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手紙とコロナとレトルトカレーの話。②

【#手紙とコロナとレトルトカレーの話。】
②誰かにもらったりあげたりした日の話

白状してしまうと、今年の春先、僕はけっこうやさぐれていました。

コロナ禍が長引き、いい加減擦り減っていたのもありますが、輪をかけて気持ちをどんよりさせているものがありました。
「時短協力金」というやつです。
時短要請に伴い、夜の営業を短縮や休業した分だけ、都や県から財政支援が得られますが、あくまで「夜の営業時間を短縮したお店」が対象なので、ランチ営業だけのお店はもらえません。
完全に自業自得なのですが、ランチ営業のみだったうちのお店はカスリもしませんでした。

「大手居酒屋チェーンが30億円以上の協力金を得て大幅黒字回復」
「税金対策の為に高級車を購入するオーナーが急増」
なんていうニュースを見ると、どうしようもなくやりきれない気持ちに襲われました。


あれだけ動いたのに、報われないなぁ。
毎日狂ったように駆け回って、遅くまで頭を抱えていたのが、なんだか馬鹿みたいだなあ。


自分の汚い部分をさらけ出すのは恥ずかしいですが、この時期、僕は結構女々しくやさぐれていました。
この時期、夜訪ねてきて「生きていてしんどい」「自分のことが好きになれない」という相談をくれる常連さんや学生さんが増えてきて、そんな人たちは決まって「らじくまさんはいつも挑戦していて自分みたいな人間とは違う」と言われるのですが、一皮剥けば裏側はこんな程度の人間でした。
毎晩恐怖に震えながら寝ていたし、毎日の営業で、自分が心からお客様に笑顔で接していられるか全く自信がありませんでした。

そんなある日のこと。
お店に来たお客様が、お会計の時にスタッフに何かを手渡されて帰って行きました。
夜、仕事を終えた後に営業終了後にいただいた封筒を開けると、手作りのお菓子と一緒に応援のメッセージが書かれたお手紙が出てきました。
「いつもお店に行くと感動していて、何かお返しがしたいのでお菓子とハンドクリームを入れました」という内容でした。
お礼のDMを送ると、誰もいない店内でちょっとだけ泣きました。

前にどこかで書いた気がしますが、僕はサラリーマン時代に勇気を出して参加してみたカレーフェスで「人にカレーを食べて喜んでもらう」ことに感動してカレー屋になりました。
「人に何かを届ける、渡す」ためにカレー屋になったのに、コロナが流行して、毎日毎日大変な日々を送るうちに、いつしか自分が「何かをもらう」ことや、「何をもらえていないか」ばかり気にしていました。
初心を無くしていたつもりは無かったのに、生きていくのに必死で忘れていました。「何かお返しがしたい」という一文を見て、初めて気がつきました。

前にも書きましたが、僕はずっと
「コロナがあったからできなかったこと」
「コロナがあったからこそ生まれたもの」
を探しています。
僕は、「あげること」、「渡すこと」を無くしていた気がします。
まずそれらを取り戻して見ようと思いました。

自分が渡せるものはなんだろうかと考えました。
経営的にはまあまあ死にかけてるので、お金を誰かに渡すとかはちょっとしんどい。
朝から晩まで動いているので、時間をたくさん割いて何かのお手伝いをするのもちょっとしんどい。 

現状、僕が人に渡せるものは
「カレー」と「レシピ」と「お店の場所」でした。
経営者としても料理人としても狂った選択肢なんでしょうが、まずこれらを片っ端から人に渡すことにしてみました。

「レシピ」は、毎週火曜に週替わりカレーのレシピを公開し始めたのに加えて、色々なプロのお店のレシピを公開するアカウント「セルクル」を立ち上げました。
色々なお店が協力してくれて色々なレシピが公開され、かなりの人が自粛期間中に活用してくれて、中には「カレーが苦手だったうちの娘が、公開されているレシピで作ったら完食した!」というようなお声も届いて、「ああ、こういうののためにカレー屋になったんだよなぁ」と思いました。

「カレー」については、2020年に発売したレトルトカレーがたくさんあったので、とりあえずいろんな人に送ってみることにしました。

遠く離れた場所に就職した大切な人に送ってみたり、

以前食べに来てくれて、うちのお店を紹介してくれたアイドルの方(ファンの方々がめちゃめちゃ来てくれる)のグループ事務所と連絡を取って、お礼の手紙をつけてレトルトカレーを送ってみたり、

病院で働く常連さんにお願いして、コロナ禍の最前線で働いてる医療関係者の方にレトルトカレーを差し入れさせてもらったり、

近年ではほとんど報道されなくなっている東北の被災地の方に、レトルトカレーを送ったり。


「場所」についてはいちばん簡単で、「お店を誰かに使ってもらう」ことにしました。
活動場所が無くなっている学生団体に、お店を提供して新歓やミーティングの場に使ってもらうことにしました。

列挙するとなんだかまるでめちゃめちゃ社会貢献している良いやつみたいですが、全部
「自分がコロナで無くしていたものを取り戻してみよう」
ということを片っ端からやっているだけで、加えてたまに見返りに黒ウーロン茶を要求してたりするので(痩せたかった)、「俺、いいことしてるぜ!」みたいに発表するのはとんでもなく後ろめたくて、今日まであんまり声高には言ってきませんでした。

お礼のお手紙をいただくことも増えました。
全く縁もゆかりもない遠方の方や医療従事者の方がレトルトを食べている写真を見た時の心境は、「国からお金がもらえない!!」ってやさぐれていた時には全く無かったことでした。

同時に、探していた
「コロナがあったからできなかったこと」
「コロナがあったからこそ生まれたもの」
の答えが見つかったような気がしました。

「人に渡すもの」です。
曖昧すぎて具体的には全くまとまっていませんでしたが、とりあえず「人に渡すもの」を作ることにしました。これがコロナを乗り越えうるものの根幹になる気がしていました。

③「誰かを応援するということを勉強した日」に続く。

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