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失恋が暑さでごまかされた話

失恋というほどのものではないかもしれない、というかそう思いたい。
でも少し、ちゃんとへこんだから、失恋に分類しようと思う。

大人になってから、余計臆病になってしまった。自分の感情を飲み下すことも、上手に言葉にして相手に伝えることも、子どもの頃のほうがまっすぐにできていた気がする。
できなかったときも、できない自分にきちんと傷つくことができていた。
ここまで続いた足跡を否定したくないけど、虚しさで消えたくなる時がある。

すきかもな、いいなと思っていた人が結婚した。
無粋な趣味はないから、これで完全にその人と結ばれる未来はなくなってしまった。もともとゼロに近い可能性が消滅したことに、へこんでいる。

涼しいところで彼について考えていたとき、用事をこなすために、暗い気持ちのまま外にでかけた。
自動ドアをくぐって、笑ってしまうくらいの暑さを食らった瞬間、遠くの陽炎が目に飛び込んだ。

夏だ、と思った。

私が大好きな夏だった。
それに引っ張られる形で、水分が欲しくなるあの感覚だけが私の体に張り付いた。ほかのことはもう頭をよぎらなかった。この感覚に私は気づかないうちに何度も何度も救われてきたことを思い出した。

なくならない食欲に、私らしいなとも思ったけど、他のことを考えられないくらい重たくへばりつくこの暑さも、私の救いだった。
この夏が終わるくらいには、きちんと受け止められるようになれていたらいいなと思う。





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