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余生

2月9日恋人が家族になった。
私は死ぬことをあきらめることになった。
生きなければならなくなった。

一晩前、久しぶりに癇癪を起こした。
まるっと1日中怒りに振り回されていた。
ごまかそうと深呼吸しても涙が溢れ、
買うつもりもない商品を小さな画面の中で瞬きもせず約4時間ほど見漁った。
できる限りのことを試したけれど
どうしても何もかもが嫌で仕方なくて、
結局1日中、眉間にしわを寄せていた。
(きっかけは空が青い理由を知ったから)
あぁ、私はとてもくだらない。


そんな私と過ごす彼はせっかくの休日。
申し訳ない気持ちで自己憎悪に溺れる。

お腹が空いたと言う彼はご飯を作ってくれて、
何もできない私を寝かせてくれた。
優しい顔で時々私の様子を見に来ては
小さな範囲に手のひらの温度だけ伝えてくれた。
何故私が怒っているのかを
黙って彼なりに考えていたらしい。

1人ご飯を食べ終わった彼が洗い物を始めた。
その瞬間全てが崩れ落ちて、
私はやめてと叫んだ。
お願いだからやめてと言いながら
私はぼろぼろと眼から怒りを放流した。
彼は「そういうことか、ごめんね今やめるよ」
とすぐに駆け寄ってきてくれた。
俺が用意するのが嫌だったんだね。ごめんね。
泣きじゃくる私を抱きしめながら、
「でもね洗い物も料理も君の仕事ではない。
自分にできる余裕があるから、ただやっただけ。
君ができないからやったわけじゃない。それはわかってくれる?」
そう伝えてくる彼の言葉を聞き、
ようやく怒りが柔らかくなり始めた。

Q.俺がご飯の用意をすることに罪悪感を感じた?
A.お腹が空いている好きな人に自ら料理を作る気力や体力が無い自分が嫌だ(やりたいのにやれない)

答えになっていない下手くそな言葉を彼なりに答え合わせしてくれる。

「謝ることじゃないし、君がやるべきだ・やって欲しいと俺は全く思ってない。君が好きなことを出来るように俺は働いてる。君が無理をすれば、君のやりたい事は進まなくなってしまうから無理をさせたくない。俺がやれることを無理なくやってるだけだよ。」

そんな優しい言葉をもう4年もかけられている。
側から見ればとても幸福であまりにも贅沢だ。
入籍からまだ1ヵ月も経っていない。
その間で何度後悔させてしまったのだろうと考える私に、そんなことを思うことすら失礼だと言う彼が、結婚という契約を利用し体現してくれたのが家族になるという選択だった。

彼に返せれる言葉は毎日できる限り
伝えてきているけれど全然足りない。
入籍という人生のデッカイ節目を迎えてまでも
こんなに浮かれられない人間は稀だろうとさすがに自分でも分かる。
恋人同士ならば解決の手段として別れが近距離に存在しているが、家族という手段で何事もまずはお互いで乗り越える努力をすると言う義務を与えてもらったことに心から感謝します。

私1人では絶対に乗り越えられなかったこと、
乗り越える選択を与えてもらったことは
とても重く果てしなく大きい。 
4年前、彼と恋人にならなければ
私は確実に今生きてはいないと言える。
大袈裟な表現ではなく、言葉のまま、
私は “彼に死ぬことを諦めさせられた“
と感じています。
彼が近くで存在し続けてくれたおかげで私は今、
余生を生きている。

癇癪から逃れられなかった昨日の私、
あんたは幸せすぎるよ。



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