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日本文化 ラッシュアワー

通訳ガイドのぶんちょうです。外国人観光客と一緒に行動を共にするのがガイドである私の仕事ですが、ラッシュ時の東京の電車に乗らざるを得ないことがあります。普段あまり電車に乗らない、特に欧米の方々は見知らぬ人と身体が接触するのを嫌がるのでラッシュはなるべく避けるのですが、その日は「それは是非乗ってみたい!」という反応でした。

そもそも、ラッシュ時の他人との接触はすごいレベルですよね。身内でもほとんどない位の接近度です。その体勢で何十分も耐え、電車から降りれば無言でさっと散っていく。車内で、まるで他人の存在がないかのように自分の世界にひたり、無の境地?でいられる日本人は、考えてみればすごいことです。

私も通勤ラッシュを嫌というほど経験した身です。ひとりでも乗客が少ないことを願う時間なのに、観光客も連れて、仕事とは言え何人も乗せこむのは少し気が引けます。ですが、ラッシュも経験したいと言うお客さんの願いを叶えてあげるのも仕事。しかもちゃんと行くべき所があり、ただの冷やかしではないので承諾しました。

たしか夕方の中央線か山の手線。どちらも都内屈指の混雑率を誇る電車です。電車に乗る前、プラットフォームも既に人であふれています。列に並びながら4,5人の外国人家族に向かって、まずは事前説明会です。

「降りる人が先。乗ったら入り口で止まらない。私を見失わないようになるべくひとかたまりでいて。三つ目で降りるよ」などとレクチャー。子どもがいたのでその子にも、怖がらないように言っておきます。私たちには当たり前のことも、ちゃんと言葉で説明しないと後で大変なことになるのです。

そうこうしているうちに、大音量のプオーンという音と共に電車が入線してきました。子どもはその音に体をびくっとさせていました。この音にも慣れていなければ当然です。大人はすでに、ジェットコースターに乗る順番が近づいているかのように、はしゃいでいます。

私は大丈夫だろうかと心配しつつ様子を見守ります。そして、ちゃんと教えた通りに前の人について乗り込んでくれました。車内はぎゅうぎゅうでしたが、ひとりはスマホで自撮りをしながら、車内の様子を自分の国にいる友人に実況で見せながら、ほーとかひゃーとか言って楽しそうに笑っています。

毎日の混雑でうんざりとした表情の通勤客に心の中で謝りながら、2-3駅の短いラッシュ体験を無事終えました。降りたあとは大満足で、「ああ面白かった。いい経験だったよ!」ラッシュアワーのこと、一度でもいいから、そんな風に言ってみたいわ。

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