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伝統文化④歌舞伎 今を生きる江戸庶民

通訳ガイドのぶんちょうです。
今日も初心者向け、歌舞伎について私の視点で紹介していきます。

テレビも映画もなかった江戸の庶民は、歌舞伎が最高の娯楽だったわけですが、なぜそんなにハマっちゃたのでしょうか。

きのうの記事に書いたように、舞台演出の面白さがあります。でも、それだけではありませんでした。

歌舞伎のストーリーは大雑把に分けると以下の二つがあります。

時代物 (江戸時代から見た歴史物で、室町時代位までの、主に武家社会をテーマにした話)
世話物 (当時の現代物で、殺人、窃盗などの事件やトレンディドラマ的な話)

現代の人がテレビなどで時代劇やニュースやドラマを見るノリで江戸の人は歌舞伎を見ていたのでしょうね。現代は、限度はあっても基本的には自由に発言できる時代です。しかし、江戸時代は全く違いますよね。

あの封建社会で、庶民に大人気の歌舞伎の演目がノーチェックのはずはなく、当然、内容には幕府の検閲が入っていました。例えば有名な忠臣蔵。これは江戸城内で起きた事件がきっかけで四十七士が主君の仇を取る話ですが、このまま上演すると現政権にかかわることなので御法度です。

そこで時代設定を変えました。江戸時代ではなく、足利時代の話ということにしちゃったのです。さらに、登場人物の名前も微妙に変えています。大石内蔵助くらのすけではなく大星由良之助ゆらのすけだったりと。要は上演しているのは「史実ではなく、フィクションですから」と逃げる方便を作っていたのですね。

江戸庶民は、封建制度の下で忠義のために自分や家族の生活、果ては命までを犠牲にしなければならないこともありました。そのような封建社会に対する怒り、諦め、悲しみの感情が表現されるストーリーに引き込まれ、思うように生きられない自分の姿を芝居のなかに発見して、感情移入をしていたのです。

ふだん窮屈な生活に苦しむ庶民が、今この時を楽しもうと芝居小屋に足を運んだのでしょう。何百年も前から人が演劇を観る理由は変わらないのですね。

そして、やはり今と同じように歌舞伎役者にはファンがつきました。ファン心理として好きな芸能人の写真やグッズを買いたくなるわけで、役者の写真に当たるのが浮世絵。意外に思うかもしれませんが、浮世絵は庶民の手に充分届く値段だったのです。

グッズに当たるのは、それぞれの役者の使った文様ではないかと思います。例えば、有名な市松模様は佐野川市松と言う役者が、この模様の袴を着て舞台に登場してから庶民の間で流行り始めました。役者には役者紋というものがあるので、ファンはお気に入りの役者の紋をモチーフにした着物や小物を身につけることで一体感を感じたのでしょう。

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そんな、ささやかな喜びを見つけて、封建社会の下で、与えられた環境の下で精一杯、楽しみを見つけて生きていた江戸庶民。たくましくて粋だなといつも思っています。


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