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踊れないけど指揮ならできる

私が音楽をどう捉えているか、というのを見える形にしたかった。
自分が考えていることを言葉で伝えるのは苦手だけれど、音楽を聴いて私が感じたことを誰かに伝えたいと思ったから。


最初は絵を描こうとしたのだけれど、致命的なことに絵を描くことが好きじゃなかった。
当然下手だし、上手くなるための練習自体が苦痛だったので、絵で表現するのは諦めた。
また、静止画で表現できるのはその瞬間の和音までで、音楽の魅力であるドラマ性、変化、流れが失われてしまうように感じたことも理由だった。

では動画ならどうだろう。
ちょうどMMD(Miku Miku Dance)で音楽に合わせてキャラクターを踊らせるのが流行っており、イメージはしやすかった。いろんな人がいろんなアイテムを配布しているので、絵も描かなくていい。
しかし既存のキャラクターに既存のダンスをさせるだけでは物足りず、かといって自分で3Dモデルを作って動かすのは時間がかかりすぎるため、やめてしまった。エフェクトのことが何もわからなかったのも敗因だ。
また、指先だけで表現を作るというのがしっくり来なかった。
このあたりで自分のやりたいことが「出来上がったものを見たい」ではなく「どう捉えているかを体を使ってリアルタイムで表現したい」だとわかってきた。

歌ってみるのは?
これは楽しかった。でも思っている感じにならない。声が生真面目過ぎるのだ。言葉を音とリズムにのせるだけで満足してしまって表情までついていかない。
あとインストゥルメンタルに対応できない。


そうして悶々としてる時、女王蜂の「金星」のMVを見た。


それっぽい感じになら私でも真似できる動きだ。でもそれをあんなに生き生きとした表情で、全身から喜びと生命力をあふれさせてやっている人を見たことがなかった。アートとは違う、生の感情表現の一種としての踊りだ。

「あれがやりたい!」と強く思った。そうか、私は踊りたかったのだ!

何度も何度もMVを見た。ただ、そこからどうも体が動かなかった。当然だ、私には踊りの素養がない。アヴちゃんの動きを真似しても、それは私の感じているものの表現にはならない。
まったく体は動かず、動画を見ては気持ちばかり高まり、いよいよどうしようもなくなったとき、手が動いた。

音楽に合わせて腕を動かす。
正面を向いて拍を取るだけじゃなく、全体の調和と目立ってほしいパートを意識して顔や体を向けながら盛り上がりや雰囲気を表す。片手で拍を取りながら、片手で音を切るタイミングを示す。
そういえば、吹奏楽を部活とアマチュア団で7年ほどやっていた。部活の練習の中で指揮をすることもあった。マーチングもやった。合唱祭が毎年あった。オーケストラの演奏をテレビで見ることもあったから、プロの指揮だって一応知っている。
踊りのことはわからないけれど、指揮ならけっこういろんな形を知っているのだ。
だんだんノってきて、表情もついてくる。
この音楽を通して私が見た人は、こんな顔をしていたはずだ、と。

やっていくうちに、これまで以上にその曲のことがわかってくる。あちらを目立たせながらこちらにも動いてもらう、ということを意識するからか、「どこで何が起きているか」、つまり「どこでどんな音が鳴っていて、それがどう影響しているか」が感じ取れるようになってくる。
指揮を振って初めて気づくことも多い。聴いたものを譜面に書き起こせる能力があればもっと良くできるかも、と思うくらいだ。

良くしたい、という気持ちはあるものの、実はまだ自分が指揮している姿を鏡などで見たことがない。恥ずかしくなってやめたくなったり、カッコつけようとして動きが固くなるのが嫌だからだ。
最初は「誰かに見せたい、伝えたい」から始まったことだけれど、今は誰にも見られずに表現することを楽しんでいる。
いつか、音楽に合わせて踊るように指揮をすることが自分の中でもっと自然になったら、今度こそ人に伝えるための手段にしていけたらいい。

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