関心の合うトークグループに参加して会話を楽しむサービスです。シニアサポートリーダーのJacqueline Bascombeさんからお話をお聞きしました。

これは18年前に始まったサービスでイギリスの電話会社が提供する「電話会議サービス」(※同時に複数名で話せる)を利用しており、通話代はRNIBが負担します。固定電話でのみ参加可能で、音質の問題や通話料の高さから携帯電話での参加はできません。外出することや情報の入手が困難なため地域で孤立しがちな視覚障害者が、同じ障害や目的意識のある人たちと電話でコミュニケーションを図ることで孤独を感じないようピアサポート的な役割を果たしています。

電話でのグループトークの時間は1回1時間で参加者は週に850名。その内訳は男女比が女性64% 男性36%、年齢は21歳~104歳まで!と幅広いそうですが、60代以上の人と白人が多くを占めています。トークグループは参加者の目的別に分かれていて、友だちを見つけるためのグループ、ミステリーや犯罪小説が好きなグループ等、内容は様々。どのグループに参加するかはこのサービスを担当するRNIBのボランティアがニーズを聞き取って調整します。グループの定員は8名で、欠員が出た場合に新メンバーの募集があります。参加者同士が安心して話せるように、トークグループへの参加希望者は事前に ①個人情報保護 ②参加者同士の尊重 ③秘密厳守といった規則への同意が必須です。

電話でのグループトークの際はファシリテーターとして職員や専門的な訓練を受けたボランティアも加わりますが、ファシリテーターは参加者全員が発言できるよう促したり、和やかに話が進むように気を配るだけで会話には入らず原則情報提供もしません。ここはあくまでも視覚障害者が主体的に会話を楽しむ場。トーク中、参加者の中に生活課題を抱えていそうな人を見つけた場合、トーク終了後に職員がその参加者に電話をかけなおして改めて詳細を聞き取ります。そして支援が必要な場合は関係機関に繋ぎますが、本人が支援を必要としない場合はそこで一旦サポートは終了され、本人の同意なしに関係機関に情報を送ることはありません。

特筆すべきグループとして、日常生活に支障が出るほどの視覚障害が生じて間もない人たちだけを対象とした情報交換グループがあります。グループメンバーは眼科にいる支援専門職であるECLO(Eye Clinic Liaison Officer)から紹介を受けた8名です。ちなみにイギリス独自の制度であるECLOについては後日ご紹介します。このグループのトークの実施期間は4週間と、他のグループと違い期間が決められています。そして週毎にあらかじめ決められたテーマの下にグループトークが行われます。テーマは次のとおりで、視覚障害と共に生きていくためのファーストステップ的な内容です。

第1週 自分の眼の見え方や視覚障害について知る
第2週 自立した生活に向けた福祉用具の紹介
     ロービジョンセンターで受けられる支援の紹介
     視覚障害リハビリテーションの紹介
第3週 スマートフォンやパソコンといった利用可能なテクノロジーの紹介
第4週 参加者の地元で利用可能な福祉サービス紹介
     このグループ終了後に利用できるTalk and Supportサービスの紹介


日本ではこのような情報にたどりつくまでに数年かかる人もいます。イギリスのように眼科で医療から福祉への橋渡しを積極的に行うことはとても大事だと改めて感じました。

CYPF(Children Young People Family)

CYPFコーディネーターのTom Nortonさんに話を伺いました。Nortonさんも視覚障害者(sight impaired : partially sighted)です。

イギリスでは健常者と障害者で成人年齢が異なります。一般的な成人年齢は18歳ですが、障害者の成人年齢は25歳と定められているとか。なぜ7年の差があるのかと質問したところ「障害者は大学の卒業など様々なことに健常者より時間がかかるから」と。そのためNortonさんは25歳までの視覚障害児・者やその家族への支援、また視覚障害者自身が成人し子どもを産み育てるようになった際のサポートを担当しています。日本では、例えば視覚特別支援学校の先生と生徒または元教え子の個人的な繋がりの中で、同じようなサポートを受けているような話は聞いたことがありますが、支援機関がこのようなサービスを広く実施しているというのは聞いたことがありません。

CYPFコーディネーターの具体的な仕事内容は、主にRNIBのヘルプラインや眼科のECLOの対応だけでは解決しなかった対象者を引き継ぎ、相談対応や関係機関との連絡調整、各種法律や給付金の申請等に関する情報提供等の支援をします。サポートの対象となる視覚障害児は学習障害や他の障害が重複していることが多く、その場合支援は長期化します。支援した一事例として、学校から「発達障害の疑いがある12歳の視覚障害児でナイフとフォークが上手く使えない子がいるがどうしたらいいか」という相談があったそうです。その子の両親は彼がナイフやフォークを使って自傷行為をするのではないかと心配して積極的に使用練習をさせていませんでした。そこでNortonさんは学校と協力してカトラリーをうまく使えるようになるための支援をし、両親に対してもアドバイスを行い、ADLの向上に繋げました。

イギリスの学校教育は ①就学前(2~5歳)②初等教育(5~11歳)③中等教育前期(11~16歳)④中等教育後期(16~18、19歳)⑤高等教育(18歳以上)の5段階に分かれて行われますが、③中等教育前期 になると学習内容が徐々に高度化するため、教師が重度の視覚障害児に対し、特に数学や化学の授業内容や単語のスペルを教える事が難しくなります。このように視覚障害児の通う地域の普通校だけで対応が難しいケースがあればCYPFコーディネーターに支援要請があるそうです。

日本にも頼れる専門職がいます。各都道府県に必ず1校はある視覚特別支援学校(盲学校)に配置されている特別支援教育コーディネーターです。視覚特別支援学校といっても学齢児だけではなく、乳幼児や成人に対してもイギリスと同様に相談対応や具体的な学習支援をしています。

RNIBのサービスの紹介は次回に続きます。



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