フィルムカメラと行く熊野の河と海-NikonF2
もう12月も中旬になり、今年も残すところ2週間となった。来週からは2024年の振り返り記事となるため、通常のblogは今年はこれで最後となる。これまではひたすら白黒の写真ばかり投稿してきたので、もはや白黒の人になっているかもしれない。そんなこともあり(?)、今回は久しぶりにカラーネガでの投稿となる。
ちなみに今回は動画版としてYoutubeにも上げてみた。こちらもぜひ。
実際に出かけたのは11月の末。大阪から熊野は遠いので朝の3時に起きて3時半には出発するようにした。南阪奈道路で橿原まで向かい、24号線で南下。五條まで抜ければ後はひたすら168号線を南下していく。誰もいない山奥の国道をヘッドライトのみを頼りに進み、いくつもの橋とトンネルを越えて広大な十津川村を縦断する。3時間ほど走ると本宮大社の手前まで到着し、しばし別の写真を撮ってもう一度出発する。
予め買っておいたフレンチトーストを道の駅でササッと食べたら、残りの国道168号を消化しにかかる。
168号は五條の天辻峠を越えてからずっと十津川の渓谷に沿って付けられており、岸壁を上がったり下がったりしながら進んできた。十津川村への唯一のアクセス路である168号は元々は酷い道でこれまで積極的に改良されてきた。しかし、それでも未開両区間が多く残り、屈曲した道に狭いトンネルがいくつも間に挟まっている。しかし、それも本宮大社を過ぎれば終わりを迎え、ここからは快適な道が続き道路の終点は残り僅か。
ともに旅を続けてきた十津川も始めは谷を深く刻んだV字谷で小さな川であったが、ここまでくればかなりの大河である。山を隔てて東側には相棒の北山川が流れており、これを合わせて熊野川となる。
熊野川は晴れていれば、水はエメラルドグリーンに見え、盛夏の強力な太陽光の下では緑を通り越して着色したのではないかと思うくらい分かりやすく水色に見える。今回は時間に余裕があるので、安全なところに車を止めて河原に降りてみることにした。
まだ時間が早いため太陽の方を見れば川面がキラキラと光っている。
橋脚を守るための根固めブロック。すぐ手が届きそうな距離であるが、河の水はエメラルドグリーン。十津川も北山川もどちらとも流域に目立った市街はなく、上流に川を汚してしまう人間はあまり住んでいない。さらに、険しい山岳地帯を抜けてくるので岩石中の鉱物が溶け出し、その粒子に光が反射することで独特の色を作り出している。
北山川との合流点に向かって少し歩く。
左から北山川が注ぐ。北山川も十津川と同等の川で、ここから水量は一気に2倍になる。
これ以上は先に進めないので橋に戻る。今度は橋の上から上流を見てみる。広々とした谷底を大きく使って川は流れる。
橋の上から眺めたら車に戻ってさらに下る。しばらくは狭い平野の高架道路を快速でもって下るが、すぐに道路は断崖にぶつかる。しかし、岩に負けることなくトンネルで貫き、川を短絡する。そのまま川沿いを止まることなく進むと最後にまた山が見え、川は大きく左へ逃げていくが、国道はそのまま尾根を貫き新宮の市街地へ到達。長かった168号の旅もここで終了。橋本の交差点を左折して国道42号に乗り換える。大きな橋で熊野川を渡り、河はそのまま海と出会う。海に入れない私は別れを告げて北上する。
42号線を半時間ほどかけて北上し鬼ヶ城手前の獅子岩の近くに車を停める。護岸を乗り越えると押し寄せる波の音が轟いていた。
熊野灘は外洋に面しているため、いつもの日本海に比べて大きな波が押し寄せる。波の近くで写真を撮りたいのでギリギリまで海に近づく。ファインダーを覗いていると、気づいたら波がそこまで来ており、慌てて逃げるが後ろ歩きであるため逃げ切れない。つま先が何度か洗われ、諦めて退散。防水スプレーを振っていて良かった。近づけないのでレンズをいつもの50mm単焦点からAi Nikkorの135mm f/3.5に変更。
光学の力を借りて海を一気に引き寄せる。さっきまでは波にびくびくしていたが、これなら安全だ。波が一番大きく立つところを探し、背景を決める。コビトなら入れる小さな波のチューブができていた。
今さらではあるがフィルムはkodakのProImage100。プロ用にしては安くて使いやすい。晴れていれば感度100でも十分にシャッタースピードは速められるので波も静止させられる。
浜辺の石。少し古さを感じるが、ボケ味は滑らか。この135mmレンズは開放が3.5であるためか、非常に廉価で私は3000円で購入した。135mmはスナップするには十分な望遠で、意識の中心部分だけを切り抜ける。あまり意識していない部分は捨て去り、本当に見たいところだけを記録する。そうすると135mmは非常に便利で楽しい。
これくらいで七里御浜を後にして鬼ヶ城へ。
木本港の波止には浜が直に付いているような形をしており、波が入ってくると非常に面白い動きをする。右側から入ってきた水は一度湾の奥まで入り、左側の角に水が集まる。行き場を失った水は手前の砂利を波を立てて浚いながら再び外洋へと逃げていく。これをひたすら繰り返していてずっと見ていられる。
波止をもう少し進めば山の麓に鳥居が見える。この鳥居を潜って階段を上がる。そうすると港を上から眺められるようになり、鬼ヶ城独特の荒涼とした景色を楽しめる。
鬼ヶ城にはいくつものこうした波に削られて形成された波蝕洞がいくつも連続しており、高いところに位置しているもの、比較的海岸に近い場所に位置しているものなど様々である。天井になっている部分はどれも黄色みがかっており、岩の表の部分の赤茶けた色とは程遠い。表面を撫でると砂壁を触った時のように砂がさらさらと剥がれ落ちる。
足元に目を移してみてもいくもの穴凹が空いており、波によって表面が侵され続けている様子がよく分かる。そうしたことから私は砂岩か凝灰岩というところまでは岩質を特定できたのだが、ネットで答えを探していると凝灰岩であるという意見と火成岩の一種である流紋岩であると言う意見に二分されていた。確かに花崗岩が風化すると石英がカオリンという砂粒のような物質に変化し、ポロポロと崩れるので似たような形状になるのかもしれない。
鬼ヶ城の北側では水に土地が沈んでできる沈水地形の代表格であるリアス式海岸が見られ、南側では隆起してできる離水海岸となっている。ちょうどその間になっているので地質も難しいのかもしれない。
地面は平らになっており、平らな部分が階段状に海まで続いている。実際に歩いているときはこのことにあまり気を留めなかったが、後で調べてみると激しい隆起活動があった形跡で平らな部分が昔海底だった部分のようだ。
あまりこんな眠くなるような話ばかりしていると読者に飽きられてしまうので地理や地学の話はここまでにしておく。
夜通しで走ってきて朝早くから活動しているとは言え、かなり遊んだので時刻は12時になってしまった。行きしな、五條のコンビニでパンを買っていたので、岩の陰に隠れて食べることにした。別にやましい事があるわけではないのだが、当日は風が強く、しかも海からの風をまともに受けるのですぐに体が冷えてしまう。そういう訳で風を避けるために岩陰に隠れて昼食とした。
しばらくまったりしたら引き返す。帰りは割とさっさと車に戻った。実は大阪に帰ってからも予定があるので、秀吉の如く引き返さねばならない。港に停めた車に戻り、鬼ヶ城の東口にあるトイレに寄っておきたいので一度観光施設に向かうことにした。
鬼ヶ城を車で越えるには一般的には国道42号の鬼ヶ城トンネルを使うのだが、私は横にある旧トンネルを使うことにした。
お目当てはこれ。レンガ積みのポータル。現在は鬼ヶ城歩道トンネルという名称になっているが扁額には木本隧道と書かれている。大正14年に開通したトンネルらしく伊勢参りからさらに足を伸ばして熊野へ参る熊野古道伊勢路の一部として三重県によって整備されたものらしい。(土木学会HP)
抗口付近にはレンガもしくはコンクリートの覆工がなされ、中央部はモルタル吹き付けのみとなっている。整備は行き届いており、トンネル内は十分明るく吹き付けのモルタルも白く清潔感があって古いトンネルであるが不気味さは一切感じなかった。歩道トンネルとは書かれているが、自動車も西側から東側への一方通行であれば通り抜け可能である。歩いた方が楽しいのは間違いないが、面倒な人は車でどうぞ。
トンネルを出たらすぐに42号に復帰し山へ向かう。運の悪いことにものすごく遅い車に捕まり時間が止まったように感じた。しかし、すぐに紀勢自動車道の入り口に逸れてくれたので私の前に車は居なくなった。あんな速度で暫定2車線の高速を走られたら、さぞ辛かろうと少し同情した。
そこからはひたすら一人で北上する。紀勢自動車道は国道42号のバイパスとして整備されて無料なので誰も元々の42号を使わない。カーブも多く登りも急であるが、非常に快適であった。快調に進み、すぐに国道309号の終点である小阪交差点に到達。左折して北進を継続。大又川に沿って進むとすぐに左から国道169号が合流してくる。ここから吉野まではひたすらこの道をゆく。
隣を流れる大又川は気づけば湖になり、道の両側を湖に挟まれていた。密かにお気に入りの場所なので一度車を停める。
少し色づき始めていたがまだ早いようであった。
日の力は弱々しく寒いので車に戻る。ここからは紀伊半島の険しい山道をひたすら北上するのみ。上北山村で睡魔に襲われて仮眠し、そこからは真っ直ぐ帰宅した。
その後家族で御堂筋のイルミネーションを見に行き、帰ってから現像したので寝たのは深夜2時になってしまったのだが…
かなり長くなってしまったが、今回の小旅行のレポートは以上とする。これで今年の長距離移動は終わりだと思う。熊野は関西からでも行きにくく他の地域からだとかなり難しいが、温暖かつ穏やかで歴史も深い非常に良い所である。人も多すぎず、喧しく雰囲気をぶち壊す外国人観光客もいないので、静かで計画も立てずにしっとりとした旅行を旅行をしたいのであればうってつけである。近いうちに再訪したいと思う。
それでは今週も皆様にとって良き週末となりますように。
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Webギャラリーをやっています。機材の紹介やら白黒のスナップ写真をエッセイ風にまとめたものを掲載しています。ぜひご覧ください。
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冒頭にもご紹介しましたが、今回の記事の動画版です。